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冷酷宰相は私だけを甘やかす  作者: 絵宮 芳緒
歪んだ家族

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第1話|ヴァネッサの裏社会の影

朝の光が屋敷の廊下に斜めに差し込む頃、ヴァネッサは書斎の扉の前に立っていた。


上質な黒のドレスは、長い黒髪と深緑の瞳に完璧に映える。


所作は滑らかで、まるでこの屋敷で長年仕えてきたかのような自然さだ。


「伯爵様、お目覚めの頃でしょうか」


声は柔らかく、丁寧。

誰もが安心して耳を傾けるような魔法のような抑揚を帯びている。


だがその奥には計算された響きが潜み、父の注意を自然に引きつける。


ヴィクトルが机の書類に目をやる間、ヴァネッサの視線はふと窓の外を流れる光に向く。


窓の向こうに、寝室の窓からは庭を見下ろすアデリーヌの姿が見える。

以前よりも細く弱々しい背中が、朝の光に淡く浮かぶ。

呼吸は浅く、少しずつ力を失っていく。


ヴァネッサの瞳が一瞬光る――計算の色も、ほのかな毒の匂いも、誰にも察せぬように。


「伯爵様、本日の屋敷の運営に問題はございませんか」


秘書としての声に、微かに官能的な余韻が混じる。

ヴィクトルの目には安心感しか映らない。



書斎を出たヴァネッサは、廊下を静かに歩きながら若い使用人たちに指示を出す。


「その絵画の配置、少し直しましょうか」

些細な指導に見えるが、微かな威圧と制御の気配が混じる。


誰も気づかないが、屋敷の空気は確実に変わり始めていた。



その途中、リリアーナとすれ違った。

18歳、母の病を案じながら廊下を歩く彼女は、少し大人びた雰囲気を漂わせる。


胸元のペンダントに目を落とした瞬間、ヴァネッサの視線がぴたりと止まる。


「……珍しい宝石ですね」

小声で呟く。


リリアーナは気づかず、首をかしげるだけ。


しかし、このさりげない一言が、後の運命を繋ぐ布石となる。





ヴァネッサはリリアーナをやり過ごし、書斎へ戻る。


夕刻、ヴィクトルと二人きりになると態度はさらに変わる。


柔らかく、けれど危うい色気を漂わせ、父の注意を巧みに引きつける。


「本日の屋敷の運営に、何か問題はございませんでしょうか、伯爵様」


秘書としての完璧さの裏に潜む毒――


ヴァネッサがヴィクトルの首に腕を回す。

そのまま、ヴィクトルがヴァネッサの腰を引き寄せた。


屋敷の空気の一部は、静かに、そして確実にヴァネッサの思惑に支配されていった。


まるで、静かに毒をように――。




ヴァネッサはヴィクトルの書斎を後にすると、屋敷の奥まった小部屋へ足を運んだ。

そこには、かすかに燭台の光が揺れているだけ。


壁際の机に向かい、慎重に封筒を取り出すと、内側に封じられた伝言を書き込む。


――アデリーヌは予定通り、徐々に体調を崩しております。

小さな調整で十分。気付かれることはありません。


書き終えると、ヴァネッサは裏口から外に出て口笛を吹く。

連絡役の影が、静かに茂みから現れる。


「ボスに報告よ」

低く抑えた声。

ヴァネッサは微かに微笑む。


「順調に伯爵夫人の状態は、進んでいるわ。我々の思惑通りに……」


その瞳の奥に、計算と快楽が交錯する光。


表面は完璧な秘書であり、裏では裏社会の指令を確実に伝える存在。


そして、誰も知らないところで、伯爵夫人の体に微かな変化をもたらしている。


「次の指示は?」

影の男が問う。


ヴァネッサは封筒を軽く握り、毒にも似た微笑を浮かべた。


「状況は見守るだけで十分。必要な時だけ介入する――その時が近いわ」


そう告げると、来た道を静かに戻り、ヴァネッサは屋敷の闇に溶けていった。


その一歩一歩が、屋敷の奥深くに、静かに毒の連鎖を刻んでいった。

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