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スキル授与の儀式は昼に行われた。
この日ばかりは教会内に入ることができる。
この村で五歳になる子供は私とアンとジャンの三人、緊張と好奇心でわくわくしながら扉を開くと思わず息が漏れた。奥で牧師が私達を手招きしている。
「こちらが女神様です。」
恐る恐る歩いていく。初めて見る女神像は私達の身体よりも大きく、触れてはいけない神聖さのようなものを感じさせられた。不思議と甘い香りがしていた。
「唯一神の女神様から与えられるスキルは正しい子に与えられます」
女神様への信仰心が強いほど聖なるスキルを手にすることができ、逆に離れるほど魔に落ちると言われ、魔に魅入られた者を出した家族は浄化される。そんなことを言っていた気がする。
視界の隅で二人が動くのが見えた。女神像とこの空間に圧倒されていた私も急いで祈りの姿勢に入る。何でもない、とにかく今は祈りを。目を閉じ組んだ手に唇を落とすと落ち着いた気持ちにさせてくれた。
ピロン
”料理スキルを手に入れました”
女の人の声だった。
思わず目を開け牧師を見上げると微笑んでいた。
「わっ」
アンも声が聞こえたのだろう。
ふとジャンがまだ動かないことに気が付いた。その横顔はまだ真剣に祈りを捧げているみたいだった。
「さあ皆さん、女神様のお声は聞こえましたか?」
やっぱりあの声は女神様だったんだという感動で声が出なかった。
「さ、裁縫スキル!でした!」
アンがほっぺたを赤くしながら大きな声で言った。今にも飛び上がりそうだったので私も声を上げた。
「料理スキルでした!」
牧師はうんうんと微笑みながら頷いてくれた。
「ジャンはどうでしたか?」
まだ祈っていたジャンは、ゆっくりと顔を上げかすれたような声で、
「…火魔法、でした」
悲鳴が聞こえた。
アンが尻もちをついて叫んでいた。私は動けなかった。
ジャンは正しい子になっていたはずだった。だが女神様はジャンの本質を見抜き魔に魅入られた者だと決定付けた。彼は浄化されなければならない。そして彼の家族も。私もアンも恐ろしさに震えていると、牧師がジャンの腕をつかみどこかへ連れ立った。
「あんな子と友達だったなんてっ!」
アンが泣いていた。あの優しくなったジャンが嘘だったなんて考えたくなかった。だからきっと正しくなるのが遅かったのかもしれない。
前に父が言っていた。
「毎年どこかしらの村で魔に魅入られた子が出てくる。それでも父さん達が子供の頃に比べると少なくなった
子の罪は親の罪だ。両親のどちらかが魅入られてるのかもしれない。
だから家族まとめて浄化し正しく戻さないといけない」
私やアンがジャンから叩かれたりしたときに、一緒になって謝っていたジャンのお父さんお母さんが脳裏に浮かんだ。あの辛そうな顔は嘘だったのだろうか。
悲しい気持ちになって俯いていると、足音が聞こえてきた。牧師が帰って来たようだ。
「ジャンを浄化して!あんな子と友達だったなんて!わたしも正しくなくなっちゃう!!」
「あなた達の正しさは女神様が与えられたスキルが証明している。安心なさい」
そう言い切ってくれた牧師に安堵したのを覚えている。
「それよりもあなた達は神殿の近くへ行ってみたくはありませんか?」