7.子どもと冒険者と
はく、と子どもの唇が空気を噛んだ。
零れんばかりに瞠られた大きな緑の瞳。
泣くだろうか、叫ぶだろうか。それとも、逃げ出すか。
行動の選択を待ってもよかったが、俺としてもこれ以上子どもに負担をかけたいわけじゃない。
手の力が緩んだ隙に、腕を引く。騒がれる前に立ち去ろう。
それにびくりと身体を強張らせた子どもが、息を呑んだ。
「まって、やだ!」
勢い良く腕を掴み直して、子どもが悲壮な声で叫んだ。
予想外の行動にぎょっとする。
何もしていないんだが?
むしろとっとと逃げる気ですらある。そもそも攻撃する気ならわざわざ腕を外さないわけで。
「行かないで! 置いていかないで……ノアいいこにするよ、泣かないよ! だから」
涙の膜の向こうでゆらゆらと揺れる瞳が、まっすぐに見つめてくる。
土でできた腕に縋って、行かないでと強請る子ども。
まさか俺が魔物だと気付いていないのだろうか。ちらりとそんな考えが過ぎるが、すぐに否定する。
この明るさなら俺の姿はしっかりと見える筈だ。粘土細工のような不出来な頭部に、人より長い腕。全身を土で覆われた、おおよそ人間とは思えない異形。
すぐそこに3人のまともな人間がいるのだから、そちらに縋り付くべきではないだろうか。
判断を迷った一瞬、飛来する何かの気配を感じて、咄嗟に自由なほうの腕を突き出した。薄く延ばして面積を三倍くらい広げたそこに、鈍い音と共に2本の短剣が突き刺さる。
子どもに当たると判断して防御したが、軌道は僅かに逸れていたようだ。まあ俺には当たる方向だったのでこちらを狙ったものとみて間違いないだろう。
「目」を腕に移動させて見てみれば、例の3人がこちらをみて何やら騒いでいた。子どもの声で気付かれてしまったらしい。
「ばっか、アリシア! 子どもに当たったらどうすんだよ」
「ちゃんと当たらないように投げたってば! 当たってないでしょ!」
「たまたま! 偶然当たらなかっただけだろ! あいつが腕上げてなきゃ危なかった……!」
「ちょっと! 私が何度あんたを助けたと思ってるの! 失礼すぎない!?」
「二人とも落ち着いてください~。そんな場合じゃないんで~」
言い争う男女を、杖を持った女性が宥めている。
軽装ながらも武装した2人に対し、杖を持つ彼女の装備は無防備にも近い質素さだ。淡い色の頭巾に、足元まで隠れる長い衣服。全体的な露出は少ないものの、服の下に防具を仕込んでいる様子はない。
どことなく修道服を連想させて、内心首をひねる。聖職者、特に女性はあまり教会から出ないと聞いたことがあったのだが、国によって色々違うものなのだろうか。
「まずはあの子を助けることが優先ですよ~」
「っと、そうだな。すまん、エレン」
「ごめん……でもさ、正直これ以上の攻撃手段ないんだけど。短剣だって無限にあるわけじゃないし」
「何本あるんだ?」
「あと5本…さっきのとこ抜けるのにほとんど使っちゃったのよ。後は普通の剣しかないわ」
「5本で仕留めるっつーのは無理だよなあ」
「完全に警戒されてますね~」
彼らが攻撃してくるのは想定内なので驚きはないのだが、少々困ってはいる。
俺としては一刻も早く子どもをあの場所に放り込みたい。けれどこの姿では近寄れもしないし、何より子どもが離れようとしない。
あの三人も子どもを救助しようとしているようだ。俺と彼らの目的は一致しているのに、どうすることもできないもどかしさ。
「てか子ども! 子ども無事か? 俺には見えねぇんだけど!」
「えーと…たぶん? なんだろ、腕? が覆っててよく見えない……まさか食われてたり……」
不穏な会話にはっと気づく。
慌てて腕を下ろし、短剣を抜いて大きさも戻しておく。次に攻撃されたら土壁でも作って対処しよう。
彼らの声は子どもにも聞こえていたのだろう。腕が除けられたのに気づいて、慌てた様子で今度は俺の足にしがみついてきた。なぜ。
