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夜明け知らずの黒狼ー幼き将と終齢の子ー  作者: 紺
三章 終齢の子
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1.街道をゆく

 あれから少しずつ食事を摂るようになり、身体が回復したところで、アベルは終齢石を埋め込まれた男に会いに行くことにした。

「俺は領地を離れるわけにいかねぇからな」

 正門前で名残惜しげにレオニスが声をかける。

 ノアの騎乗した黒馬に乗せられたアベルが苦笑する。

「許されるなら付いてくる気だったのか」

 アベルの言葉にレオニスがにやりと歯を覗かせる。

「そりゃな。ちっちゃいお客人の姿を見られないのは寂しいからよ」

「アベル様のお姿ならレオニス様の分もしっかり目に焼き付けますのでご安心ください」

 すかさずノアが胸に手を当てて頭を下げる。

「……お前が言うと冗談に聞こえないんだよな」

「本気ですが?」

「うん、気をつけて行ってこい!」

 早々に話を切り上げて、レオニスは手を振り上げた。


 馬が静かに足を進める。見送るレオニスの姿が、邸が小さくなっていく。鍛冶小屋の煙がいつもと変わらずに上がっているのが見え、アベルは小さく息を吐き出した。


 見慣れた街並みを抜けて、街道へ。常足で進む馬の蹄の音が心地よい。しばらく平地を進む。

「ここからは二日ほどの距離になります。街道沿いに町をいくつか経由して東方の王都の養護施設へ向かいます。疲れたら無理せず言ってくださいね。アベル様は無理をなさるきらいがあるので。それから水分の補給も……」

「わかったわかった」

 大人が馬を駆れば一日でたどり着ける距離だ。アベルの体調も考慮して余裕のある予定を立ててくれたのだろう。


 少し進んだところで、アベルはふとノアに尋ねてみた。

「その、終齢石を埋め込まれた男というのはどんな者なんだ?」

「……我々と同じ元、影落ち……だそうです」

「……」

 アベルはノアの言葉を待つ。

「影落ちだというのに物好きな富豪に買われ、終齢石を埋め込まれた直後から、軍に保護されるまでの二十年近く「愛玩の器」として屋敷に閉じ込められていた、と、本人の手紙に書かれていました」

「……それは……筆舌に尽くしがたいな……」

「……ええ。こちらからの対面の依頼に驚いていたようですが、会えるのを楽しみにしている、と返答をいただきました」

「……そうか」

 同じ終齢石を埋め込まれた身とはいえ、過ごした年月が違いすぎる。果たして、自分が言葉を交わして、その者の苦しみを理解できるのだろうか。小さな不安が過ぎる。


「ところでノア」

「はいっ! 何でしょう」

 アベルから何か申しつけられるのが嬉しいのが丸わかりだ。

「町では俺を呼び捨てにしろ。あと、上役に話すようなその話し方もだ」

「なっ、えっ……!」

 突然のアベルの命令にノアが混乱の声を上げる。心なしか馬も歩調が乱れた。

「当たり前だろう。成人している男がこの見た目の子供に様付けで呼びながら後をついて回るなど目立ちすぎる。俺はお前の弟か小姓という事にして……」

「小姓なんてダメですっ! とんでもない!」

 ノアか悲鳴じみた声でアベルの提案を遮る。

「……なら、弟だな。一回呼んでみろ」

「な、何をですか」

 よほど動揺しているのだろう。話がなかなか通じない。

「だから、呼び捨てでアベルと呼んでみろ」

「い、言えませんッ! そんな、アベル様をよよよ呼び捨てだなんて……!」

「……何故……」

 その後、何度か呼ばせようとしたのだが、ノアの頑なな忠誠心に結局アベルが折れ、町では極力会話をしないという形で落ち着いたのだった。

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