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夜明け知らずの黒狼ー幼き将と終齢の子ー  作者: 紺
一章 赤竜の巣
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1.赤竜の巣へ

 心地良い揺れに、意識が揺り戻された。

 石畳を蹴る馬の蹄が、リズミカルに鳴り響く。うっすらと目を開けると、目に入る景色がゆっくりと流れていく。

「おっ、目が覚めたか」

「レオニス……?」

 声の方を見上げればこちらを覗くレオニスの目と合った。どうやら自分は、外套に包まれてレオニスの片膝に座るような形で馬上に乗せられているらしい。目が覚めるまで落ちないようにそっと手を添えてくれていたようだ。

「……まだ慣れねぇな、お前の姿」

 そう言うレオニスの口調は柔らかい。馬に揺られる心地良さと背中の温かみで、徐々に現実を取り戻しつつあるアベルは、まず先に頭に浮かんだ疑問をレオニスに向けた。

「……どこに向かっているんだ、これ」

 見慣れた王都近辺の風景ではない。なだらかな街道を進む馬はレオニスの手綱さばきが無くとも、慣れた足取りで進んでいるように思えた。

「ああ、俺ん家。ほら、街も見えてきた」

「……は?」

 レオニスの言葉に顔を上げると、石造りの関所にはヴァルク家の紋章である赤竜の旗が風に靡き、高台にある陽光に照らされた町が近づいてきている。その更に奥には、城砦のようにそびえる赤屋根の邸宅が、竜の巣のように鎮座していた。

「おい! 王都から離れたら、国に何かあったときにどうするつもりだ! それに早く元の身体に戻らねば……!」

 急に体の向きを変えたので、アベルの身体が傾ぐ。まだ体力が戻っていないので、体勢を立て直せず、レオニスが慌てて腕を掴んだ。一瞬焦りが見えたレオニスの眉が引き締められる。

 

「そんな身体で何が国だ。『元の身体に』だ。まずは体を休める本当の療養がお前には必要なんだよ」

「くっ……!」

 確かに、弱り切った今の身体では、通常の生活もままならない。

「第二師団団長権限でな、お前に行われた検査の資料見せてもらった。中身も進展もねぇ酷ぇ検査ばかりやりやがって。そのような指示をした覚えがないと宰相も驚いていたぞ」

「そん……な」

 あの耐え忍ぶばかりの拷問のような日々は、意味を為さなかったのか。うすうす分かってはいたが、改めて聞くと胸が締め付けられる感覚に襲われる。

「誰の指示でそんな事してたのか、口を割りゃしねえ。そいつらは宰相に任せて、こいつを預かるって言いきって俺は出てきちまった」

 大きな口で笑うレオニスにアベルはため息を吐いた。

「笑いごとじゃ無いだろう……」

「元帥からも黒狼をしばらく休ませろとのお言葉を頂いた」

「む……」

 納得はいかない。やらねばいけないことをたくさん王都に残している。

 

「それに、平時には邸宅での待機が基本の俺なら、お前を匿えるだろ?」

「……まあ、そうなのだが」

 レオニスは王国軍の将でありながら、一地方の統治も任されている。史上最も悪政を敷いたという「愚直の王」エリアスをヴァルク家の祖が討った為に恩賞として与えられた領地なのである。

 国の北方を守る要塞であり、王都とは連絡船、伝令馬で常に繋がっている。

「まあ、そういう事だから、しばらく俺の家でゆっくりしてくれ」

 そう言いながら、頭をぽんぽんと撫でられる。大きな手を掴んで止めた。

「子供じゃない。そういうのは、やめろ」

「ああ、悪い悪い。ついな」

 まったく悪びれる様子がなく、何なら鼻歌まで歌いだしそうな上機嫌なレオニスに、アベルは再びため息をついた。

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