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聖女(奴隷)と盗賊(外道)が、世界を救うはずがない  作者: 黒天
第一章「聖女攫いと黒鉄輪禍」 
12/12

地の底に笑うもの

夜が訪れる。


 廃村ディラエルのはずれ、かつて鉱石を掘り出していた坑道跡近くの野営地に、焚き火の光が揺れていた。


 「おいおい……まじかよ。あんた、本当にガキを連れて帰ってきたのかよ……」


 ダルクが呆れた声をあげた。その視線の先、聖女リーネの隣にちょこんと座るフィリル=ノクターンが、無表情に干し肉をかじっていた。


 「……呪術師。魔禍種研究者。あと、かわいいもの好き」


 「最後いらねぇだろ」


 ダルクが突っ込む横で、ラグドは簡潔に説明を始めた。


 「こいつはフィリル。瘴気の視認ができる。魔禍種の構造もわかってる。いまから仕掛ける“笑う主”への突入に、欠かせねぇ知恵袋だ」


 「……チビでも役に立つってわけか。ま、俺らの中にも背丈だけなら似たようなのいるけどな」


 「背丈じゃなくて年齢も近いとか言ったら呪う」


 「……ッ!?」


 低く呟いたフィリルの目が赤く光り、ダルクは本気で一歩退いた。


 「やめとけダルク、そいつはマジで危ない」


 「……おう、わかった」


 和やかなのか険悪なのかわからない空気の中、ラグドが焚き火の上に一枚の地図を広げた。


 「さて。遊びはここまでだ。次にやるのは、“笑う主”の本拠、坑道の制圧。目標は完全殲滅……じゃない」


 「……ん?」


 「主の“核”は祝詞でも完全には浄化できねぇ。だから動けなくする。あとは協会に情報をリークして、奴らに後始末させりゃいい」


 盗賊たちの顔が険しくなる。


 「要するに……あの化け物を、囮にするってわけか?」


 「正確には、化け物の“根”を止めることで、あっちに引導渡させる。うちの損害は最小限に。使えるのはお前らの【爆薬部隊】と、【坑道戦に慣れた二組】。あとはフィリルの情報と聖女の加護で進軍する」


 リーネは少し驚いた表情を浮かべながら、控えめに口を開く。


 「……あの、私も、戦力として……数えられているのですか?」


 「当然だろ。お前の祝詞がなきゃ、魔禍種の瘴気に全滅させられる。今回はお前がかなめだ」


 ラグドの言葉に、リーネはそっと目を伏せる。


 (私の力が……誰かの助けになる。神の導きではなく、誰かの策略の一部でも……)


 「わかりました。やります、ラグドさん」


 「おう。そんでフィリル、例の魔禍種の巣構造──あの“目”みてぇなやつの配置、もう一回確認させろ」


 「……うん、記録した。ここ。坑道の第七坑。ここに“笑う主”の瘴気核がある。けど、罠がある。たぶん……精神を奪う“夢”の呪い」


 ラグドは顎に手を当てて考えた。


 「夢か……祝詞で抑えきれなきゃ、夢に囚われて死ぬってわけか。だったら、前衛には精神抵抗の強い奴だけを出す。後衛はフィリルの呪詛で制圧。俺が核まで行って、斬る」


 「無茶だな、ラグド」


 「……知ってる」


 作戦は綱渡りだった。それでも、笑う主がこれ以上目覚めれば、騎士団だけでなく王都さえ危うい。


 ──そして翌日、薄曇りの朝。


 坑道の入り口に、ラグドと盗賊団、聖女リーネ、呪術師フィリルが立っていた。


 「いよいよですね……」


 「うん。主の巣。人間の“罪”が固まった場所」


 坑道の入り口には、奇妙な文字が浮かび上がっていた。


 それは、人間の感情を喰らう者が、嘲笑するように遺した“歓迎の言葉”だった。


 《──おかえり、僕の餌たち》


 「くたばれ、化け物が」


 ラグドは黒鉄輪禍を構え、坑道へと足を踏み入れた。


 廃村ディラエル、その地の底で――地獄のような戦いが、始まる。

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