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新訳世界のリフレーン  作者: Knyth
第一章 流水の村
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第一話『第2回々帰』

 ────,────,────。


 ────,────,────。


 真っ暗だ、新月のせいだろうか。

 浮遊感だ、水中にでもいるのだろうか。雪崩に巻き込まれたらこんな感覚なのだろうか、重力が分からない。あの大雨で流されてどこか深海にでも沈んだのだろうか…。



 そんなワケある筈が無い。



 雪崩に巻き込まれた時の対処法:唾を出して重力を確認する。この時の為に俺は雑学を蓄えてたのさ!

 口を空け…おえっ、水が口に入ってきた。TPOで役に立たない雑学もあるのさ。


 それより、溺死まっしぐらじゃねぇか。クソ!どこか出口はねぇのか!!空気吸わないと死ぬ!!!

 重力も分からず進むのは悪手らしいが、これしか方法が無いので仕方がない。


 脚と手を伸ばす。壁?四方八方にある。下水管か何かの中になのか?

 とりあえず進める方向に進むしかない。いや、右手の法則?逆走しないかそれ。

考えを巡らせる内に水が流れが感じ取れるようになってきた。下水の暖かみに感謝だ。



 流れはこっち側か…つまりこっち側に突き進めば────!!!



 視界が鮮明な緋色に染まる。血!?血液!?そりゃあ下水には身体を切るような物がたくさん…せっかく溺死の窮地を乗り越えたというのに踏んだり蹴ったりだ。

 今思えばいつもそうだった。一難去ってまた一難、それが去ってもまた一難。()()のワンコ蕎麦だよって。


「おぎゃー!ほぎゃー!おぎゃー!」


 思わず赤子の様にみっともない声で泣いてしまった。そういえば声を出して泣いたのはいつぶりだろうか。新生児以来かも知れない。

 分娩室でよく聞くやつだ。まぁ分娩室には新生児の頃以来行ったことないんだが。


「──、───────!」


 冷静になって考えてみれば瞼を閉じているのに血の色なんて見えるハズ無かった。


 瞼をそっと開ける…開けると……開かない。


 こりゃあ、瞼の筋肉が切れてるな、そうに違いない。ただ、痛みはまったくもってといい程ない。

 こりゃあ、完全に麻痺してるな、そうに違いない。


 凍傷で感覚を無くしたか?


 まぁいい、生きてるからいいんだ。


「───、────。」


 なんだ?近くに人がいるのか、先程からぼんやりと声のようなものが聞こえている。鼓膜が破れているのか、耳が詰まっているのかよく分からないが、とりあえず聞き取れない。


 なんだ?口が吸われてる?人工呼吸か?ありがたいが逆だろ、テンパり過ぎだ。

 かと思えば水を吸い出してくれていたのか、息がしやすい。テンパり過ぎていたのは俺の方みたいだ。まさかファーストキッスがこんな形になるとは…。


 そういえば、感覚を失うほどの凍傷なのに不思議と暖かさを感じる。

 下水は暖かいにしても、冷覚と痛覚だけが綺麗さっぱり消え失せたってか?そんな都合のいいこと起こるわけないよな。

 そんな事はさておき、とりあえず失われた聴覚を取り戻さなくては。


 濡れた子犬のように頭を振る…振ると……振れない。


 半身…全身麻痺か何かか?冗談キツいぜ…。リハビリ頑張らないとな。となるとしばらくリハビリセンター暮らしか、仕方ない。自分で撒いた種だ。自業自得というヤツだ。


「と──でおく─、こ──のな──き─って──です─?」


 あ!!!耳に水が詰まってる時に抜けそうで抜けないヤツだ!!!頭を傾げながらよく跳ねて『マサイ族』なんて冗談を言っていたな。

 到底マサイ族の跳躍力には届かないのだが、昨今のSNSでそんな事言ったら、「人種差別!レイシスト!」なんて言われて炎上しかねないがな。本当にすぐ燃える。どんな温度してんだって。

 全身麻痺で感覚も消えているというのに、何とも呑気な。悪い癖が出てしまった。


「そうだな…決めた。」


 鮮明に聞こえる。おい、水が抜けたぞ!!!


「この子の名は…」


 名前?とりあえず透き通るような、とても落ち着くいい声だ。


「この子の名は…ルロルフ。22番目の子だから下一桁取ってルロルフだ!」


 22ならどっちを取っても変わらないだろうに。

 ツッコむべきはそこじゃないな、2からどう取ったら()()()()になるんだ?


「いい名前ですね!へその緒切りますね?」


 へその緒?おめでたみたいだな。溺死しかけの人がいる隣で?優先順位…トリアージ?知らぬ間に被災していたのか?じゃあここは避難所?疑問は深まるばかりだ。


「ジリッ」


 ん?微かに腹のあたりに伝わる振動が。


「ジョリッ!」


 うわっ!なんだこれ!ケーブル?脚に垂れ下がってきたぞ!点滴?俺は今そんなに深刻なのか?


「切れました!」


 ん?いやまさか。だが点と点が繋がって仕方がない。


「でかした、少し抱いてもいいか?」


 そんなハズは…。しかしながら線となっていく。


「はい、もちろん!私はお包みとお片付けと湯たんぽの準備をするので、ゆっくりと休んでくださいね!」


 現実的に考えてあり得ない。隣の赤子のへその緒を切るタイミングと点滴のチューブが脚にかかるタイミングが重なる方がまだ自然だ。

だが、普通下水から出た先が避難所に繋がってるか?途中で頭でも打ったのか?


「ああ………」


 フィクションに浸り過ぎたか、SNSに脳が破壊されているのか、そんなワケある筈が無いのに馬鹿げた答えが脳裏を支配する。


「ルロルフ…あだ名は…(ルル)か…ルーだな…」


 優しい声だ。すーっと上方への加速を感じる。

 頭に人肌の暖かみを感じる、頭を撫でられたのか。ピリオドは打たれたみたいだ。

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