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全てが唐突だった。
師匠は死んだのだと思う。私をおいていきやがってとか、色々言いたいことはある。
深く考えてる時間なんてない。空間拡張されたバックパックを引っ掴み手当たり次第に詰めていく。道具は絶対外せない分解出来る仕様でよかった。よく切れるナイフはベルトに差した。完成品で、いや素材で持っていた方が汎用性が高いのか…悩んだ結果両方持っていくことにした。時間の無駄かもしれないけど思い入れや師匠の顔がちらついた。
最後に師匠が隠していたノートを無理矢理入れ込み窓から外の様子を伺う。
よかった、まだ来ていない。
ドアノブに手をかけようとした時に気が付いた。この国では滅多に手に入らない魔物素材のローブが壁のフックに掛けたままになっている。それがすごく悔しい気持ちにさせた。
「ありがとうございました。…いつか帰ります」
裾を引きずらないようにベルトで止め、肩掛けのバッグとバックパックを背負ったらドアを開ける。行先は西の国境。途中の村に寄らずに山を越えていくなら二週間はかかるはず。問題はあの大河をどう渡るか。
いつもより早い歩きで慣れた森を進んでいく。
こんな時だからこそ焦ってはならない。走ると歩くよりも大きな痕跡を残す。走ると息が荒くなり周りの音が聞こえにくくなる。大丈夫家を出る時に人の気配はしていなかった。疲れて足を止めてしまうよりも長く距離を稼がなければ。それにいつもより少し荷が重い。
「ふーーー」
どれほど歩き詰めたか分からなくなった。
水筒から水を飲み両手を膝に置いて身体が空っぽになるように意識して息を吐く。
”吸ってばかりではいつまでも息は整わない、しっかり吐く”
”水は一度に沢山飲むな余計身体が重くなる。こまめに飲む”
教わってきたことを思い出す。ぼんやりしながら山を歩くなんて馬鹿のすることだ。
振り返ると黒い煙が上がっていた。きっと油を撒いて焼いたのだろう。なんせ雨季が明けたばかりだから。徹底して焼き尽くす教会に嫌気がさす。きっと私も追われることになる。
木の先を見上げ胸が大きく膨らむほどに空気を吸い吐く。そう、雨季が明けたばかりだった。足元だっていつも以上に取られて体力を消費する。
”森と共に生きるのが魔女だ”
濃い森の匂いをやっと感じられた。何してるんだろう、鼻がツーンと痛くなってきた。足を止めるのはやめよう。