下手に動くとケガをさせそうでますます動けなくなる。これならまだ腕をつかまれていたほうがマシだった。
「あっ無事……えっ無事!? 飲み込まれそうになってる!?」
「大丈夫か!? 今から助けにいくからな!」
「待ってください~!」
「わー! ダメだってばジーク!!」
剣を掲げた男性があの場所から飛び出そうとして、同行者のふたりに止められているのが見える。
明りが届くとはいえ、この距離ならば捕食しようとしているように見えるらしい。
「泥人形に近づくのは危ないって!」
「泥に捕まったら終わりですよ~!」
「けど子ども助けねぇと! 大丈夫だって、俺たちDランクなんだし! Dランクモンスターなら適正だ!」
「なんで勝手に私たちも人数にカウントされてるの! 助けるけどさぁ!」
「ああ~、じゃあもうひたすら回復しまくりますから~!」
わあわあ言いながら、杭の範囲から出てくる三人。
子どもを助けようとする気持ちは買うが、こちらに攻撃してくるなら仕方ない。痛覚もないし再生も早いけれど、無駄に攻撃を受けるほど心が広くはないのだ。都度反撃させて貰うつもりである。
ただ、加減の程度は悩みどころだ。
相手の力量がわからないため、あまり手は抜けない。かといって全力を出せばこれまでの二の舞だ。子どもの前なのでやりすぎないようにしなければ。具体的にいうならば、体の一部が景気よく飛んでしまうような惨状は避ける必要がある。相手の生死はさておき。
「おい! 生きてるか、ぼうず!」
「動けそうならこっちにおいで! いまから私たちがソイツの気を引くから!」
「無理はしなくて良いですよ~! 助けますからね~!」
それぞれに得物を構えた三人が、子どもに向かって声をかける。
俺の足にしがみついていた子供は、自分が話題に挙がっていることに気が付いたらしい。そろりと顔を上げて俺を見上げ、それから三人の方へ目を向けた。
「おっ無事だな! よし、こっちこい! 俺が相手だあ!」
男性が懐から小瓶を取り出し、その場にひっくり返した。瓶の口からやや粘性のある液体がとろとろと石畳に落ちる。
途端にふわりと甘い香りが漂った。花の香りというよりは砂糖をしこたま煮詰めたような、ちょっとくどい甘さの香りだ。
昔、貴重な砂糖でうっかりやらかして珍しく兄に怒られた記憶がよみがえった。いや、あれは砂糖云々よりは煮詰めた鍋をひっくり返して火傷したことが原因だったかもしれない。
懐かしい記憶に浸りたかったが、状況は待ってくれない。
彼は瓶の半分ほどをぶちまけたあと、丁寧に栓をして再び懐に仕舞った。扱いが雑なわりに、貴重品を扱うような手つきがちぐはぐだ。
「さあこい! こっちだ! 食えるもんなら食ってみろ!」
そして剣をふりあげ、わかりやすい挑発をはじめた。
襲撃待ちのようで、その場から動く様子はない。
他のふたりはといえば、ひとりは杖を男に向けてじっとしているし、もうひとりは短剣を両手に構えている。どちらもやはり「待ち」の姿勢だ。
気を引く、と言っていたし、俺の注意が子どもから彼らに移るようにしたいのだろう。
そもそも俺の意識は最初から彼らに釘付けである。あれだけ大騒ぎしておいて注意を向けないほうが難しい。あの液体は何かわからないが、彼らの目論見自体は成功している。
ただ、子どもの注意が俺にしか向いていないのが問題だった。
呼んでるぞという気持ちをこめて足を動かそうと試みるが、子どもはぺたりと張り付いたままだ。
無意識に取り込んでたりしないよね? と自分を疑いたくなるようなくっつき具合である。
子どもが俺を仰ぐ。瞬いた緑の目に、強い光がよぎった。
「だめだよ、いっちゃだめ。けがしちゃう」
いや、行くのはお前なんだが。
あんな安い挑発でノコノコ出ていく気はない。俺に交戦理由はないのだ。この子どもを穏便に引き取ってくれるなら、さっさと退散する気満々である。
「おーい! こっちだ!! ほら獲物はここだぞ!!……なあ、効いてなくねぇ?」
