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「それよりもあなた達は神殿の近くへ行ってみたくはありませんか?
神殿は聖なる者しか入ることは出来ません。しかし神殿近くの教会には多くの者がおります。
シスターや神官などがそうですね。そういった者達のお世話をする者もまたおります。
あなた達二人のスキルはきっと役立つでしょう。」
「でもわたし、まだ…」
先ほどまで喜んでいたアンが期待を込めた目をしながら聞いていた。神殿の近くに奉公に行けるとなったら家族どころか村を上げて喜ぶのでは。スキルをもらったばかりですぐに使えるのかも分からないが行くことは出来るのだろうか。牧師が私にも微笑みかけてくれた。
「大丈夫ですよ。少しづつ覚えていけばいいですから。ではこちらへ。」
牧師の後をついて教会を出ると、幌付きの荷車が止まっていた。傍らに立つ男が牧師に挨拶をしている。初めて見る男だった。
「こちらの方があなた達を送り届けてくれます。」
「長くても二週間程で着くでしょう。お任せください。」
男は快活な笑顔でそう言ったが、私達は戸惑っていた。とてもありがたいことではあるのだけど、このまま出発するの?せめて両親に褒めてほしかったし見送りだってしてほしい。そんなに離れた場所にあるなんて知らなかったからこそ、なかなか帰ることも出来なさそうだし。アンに目を向けると、同じく言い出せないでいた。
「牧師様そろそろ出たいのですが」
「そうですね。あなた達の親には私から伝えましょう。大変名誉なことですから大いに喜ばれることになるでしょう。
自分から伝えられず悲しいと思われるかもしれませんが、これに乗らなければあの地へ行く事は叶いません。
これは女神様の思し召しなのです。さあお行きなさい。」
アンは決心したように手を組み牧師へ礼をし、男へも礼をした。そうして荷車に乗り込んでしまった。アンについていないと!と思った私も急いで礼をし、後を追う。
前から幌をまくり男が顔を覗き込む。
「そこにある毛布をかぶるといいですよ。ここから先は段々と冷えていきますからね。」
言い終わると幌が閉じられ、次第に荷車が動き出した。私達は重ねるように置いてあった毛布を一緒に被り寄り添うように座った。お互い夏の服の上に冬の服を重ね着し、獣の皮のポンチョを纏っていた。動いているならこれで十分であったが、言われたので毛布を纏うことにした。
「…一人じゃなくてよかった」
私もアンが一緒でよかった。手を繋いで揺れに身を任せることにした。