1.カルディア国立高等学術院
「セロ……。セロ・フィーネです。よろしくお願いします……」
教壇を中心に、階段状に机が並んだ教室。たくさんの目がこちらを見ている。ガチガチの緊張状態のまま、教壇の黒板前で頭を下げた。
セロはノアの勧めもあって魔導器工学部に編入した。レオニスから入学祝いだと揃えてもらった制服を身につけて、今は同じ学部の同級生達に最初の挨拶をしているところである。
「今日から編入するフィーネだが、なんと当学園の卒業生である第三師団 団長補佐官ノア・クレインの推薦だ。期待しているぞ」
教室内がざわめく。そんなこと言わなくてもいいのに……と、セロはヒョロリと伸びた身を僅かに縮こまらせた。
「ねえ! あのノア・クレイン様とどんなお知り合いなの!?」
「編入って珍しい! 今まではどこかの学校で?」
「えっと……! あの……!」
休み時間になった途端、セロの周りに人が集まり、質問が投げかけられる。どの質問に答えればいいのか、どこまで答えればいいのか、セロの頭の中は混乱を極めていた。
「ノアさんはあの……僕が助けてもらったというか……! 協力したというか……!」
ノアから、終齢石の事は言うなと言われている。小さくなった黒狼将と共に赤竜将レオニスの邸宅で、黒狼隊副官ノアと数ヶ月滞在していた。などと正直に言えば大騒ぎになってしまうに違いない。
言葉がうまく出てこない。何を言えば正解なのかも分からない。せっかく話しかけてくれているのに、こんなふうにモゴモゴしてばかりで──
セロは内心でため息をついた。
──やっぱり僕、こういうの向いてないのかな……
考えれば考えるほど、自分だけが浮いている気がしてくる。
「でもさー! 本当ノア様かっこいいよね……! この間この学園に来てた時に少し話したんだけど、丁寧な物腰で優しいの……! それに黒狼将と並んで立つ二人を見ただけで目の保養になるっていうか」
「わかるわかるー! あの黒い軍服似合いすぎてて反則だよ……!」
──……ノア様、か
セロはこっそり、心の中でだけ呟いてみる。ノアがそんなふうに呼ばれているのを見ると、ちょっと不思議な気持ちになる。レオニスの邸ではもっと気さくで、ちょっと乱暴な言葉遣いで、それでも夜食に付き合ってくれるような人だったのに。ふと、懐かしさが込み上げる。
そして、セロが戸惑っていた間に、教室の雰囲気はすっかり元通りになっていた。誰もセロの言葉の拙さを責めるでもなく、気まずそうにする様子もない。ただ「転校生」というイベントを一通り楽しんだら、もう普段通りに戻っている。
──……あれ、みんな、案外……
拍子抜けするほど、普通だった。
セロの中で張りつめていた糸が、ふっと緩む。
「フィーネって、ちょっと変わってる髪の色してんね。かっこいいと思うけど」
ふいに前の席の男子が、振り返って言った。何気ない、けれど否定でも茶化しでもない言葉。
「あ、ありがとう……!」
咄嗟にうつむいてしまったけれど、勇気を出して顔を上げてお礼を言った。声をかけてれた男子が笑ってくれたので、胸のあたりがほんのりと温かくなる。
「よかったら、今日のお昼一緒にどう? 学園の中も案内するし」
「いいの! 嬉しい!」
咄嗟に出たセロの言葉に目を丸くして、男子生徒は破顔した。
「そんな喜ぶ?」
──……大丈夫かもしれない
小さく息を吐いて、セロはそっと顔を上げた。
新章突入です。今回はセロが中心のお話になります。
途中、魔術関連のややこしい言い回しが出てきますが、深く考えずにさらっと読んでいただいて大丈夫です(笑)




