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夜明け知らずの黒狼ー幼き将と終齢の子ー  作者: 紺
三章 終齢の子
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6.古代の敵

「……少し、我慢してください」

 緊張に満ちたノアの言葉に、僅かに身を固くする。どうしても小さくなった自身の身体を調べられる事になると、あの実験の日々がよぎってしまう。

 石を埋め込まれた胸を露出し、何やら配線をあちこちに貼り付けられた状態での言葉だった。

 だが、実際にアベルが感じたのは、その配線から僅かにくすぐられる様な感覚が流れてくるのみだった。

「……ノア、あまり大袈裟に構えるな。こっちまで構えてしまう」

「しかし……大事な将のお身体ですので……」

 ノアは真面目な顔で魔道具に表示された数値を書き留めている。こればかりは仕方がないか、とアベルは小さく息を吐き出した。

 人により異なる魔力の波紋は指紋と同じかそれ以上の信頼性を持つ。体調や使用過多によりその日の出力の振り幅はあれど、本人の放つ魔力の波紋は変えられるものではない。だからこそ、始めに計測した数値が重要なものになってくる。

 ノアは魔力の数値、振り幅、終齢石が埋め込まれた事による変化などをつぶさに調べてゆく。

 アベルとセロの身体が子供である事を配慮し、二人の身体に埋め込まれた終齢石を調べるのは午前のうちと決められた。

 それでも、アベルとセロはノアの解析作業の部屋から離れづらく、昼を過ぎてもノアの作業を手伝ったり、追加の解析を快く受けたりしていた。


「……ノア、お前眠れているのか」

 解析部屋のメインの机に座り、資料に目を通しているノアにアベルは問いかけた。元々アベルの為となると無理をしがちなこの部下は、今回も結果を急くあまりに無理を重ねているに違いなかった。

 この解析の作業自体、王都でのアベルの不在を埋める第三師団団長代理としての仕事と、王都からレオニス邸に届く書簡の仲介、そして本来の副官としての仕事の合間を縫って行っているものだ。王都へも度々顔を出している。

 都度、団長代理を行う際にはレオニスがノアに推薦状を持たせたり、アベルも自身宛の書状はノアが分別する前に自身で処理を行い判を押したりと、仕事量を減らすように動いているのだが、仕事が減って出来た空き時間すら、ノアは解析部屋に籠る時間に充ててしまっている。元々白い肌の顔は、普段よりも青白く見えた。

「大丈夫です。休息は取っています」

「……」

 長年の付き合いがあるから分かる。この「大丈夫」は大丈夫でない方の返答だ。だが、いくらアベルが命じても、ノアは隠れて糸口を探るだろう。

 自分が決めた事に関して、頑なになりすぎるきらいがある。だからこそ、若くして副官の立場まで自力で登り詰め、アベルの右腕を務められているのだが、それが今や悪い方向に向かおうとしている。

「……」

 そのやりとりをじっと見つめていたセロが、ノアの手を取った。


「ノアさん、僕、この時間になると眠いんです。一緒にお昼寝しましょう」

「……な、……え?」

 突然のセロの申し出に、ノアが戸惑いの声を上げる。

「ずっと寝てない顔をしています。貴方が今ここで倒れたら、アベルさんの仕事の代わりを誰がやるんですか。僕でも出来ますか」

 ここまでの言葉をアベルやレオニスが言えば、叱責と取られるだろう。だが、セロの言葉には嫌味や叱責、怒りを込めた感情は不思議と全く感じられない。真っ直ぐに胸に届く話し方をするのだ。

「セロ、さん」

 ノアにも思うところがあったのだろう。意地を張るような反発の気配は消え去っていた。セロは自身の胸に手を当てる。明滅を繰り返す石が服に透ける。

「この終齢石は、多くの研究者を打ち負かしてきました。古代の敵は強大です。一人で立ち向かったって、敵うわけがない。その為には、体を休めないと」

 ね? と小さく首を傾げるセロに、ついにノアは毒気を抜かれたようだった。

「確かに、そうですね……仮眠を取ります……」

 不思議な人物だ、とアベルは思った。子供のまま長い歳月を過ごしているという事を除いても、セロの紡ぐ言葉には人の心に真っ直ぐに届く力がある。


──古代の敵、か


 はるか昔の伝承でしか語られない終齢石。

セロの言葉が、それをぴたりと言い表しているように思えた。

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