■鍛冶師ブロムの矜持
「またここか」
鍛冶小屋の窓の外からひょっこり顔を覗かせたレオニスは苦笑した。火床の前に椅子を置き、真面目な顔で見入っている小さな丸まっている背中。
邸の中にアベルの姿が見えないと、大抵ここにいる。
「火の見方を教えたらすぐに覚えた。見習いより筋がいい」
小屋の外で煙を燻らせていた親方の口端が上がる。
ほぼ毎日、二日と空けずに、アベルはこの鍛冶小屋に通い詰めている。
よほど居心地が良いのだろう。初めて鍛冶小屋に行って帰って来た日は、頭を払っても払っても灰が落ちて来て、マリーが悲鳴を上げていた。
夜、アベルが珍しく自らポツポツと喋る内容をつなぎ合わせると、薪割りや灰掻き、道具を磨く手入れを手伝ったりしていたらしい。
見習いは怒鳴られて、拳骨を喰らうのが通例だが、特にアベルからはそういった話は聞かない。
「ブロム爺、随分気に入ってるみたいじゃねーか。拳骨を貰った『元・赤いの』としては寂しい限りだわ」
レオニスがニヤニヤとしながらアベルに目線を送る。
「お前さんは昔、鍛冶場を走り回りやがったから論外だ」
レオニスは思わず肩をすくめた。昔のイタズラ坊主そのままの顔で。
親方が煙管の灰を落としながら、ちらりとアベルに目をやる。
「どうせなら、今度は小刀でも鍛えてみるか?」
火床の前のアベルが、ごく小さく頷いた。
「……ちゃんと、教えてくれるなら」
その素直な一言に、親方もレオニスも思わず目を合わせて笑った。
「教えてやるとも。俺の矜持にかけてな」
「なーんだ、俺のときはそんな優しくなかったのによ」
そう口にするレオニスの表情は言葉と裏腹に柔らかいものだった。




