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夜明け知らずの黒狼ー幼き将と終齢の子ー  作者: 紺
三章 終齢の子
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10.焦燥の証明

 ノアの解析室は、書物だけの部屋から、ガチャガチャと絶え間なく音がするものに変わっていった。

 セロの仮説を元に、アベル、セロ二人の終齢石を取り外すではなく「無効化」させる為の準備を整えていた。

「一回、本番を想定した疑似環境で挙動を確認しておいた方がいいな……魔石に命令を書き込むか……」

 顎に手を当てて、ノアが考え込んでいる。ノア主導で行われているこの解析室での魔道装置作成も、いよいよ試験稼働へと移ろうとしていた。

 ノアが起動装置の配線を繋ぐ。それを横で眺めていたセロが声をかける。

「僕もやってみていい?」

「ああ、ここに繋いでみてくれ」

 今までのノアの作業の様子をずっと見てきた。見よう見まねで、ぎこちなくセロが言われた場所へ部品をつなげる。

「初めてにしちゃ上出来だ」

 ニヤリと笑うノアの顔に、セロもなんだか嬉しくなる。

 終齢石に近い結果を返すように命令を書き込んだ魔石を両端に配置。その間を埋めるように、ノアとセロが仮説を立てて構築した魔道装置が並ぶ。高価な素材を使えない分、代替品で埋める部分が多い。酷い時は代替品の代替品を使っている為に、当初の想定していた大きさよりも遥かに大掛かりなものになってしまった。

「……擬似とはいえ、使うエネルギーはかなりのものだからな。無駄には出来ない」

 ノアの言葉の抑揚が硬い。緊張しているのだ。

「ノアさん、軽く魔力を流して稼働を確認した方が」

「……いや、このまま行こう。個々の確認はもう済んでいる」

 セロの言葉に首を振り、ノアは起動装置の近くへと移動した。セロも試験運動の結果を見守る為に、近くの椅子へと掛けた。

「始めるぞ」

 ノアが魔道具を起動する。わずかな唸りを上げて、構築した機材が光を帯び始める。


 「……ん?」

 セロは、起動装置の奥の魔石に違和感を覚えた。

──おかしい、温度が……? いや、光が強すぎる……?

 慌てて装置に手を伸ばそうとした瞬間だった。

 異常な振動、想定外の熱に、ノアの手が弾かれる。シュンシュンと異様な音がどんどん早くなってゆく。

「まずい! セロ! 退避……!」

 不思議そうにこちらを見上げるセロの顔。


──間に合わない──!


 高まった力が、起動装置に集まり放出された。ノアは咄嗟にセロに向かって飛び込んだ。

「セロ!!」

 視界が一瞬にして真っ白に染まる。次には耳を劈くような大きな音が響き渡った。

 走る衝撃、爆音、熱さ、痛み。それが一瞬で全身に押し寄せる。

 セロは悲鳴すら上げなかった。


──


「う……」

 ノアが自分に飛び込んできて、それから──

 静寂が訪れる。耳鳴りが酷い。まだ自分がどれほどの怪我をしているのかも把握していない。身体に掛かる重い何か。そこから抜け出すように身体を起こした。

 少しずつ回り始めた頭に浮かんだ答えはすぐに分かった。

「……っ!」

 生ぬるい感触に手を開く。赤い液体がべっとりとセロの手のひらを濡らしていた。これが鮮血だと理解するまで、数秒を要した。自分の血ではない。

「ノ……ノアさん……!」

 ノアの手が、自分の肩から落ちる。爆発から咄嗟にセロを庇ったのだ。背中にはたくさんの破片が刺さっている。

 こんなに大量の血など、見たことがない。それも、他人の血なんて。

「ノアさ……! ノアさんっ! しっかりして! ノアさんっ!」

 金切り声にも近いセロの声が解析室に響き渡る。

「セロ、無事……か」

 金色の目がうっすらと開かれ、セロを捉える。セロは必死に何度も頷いた。

「よか……った……お前、ちびだから、さ……吹き飛ばされたら、大変……だ……」

 セロの無事を確認して、再びノアの目が閉じられた。

「ノア! セロ!!」

 爆発音にレオニスとアベルが駆けつける。即座にレオニスがノアの状態を確認する。

「……息はある。気を失っているだけだ。……爆発の原因……あれか。二度目の爆発は無さそうだな。とにかくノアの部屋に。アベル、医者を呼ぶようにマリーに伝えてくれ」

「承知した」

 状況確認と指示が的確だ。アベルが破片が飛び散った部屋から駆けて行く。

「どうしよう……! ノアさんが……ノアさんが……!」

 セロの声が震えている。愛玩として室内に囚われていたセロにとって、人が怪我をして倒れる光景なんて初めてに違いない。レオニスは努めて、なるべく低い声で言葉を紡いだ。

「セロ。セロ……! 落ち着け。ノアは大丈夫だ。そんなにヤワな奴じゃない」

 背中の破片に気遣いながら、レオニスがノアを担ぐ。

「セロ、歩けるか。怪我も診ないといけない。まずはお前もノアの部屋に来い」

 レオニスの冷静な声が、少しずつセロにも落ち着きを取り戻させる。

「……はい……」

「足元に気をつけろ」

 ノアを担いだレオニスが立ち上がる。セロは目に涙を浮かべ、レオニスの後に続いた。

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