生還者の証言
村の診療所は、集会場から少し離れた場所にあった。
扉を開けると、そこには数人の村人と、一人の男がベッドに横たわっていた。
彼の顔は青白く、痩せこけている。瞳は虚ろで、まるで何かを見続けているように焦点が定まっていなかった。
「この人が……バラザの領域から生還したっていう?」
セリアは眉をひそめながら、男の傍へと歩み寄った。
村の医師と思われる年配の女性が、静かに頷いた。
「彼は村の狩人でした。仲間とともに山へ狩りに出た際、道を誤り、死霊の谷へと迷い込んだそうです。そして……彼だけが戻ってきました。しかし、ご覧の通り、彼の精神は壊れてしまった。」
「……何か話せるの?」
「時折、意味のわからない言葉を呟くことはありますが……。でも、それが正気なのか、ただの幻覚なのか……。」
医師が困惑した表情で男を見つめる。
「とにかく、何か手がかりがあるかもしれないし、話を聞いてみるわ。」
セリアはベッドの横に座り、静かに声をかけた。
「あの……聞こえる?」
男はピクリとも動かない。
「バラザの領域にいたんでしょ? 何があったの?」
しばらく沈黙が続いた。
だが、その時——
「……見え……る……」
男が突然、呟いた。
セリアは思わず息をのむ。
「何が見えるの?」
「……霧……闇……燃え……骸……」
「霧……闇……? バラザの拠点のこと?」
「……消え……ない……終わらない……焼かれ……る……」
男の声は掠れ、言葉の意味が不明瞭になっていく。しかし、その中で、ひとつ明確な言葉が紛れ込んだ。
「……鐘……」
「鐘?」
セリアは首をかしげる。
しかし、男はそれ以上何も言わず、再び沈黙した。
「鐘って……何のこと?」
彼女は医師を見たが、医師も困惑した様子で首を振る。
「この村には鐘に関する言い伝えはありません……。」
「でも、バラザの領域に行った人が言うなら、何か重要なものかもしれないわね……。」
セリアは顎に手を当て、考え込む。
「鐘が何を意味するのかわからないけど……これが手がかりかも。」
彼女は決意を固めた。
「よし、バラザの拠点へ向かう準備を始めましょう。」
こうして、バラザ討伐へ向けた動きが本格的に始まった——。