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⬛︎愛玩の器
月を見るのは好きだった。時が進んでいるのを知ることが出来るから。
宝石箱のような部屋の天窓から月が覗くたび、少しだけ自分のことを忘れられる。
愛玩の器。皆が僕をそう呼ぶ。
変わらない姿、煌びやかな装飾を施される美しい容姿、逆らわない従順な幼子。それが僕だった。
ここに連れ去られて、囚われて、何年経っただろうか。季節が何度巡ったか数えるのはやめてしまった。
ご主人様のお気に召さなかったり、役に立たない子は、箱の中に戻される。次にその箱から引き出された時には、知らない子になってる。だから、綺麗にして、気に入られるように、振る舞って──。それが当たり前になるのに、長い時間は掛からなかった。そうして僕はご主人様の「一番の逸品」になった。
今日も、この髪を梳かれて、肌を撫でられて、耳元でこう囁かれる。
──お前は美しい飾り子だ。ずっとそのままでいておくれ。絹のように細やかな柔膚、琥珀に水銀が落ちたような瞳、夜空に星が融けたが如く光るその髪も。みんな私のものだ。
指輪の光る筋張った手が体の上を撫でて。僕はそれに目を細めて、頬をすり寄せる。そうしなければ、いけないから。
みんな、この器しか見ていない。
なら、この器のなかに注がれている僕は、一体なんなんだろう。




