6
あれから一週間と少し経った。
初日は寂しさからアンと二人で泣いてしまったが、男が何度もこちらを気にかけて話をしてくれたお陰で楽しさが勝って来た。それに初めて見る雪にわくわくした。
荷馬車が止まった。今日はここで休むのだろう。
「さて今日はここで野営だ。そこの川で水を汲もう手伝ってくれ。」
外に出ると少し離れたところにも似たような荷車がいくつかあった。アンは馬が少し怖いみたいなので離してくれたのかも。薪拾いは任せて男の方へ向かう。
「こんな大きな川は見たことないだろう?」
「わ、水がいっぱい!」
並んで川岸へ向かい、馬に水を飲ませる。
「明日はあの橋を渡っていくんだ。」
それも初めて見るものだった。村を出るのも初めてだったし、出てから見たことがないものが沢山あった。
「あの上を通るの?壊れたりしない?」
「はっはは!壊れたりしないさ、一度に何台もの荷馬車が渡れるよ」
この男ディルさんの笑い方も他の人と違う初めての笑い方だった。
「あの川に浮いてるのは何?」
「あれは舟だ。川を下って人間や荷を運ぶんだ」
ここまでもそうやって色んなことを聞きながら来た。馬が牽く荷車は荷馬車だとか、家じゃなくて外で寝ることを野営だとか。ディルさんが寝るときに出してくれる道具で寒さに震えることなく眠ることができた。すごく寒い日にそれがあったらいいのになと思った。
戻るとアンが拾ってきた小枝を合わせ薪を組んでいた。何度もやっていたので私もアンも慣れてきていて、最近ではご飯作りを任せてもらっていた。ディルさんは少し話してくる、と言って歩いて行った。
「ディルさんって商会?の人って。いいな、色んなところに行けるの」
「ええー」
「アンは嫌なの?」
「だってお尻痛いもん」
お尻が強くないと商会の人になれないのかな。お祈りの時にお尻が痛くならないようにって祈ってみるのはどうかななんて話してるうちにご飯は出来た。干し肉と芋を煮たスープというものと、村では滅多に食べることが出来なかったパンだ。
いつも家で食べていたのはひとり一掴みの麦を食べられるくらいに煮たものと、それを作ってる間に火に投げ入れておいた芋だった。干し肉は子供は一人一切れ、大人は二切れを日があるうちに食べていた。それが決まりだって母が言っていた。芋は偶に中がしゃりしゃりしていたりする。
パンは去年初めて食べた。麦が沢山出来たから前に取ったものをつぶして水と混ぜ、火の近くに置いて作った。でもディルさんから渡されたのは粒がないさらさらとした麦だった。出来たパンは粒々がなく、柔らかかった。ただ火の傍に置くと色が濃くなるのが早く、加減がちょっと難しかった。
「お、出来たか」
二人で話してるうちにディルさんがお腹を撫でながら戻って来た。
「今日はこれを入れよう。はっはは!」
そういってスープに、小さな壺からさらさらしたものを入れていた。これを入れると暖かくなるんだって。