剣を抜け
村の長老の案内で、セリアとグリは村の地下へと足を踏み入れた。
「ここが……『魂断の剣』が眠る場所?」
地下へ続く石造りの階段を降りると、そこには広い空間が広がっていた。壁には古びた燭台が並び、かすかに揺れる炎がぼんやりと石室を照らしている。
中央には、一振りの剣が石台に突き立てられていた。
「これが……魂断の剣。」
セリアは息をのんだ。
剣は長年そこにあったかのように静かに佇んでいる。その刀身は漆黒に染まり、かすかに青白い光を帯びていた。
「この剣は、かつて死霊術師と戦った英雄が残したものと言われています。」
長老が説明する。
「ですが、古の記録によれば——生者の手では決して抜けぬ剣。」
「……どういうこと?」
「試してみればわかるでしょう。」
セリアは剣へと歩み寄り、ゆっくりと柄を握った。
「んっ……!」
力を込めて引き抜こうとするが、剣はびくともしない。
「やっぱり……動かない。」
セリアは肩を落とした。
何か特殊な条件を満たさなければ、この剣を抜くことはできないらしい。
「……神獣様が導きを示してくださるのでは?」
長老が期待を込めてグリを見つめる。
「ゴハン!」
グリは剣には目もくれず、セリアの肩で首をかしげる。
「……こいつにそんな力あるわけないでしょうが。」
セリアはため息をついた。
しかし、次の瞬間——
グリが羽ばたいて剣の柄をつついた。
「グリ! 何やって——」
その瞬間——剣が淡い光を放った。
静寂が地下に満ちる。
「……まさか。」
長老は目を見開く。
「神獣様が導きを……!」
「だから違……!!」
セリアは頭を抱えながらも、剣をもう一度握りしめる。
今度は——手応えがあった。
ゆっくりと、剣が石台から引き抜かれていく。
「……まじで抜けた。」
セリアは呆然と剣を見つめる。
長老や村人たちは感動に満ちた表情で膝をついた。
「神獣様の導きにより、伝説の剣が目覚めた……!」
「違う……違うんだけどな……。」
セリアは苦笑しながら剣を握りしめた。
こうして、バラザ討伐への第一歩が踏み出されたのだった——。