⬛︎宿屋での叱責
「ノア」
「はいっ! アベル様!」
宿屋の一室。アベルの低い声がノアにかかる。
にわか雨に降られ、ずぶ濡れの状態で宿に到着した。アベルの着替えまで濡れてしまったので、今は乾くまで一時的にノアの内着を着ている。元のアベルよりも小柄とはいえ、成人した男性のシャツだ。肩からずり落ちた襟元に、鎖骨がひとつだけ覗いて、裾は膝丈になっている。
それでもアベルはベッドの上に立って腕を組み、床に膝を折っているノアを見下ろした。
「お前、また言ったろう」
「……? 何をでしょう?」
「……宿屋の受付で、様を付けた。それに着替えだのなんだので大騒ぎをしたろう。どんな関係だと勘ぐられる事は慎めと言ったろう。目立ちすぎる」
「しかし、お風邪を召されては……」
「あの程度では風邪など引かん。それよりも宿屋の女将の目……明日の朝飯でどんな顔をすれば良いんだ俺は」
「かわいらしいので問題ないかと」
「……そういう問題ではない」
アベルは頭を押さえた。
「ところでアベル様、なぜベッドの上に?」
「……見上げて叱るのが癪だからだ」
そのアベルの言葉に顔を覆い天井を仰ぐノア。
「も、無理……。俺のシャツ着て叱ってくださるアベル様……尊い……」
「聞いているのか……」
「聞いてますっ」
この姿になってから、この右腕ともなる副官がおかしい。アベルはため息をついた。




