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聖女(奴隷)と盗賊(外道)が、世界を救うはずがない  作者: 黒天
第一章「聖女攫いと黒鉄輪禍」 
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【第5話 】白き聖堂に、影差す


聖都フロリア。

白大理石で築かれた高塔に、朝の鐘が静かに鳴り響く。

だが、聖堂内の空気は、ひどく冷たい。


「……本当に、行方がわからぬと?」


沈黙のなかで呟いた声は、老いた男のものだった。

大聖堂主席教皇、《アステル=ヴァルシュ》。この国の“神意”を代弁する者である。


「はい。昨夜、北の辺境教会にて、聖女リーネ様が……盗賊団によって誘拐されたと報告を受けております」


そう答えたのは、聖騎士団の副団長ユリオス・ヘイル。黒髪を短く刈り込み、表情をほとんど変えない冷血な男だ。


「盗賊団の名は?」


「《屑星くずぼし》……かの“泥喰いのラグド”が率いる小規模の戦闘団とのこと」


アステルは、静かに目を細めた。

その名には、記憶がある。聖堂の命令で消されたはずの男。かつて化け物狩りに関与しながらも、思想的に異端視された存在だった。


「忌まわしき名だ……“穢れ”に手を染め、金を得る者など、“神の道”には不要なはずだ」


「では、全騎士団を以て即時追撃を?」


「……否。聖女が攫われたという事実は、民衆に広めるべきではない。

“聖なる加護の象徴”が盗賊に奪われたとなれば、神威の威信が揺らぐ」


「……理解しました。極秘裏に、処理を?」


アステルは頷く。

その目には怒りも悲しみもない。ただ冷たく事務的な光。


「リーネは……確かに純粋な子であった。が、“聖女”は代替が利く」


「……」


「だがあの娘は、“祝詞を使って呪核を封じる”奇跡を見せた。

我らの計画に不可欠な存在であることに変わりはない。

……殺さず、確実に回収せよ」


 


◇ ◇ ◇


同時刻、聖騎士団本部では、別の空気が流れていた。


一人の若い騎士が、床に拳を突きながら声を上げる。


「リーネ様を! あの方を、ただの“戦力”として扱うなど……っ!」


騎士の名はクラウス=レインハルト。

聖女の護衛を務めていた青年であり、聖堂の中でも数少ない“本気で人を信じる”異端の男だった。


「黙れ。……それ以上の発言は、“異端審問”に回されるぞ」


上官が冷たく言い放つと、クラウスは口を噤む。だが、その眼にはまだ炎が宿っていた。


(……あの方は、神に仕える者ではなく、“人を救いたい”と願う人間だった……)


その真っ直ぐな姿を、彼は見ていた。

だからこそ、奪われた“彼女”を、聖堂の道具としてではなく、“人間”として取り戻したいと願っている。


そして、彼はまだ知らない。

“泥喰いのラグド”という男と出会ったとき、自身の信仰がどう揺らぐのかを――。


 

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