第四話『変動』
「お父様、どういうことですか?説明してくだい。」
「え…えーっとだな…その…」
グランパ…ユニコ叔母さんに説教をされている。
「いくら村の中だからと言って鋭い石が転がっていたり、雑草が茂っていたりしますよね?もし、踏んづけたり、誤って、手を切ってしまったりしたらどうするんですか?」
「そ…それは…」
グランパ…狼狽えている。ぐうの音も出ないと言ったところか。
「今後そういうことがあれば、しばらくあの子との接触を禁止することになります。いいですね?」
「…分かった…もう二度とせぬ…だから…」
(グランパ…俺のせいで…!グランパはただ俺に自由を教えたかっただけなのに…!)
「な…なぁユニコ…許してやってくれないか?父ちゃんも悪気はなかっただろう。それに、子供は元気であるべきだろ…?」
伺うようにジス(母さんだと味気ないので名前で呼ぶことにした)は言う。
そうだ母さん!もっと言ってやれ!
「えぇ、そうです。元気であるべきなので、決して怪我なんかさせてはなりません。」
ジスはうつむき黙りこくってしまった。完ペキな論理の前に敗北を喫したのだ。顔を上げ、グランパの方を見ると「救えなかった」という顔をして「見てられない」と目を逸らす。
これから拷問でも始まるのか、グランパの顔はみるみる内に青ざめていく。
ユニコ叔母さんがグランパの首根っこを掴むと、グランパは悟ったような顔をして部屋の外へ引きずられていった。
そののち、叫び声がだけが廊下に響いた。
あの人に逆らったらこうなる、震える空気と肌身で感じた。
「ルル…聞いちゃダメだ…」
ジスはぎゅっと目を硬く瞑りながら俺の耳を手で塞いだ。
* * *
(よし…誰も見てない…あの方もいない…今度こそ…)
俺はグランパから見て学んだ忍び足で玄関へと忍び寄った。この前はここで捕まったからな…そーっと内と外を仕切る暖簾をズラす。
思ったより重いな。だが油断してはならないまずは顔だけを出して────
(ん?あれはグランパ…?それと………誰?)
顔だけを出して辺りを偵察すると、遠くの方にグランパと今の俺よりひと回り、いやふた周りは大きいだろうか、その位のナスビのような黒紫の髪の子供が手を繋いでいた。
(ま…まさか従兄弟…!?)
ユニコ叔母さんの子供か?でも髪色が全然似ても似つかない…。
マズイこっちへと向かってくる、戦略的撤退だ!
俺はすぐに玄関から居間へと駆けて戻った。
* * *
座っている。
先ほどの子供が居間で正座をして座っている…。
というのも、このグランパの親友の孫で、孤児であるという。その親友と、「もしこの病に斃れたのなら、この子を引き取れ。」と約束していたそうだ。
つまり、今日からこの家の養子となる。
とどのつまり、今日から俺には義兄弟ができる、そういうことだ。
「ダニエロ、挨拶はできるか?」
「はい、ダニエロと申します。これからよろしくお願いします。」
3歳くらいか?それにしてはとても礼儀正しい。
「あぁ、よろしく。私のことは母さんと呼べ。」
「はい、母さん!」
理知的だな。
「よろしくね!私のことは…どんな呼び方がいい?」
「じゃあ…お母様でよろしいでしょうか?」
「もちろん!」
「お母様!」
ホントに3歳?賢過ぎないか?
「ダニエロは本当に賢いのぅ、一昨年産まれたから…2歳か、ちょうどルロルフの一個上じゃな!」
に…2歳!?嘘だろ!
2歳でこんな受け答えできるハズがない…!
でもグランパがそう言ってるしな…。
そんなことを考えていると子供…ダニエロがてくてくとこっちへと歩いてきた。勝手に男性かと思っていたが、近くで見ると女性的な顔立ちだ。この年じゃ顔で性別なんか判別できないか…。
ダニエロは座っている俺に目線を合わせるため、屈んで、
「よろしく。」と言った。
負けてられないな。
「よ、よろしく…おねがいします。」
どもってしまった。声帯がまだ発達しきっていないのか、久し振りに話したのもあるだろう。
「おぉ!ワシの孫たちは賢いのぅ!」
ダニエロはそれを聞くと、訝しげな顔をした。何に対してかはわからない、だが、何かを蔑むような目に変わった。
知っている、これはゴミを見るような目だ。齢2歳の子供がしていい目つきではない。
「そうだな、せっかく家族が増えたんだ、今晩はご馳走にするか!」
「やったぁ!何にするんですか?」
わざとらしくそう言うと、ダニエロは何事もなかったように笑顔に戻り、踵を返しゆっくりと歩いて行った。
(振る舞いといい、さっきの眼差しといい…まさかコイツ…俺と同じように地球から転生してきたんじゃ…)
『22から9を取る件』の回答中にも関わらず、乱雑に新たな問いが投げかけられた。




