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夜明け知らずの黒狼ー幼き将と終齢の子ー  作者: 紺
三章 終齢の子
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12.不恰好な努力

「ここまで……よく復旧させたな」

 破片ひとつ落ちていない解析室に入りながら、ノアは感心するように口にした。

「ノアさんのおかげで怪我も軽くて……やる事も無かったし、それに……悔しくって」

「……悔しい?」

 セロは一つ頷く。

「僕が諦めたら、僕の仮説を信じてくれたノアさんまで否定することになるって気がついたから。そんなのは嫌だなって」

「……」

 ノアは頬を指で掻きながらセロを見る。ノアの胸ほどまでしかないこの小さな仲間は、見た目によらずに芯が強い。それは、セロが見よう見まねで復旧させた装置にも現れていた。

「……針金の巻き方、上手くなってるな」

 最初に見たときは不格好だったはずの結び目。だが、復旧された装置では、部品を固定するための針金が見事に揃い、きっちりと締められている。

「機材に残ってたノアさんの巻き方を見て、覚えたんだ。すごいね、これだと絶対に外れない」

「あぁ。こればっかりは学校では教わらなかった。ナフタの違法魔道具屋の親父が編み出した結び方さ」

 複雑な結び目だが、滅多な事では外れない。魔道具を扱う者たちにこれを披露すると、皆が驚いた。

「ノアさんって、なんだかすごい人たちと関わってきたんだね」

 セロが感心したように言うと、ノアは少しだけ口元をゆがめた。

「うーん、どうだろうな。あんまり褒められた経歴じゃないさ」

「でも、僕は羨ましいよ。僕には……教えてくれる人なんていなかったから」

 その一言に、ノアは不意を突かれたようにセロを見た。

 けれどセロはもう、軽く埃を払うように作業机の上を拭いていて、まるで何でもないことのようだった。

「その結び方、もう覚えたんだろ? だったら、今度は人に教える番だな」

「え?」

「今度からその結び方で固定してやれ。見たやつはきっと驚くぞ」

「……そうか……そうだね……!」



 それからのふた月、二人は何度も試作と調整を繰り返した。

 解析室の空気は、焦げた魔力と薬品の匂いが染みついて、日ごとに濃くなる。石の性質を読み違えた日には、魔力が逆流して計測装置が一つ火を吹いた。

 それでもセロは、ぶつぶつと仮説を唱えながら紙に走らせるペンを止めず、ノアはそれを黙って見守っていた。


 最初の頃は、針金の締め方ひとつに時間をかけていたセロが、今では配線の位置を記憶し、工具を手際よく扱っている。ノアもまた、セロの出す無謀にも見える案に、次第に「やってみよう」と応じるようになった。


 上手くいかない日は、二人とも無言のまま部屋を出た。

 それでも翌朝には、また同じ時間に顔を合わせる。

 信頼というには不器用で、励まし合うわけでもない。でも、そこにあるのは確かな絆があった。


 そして、ついにその日はやってきた。





「でき……た……?」

 模擬機を幾度も起動させてきた。何度も何度もエラーを吐き出してきた解析装置がある結果を出力していた。

「……主術式、干渉応答成功……位相ずれ、最小値……ねぇ、ノアさん……これって……この表示って……」

 セロの声が震えている。ノアも体が打ち震えるのを必死に耐えた。

「あぁ……成功だ……!」

 その一言を、なんとか口にした。

「……ッ!」

 セロから細く、長い息が吐き出された。何度も、何度も、表示された結果を見つめる。

「やった……! ノアさんやったよ!! 僕たちで本当に出来ちゃった!!」

「うわっ!」

 セロがノアの胸に向かって飛びつく。咄嗟に受け止めるが、支えきれずに後ろのソファに二人同時に倒れ込んだ。

「セロッ! 危ねえだろ!」

 胸元にしがみついているセロを、顔を上げて叱る。だが、その声はセロの顔を見て止まった。

 セロの子供特有の大きな目には、涙がたくさん溜まっている。頬には煤や油の汚れがしっかりと残されている。

「……ひでぇ顔」

「……もう、酷いや」

 二人はくすくすと笑い合った。今はそれだけで、充分だった。

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