閑話:牧師
見送った私は届いた荷を部屋へ運んでいた。
コップ程の大きさの壺だ。欲を見なければ五年は持つ。所定の場所へ置くが、気持ちが抑えられず思わず封を切る。中身はたっぷりと詰まっていた。小さな小さな匙を手に取り、どうせ明日の朝まですることは無いのだと言い聞かせた。壺の中身をほんの少し掬い取り鼻から飲む。蓋をし、椅子に身体を預け目を閉じた。
喉の渇きを感じ水を呷る。
背もたれにぐっと身を押し息を吐いた。まだ飲みたかったが楽しみに取っておくことにした。
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朝になった。
ジャンの様子を見に行くと、泣きつかれたのかまだ眠っていた。香炉を回収し鍵を掛けておく。
顔と口をゆすぎ、細くなってきた髪を櫛梳る。自然と鼻歌を口ずさみながら香炉を拭き準備を整えていく。
教会のドアを開け、村人を見渡す。ジャンの両親は居た。あの二人の両親も心配そうにこちらを見ている。
「おはようございます。昨日スキル授与の儀式を行いました。しかしジャンが魔に魅入られていることが判明したため、ジャンとジャンの両親に浄化の儀を執り行います。」
悲鳴が辺りから聞こえる。我が子を抱きしめているのも見えた。
「二人はこちらへ」
道が割れ二人が青ざめた顔で歩いてきた。非難の声が波となって広がる。この二人は罪人と同じだ。さっさと終わらせてしまおう。
「また、残りの二人は神殿の麓にある教会へ奉公が決まり、昨日出立しました。
聖なる地へ旅立った二人へ祈りを、女神様の思し召しに感謝を。」
村人達が涙し祈りを捧げだす。単純なもんだ。
「本日のお導きは日が落ちる前に家へ入ること。」
そうして二人を教会内へ入れる。いつもより多めに入れておいた香炉はもう炊いてある。二人を入れたら待つだけだ。
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ゆったり早めの昼食を摂りながら、ゴブレットの命の水を飲み干す。薬が溶かされたこの酒は心地よい陶酔感をもたらせてくれる。濡れた唇を舐め、そうしてあの一家の待つ部屋へ向かう。
私が赴任する前から、この村で魔法スキル持ちは中々生まれなくなっていた。元居た街の教会だと私の番まで回ってくることが滅多になく、崩れたもので楽しめる者もいるが、私は一人でじっくりと堪能したかったので異動願いを出していた。満足な物資もない地を自ら望むなんてと揶揄われたこともあった。上を望む気は全く無く、自分の裁量で自由に出来るこの地が丁度良かった。これも偶の息抜き、天が与えた褒美だろう。
ドアを開けると一家は虚ろな目をしたまま横たわっていた。にやけてしまう。女に猿轡を噛ませ引き摺り出すと部屋に鍵を忘れず掛けた。
自室に寝かせ、昨日届いたばかりの壺を開く。匙で少し多めに取り飲む。効果が早く出るのが良いところだった。
ナイフで布を割いていく。ここのやつらは粗雑な服だから少々手間取る。だがそれが良い。元々薄汚れたものが傷つこうが変わりはない。焦らしに焦らされた私を深く潜らせた時、神を感じた。
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報告書
一日に白鳩商会のディルより雫一つの受け取り済み。
五歳女二人を納品。
火魔法持ちが出たので両親共に処理済み。
他特記事項無し。
エンゾ村司祭バーン
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連絡用の魔道具を使い報告書を送った。これで日常に戻るだけだ。