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夜明け知らずの黒狼ー幼き将と終齢の子ー  作者: 紺
三章 終齢の子
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⬛︎お泊まり、そしておしゃべり  

 セロがレオニスの邸に滞在することになったその日の夜。夕食や風呂を済ませ、あとは眠るだけ、という時間であった。アベルは満腹になってから眠くなってしまったらしく、レオニスのベッドに横になって動かなくなってしまった。今は、レオニスの部屋で、ノア、セロが暖かいミルクを前にゆっくりと話をしている。


「セロ、どうだ? 不便はないか?」

「はい。ご飯も美味しかったし、みなさんとても優しくしてくれて。それにこうやって暖かい飲み物を飲みながらおしゃべりするのも楽しくて……!」

 両手でカップを持ちながら、セロは嬉しそうに語る。

「初めての『お泊まり』ですもんね」

 ノアが茶化すように笑うと、セロもそれに釣られてニコニコも笑う。

「あの……お風呂が、とっても広くてびっくりしました……泳げそうなくらいで……」

「……泳いだのか?」

「ちょっとだけ……」

 ノアとセロのやり取りを聞いてレオニスが大声をあげて笑う。

「気に入ったんなら、好きなだけ使っていいぞ!」


 もぞ、とレオニスのベッドが小さく動く。

「おっと、あまり煩くすると黒狼将が起きちまうな」

「アベルさん、ぐっすりですね……」

 寝ている姿はもはや子供以外の何者でもない。少し眉間に皺を寄せる癖はそのままに、寝息を立てている。

「寝るとあんな顔するんですよね。昔は、こんな無防備な将軍なんて想像もできなかった」

 じっとノアがアベルの寝顔に見入る。

「戦場だと、いつ寝てるのか分からなかったぞ。誰よりも遅く将帥幕に入るし、朝目が覚めるとすでに活動してる。寝た顔なんて誰も見たこと無かったかもしれないな。まあ、今でも敵には見せられねえ顔だな。可愛すぎて刺される」



 くすくすと笑いあう一行の中、セロはふと、レオニスの壁に掛けられた竜の意匠のタペストリーに目を留めた。

「そういえばレオニス様のご先祖って、建国の頃に活躍した方でしたよね。たしか、『愚直の王』を討って国を立て直した英雄とか……」

 セロの目がキラキラしている。こういった軍記の話も好きなのだろう。

「おお、よく知ってるな。昔っから戦うのが好きな一族でな。竜の血を引いてるとか、いろいろ言われてたらしいけど……今じゃ赤髪が目立つだけの暑苦しい血筋だよ」

 そう言いながらアルコールの入った木製のカップを傾ける。

「だからヴァルク家の家紋にも竜の意匠か使われているんですね」

 レオニスの邸や、レオニスの領地のそこかしこに下げられている竜の意匠の紋章。赤い布に金の竜が刺繍されているのをよく見かける。

「確か、愚直の王を倒した後も自らが王とならず、剣に徹する姿勢を見せた……選ばれた王はその友愛の証にヴァルク家の家紋を国章とした……んでしたよね。だから、国章とヴァルク家の紋章は竜なんだって、本で読みました」

 セロがあまりにスラスラと語るので、レオニスは目を丸くする。

「うおお……詳しいな……」

「でも家宝の『竜の牙』、王に献上されたって話、本当なんですか?」

「そう、カルディア初代王に友愛の意味を込めて献上したとされる竜の牙! 見てみたいなぁ」

 セロはカルディア建国の話を相当読み込んでいるらしい。竜の牙の話が上がったところで、小さく足が揺れる。

「……さあなぁ。今は王宮の倉にでも眠ってんじゃねぇか? 俺が生まれた頃には勿論無かったしな。まあ、竜なんて伝説上の生き物、居るはずは無いんだから、その牙が本物かどうかも怪しいところだぜ」

 背もたれに腕をかけながら語るレオニスに、ノアが苦笑する。

「それを子孫の貴方が仰るんですか……」

 夜も程よく更けてきた。

「さ、ノアはともかく、セロ坊は寝る時間だ。自分の部屋、わかるか?」

「はい! 大丈夫です! あの、今日からよろしくお願いします……!」

 ノアとレオニスはそっと笑みを交わすと、それぞれカップを置いた。

 やがて部屋には、寝息と暖炉の火のはぜる音だけが残った。

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