「そうですね~なんか無視されてる感はありますねぇ」
「でも魔寄せ効かないってことある? ジーク、それほんとに魔寄せ? 魔除けじゃなく?」
「うぇー? ちゃんと確認したけどな……うん、ほら魔寄せって書いてある」
瓶のラベルを見せあって再びわいわいと騒ぎ始める三人。
なんというか、いまいち緊張感にかける三人である。まあ仲が良いのはいいことだ。子どもをきちんと保護してくれそうなところも高得点。
「こうなったら特攻するしかないか! 仕方ねぇ、回復かけ続けててくれ!」
剣を振り上げて力強く宣言する男性。襲撃待ちは諦めたようだ。
そういうことならと、俺も戦闘準備に入る。適当にあしらうつもりでいるけれどどうなることやら。仮に失敗した場合、次の機会があるとしたらどのくらい先だろうか。俺はともかく子どもの体力が心配である。村では魔物の肉も食えたが、ダンジョンの魔物はそれすらも難しい。
先のことに思考を回しながら、足元の泥を崩して周辺の地面を支配下に置く。
俺の行動に子どもも気付いたのだろう。子どもは焦った様子で声を上げた。
「まって! だめ! こないで!」
まさかの被害者からの発言に、三人はぎょっとしたあと、慌てて声を投げてくる。
「えっ」
「大丈夫よ! 絶対助けるから!」
「諦めないでください~!」
どうやら、子どもが現状を悲観して弱気になっているものと思ったらしい。
励ます彼らの声に子どもは大きく首を振る。
「ちがうの! ノアをたすけてくれたの! いいひとだから……いじめちゃだめ!」
ひとって。
魔物と理解していると思っていたが、まだ人間に判定されているのだろうか。子どもの危機察知能力が心配になってきた。足が崩れて地面とつながる人間なんていないと思う。
「えっ……い、いや、いじめるとかじゃなくて……」
「いいひと……? えー……その、ぼうや、モンスター……いや、魔物って知ってるかな?」
「はぇ……?」
三人が面白いように混乱している。大丈夫だ、俺も混乱している。
「……ええと、あ、あっ! とにかくこちらでお話しませんか~? 私たちにいろいろ教えてください~」
杖を持った女性が、ぽん、と手を合わせて提案してきた。子どもと俺を引き離すつもりだろう。頭ごなしに否定しないあたりがなかなか良いやり方だ。
「ここにどうやって来たのか気になりますし、おうちの人のお話も聞きたいです~あと、貴方のお名前も~いかがですか、あちらで座ってお話しませんか~?」
示すのはあの場所だ。彼らの安全も確保できるし、子どもの安全も確保できる。魔物とも分断できるし、一石二鳥である。
だが、子どもは頑なに首を振る。
「はなれるの、いや」
一層がっつりと足にしがみつかれる。その質感からも人間ではないとわかるはずなのだが、躊躇う素振りもない。本当にまだ人間と勘違いしているのか、それともわかっていても危機感がお仕事していないのか、どちらだろうか。どちらにしろ異常事態には違いないのだけど。
それを見守っている三人の顔色がとても悪い。困惑とも焦燥ともつかない、複雑な表情をしている。気持ちはとてもよくわかる。
現状を打破するには、俺が子どもを置いて去るのが一番だろう。しがみつかれているといっても、俺の足はただの土の塊だ。どこを壊しても再生可能なのだから、適当なところで壊して拘束から逃れればいい。その気になれば子どもを振り切ることは容易いはずだ……たぶん。
それをしなかったのは、単純にこの危機感の薄い子どもが心配だったから。
外まで見送れるなら一番いいが、現状それは難しい。ならばせめて安全圏に、せめて誰か信用できる人間に。つい色々と考えてしまうのは仕方ないことだった。
わけもわからず魔物の身体になってから、出会った人間は皆攻撃的だった。
こんな見た目だし魔物が跋扈するダンジョンだから、それを責める気はない。命が掛かっているのだ。生きるために戦うのは当然のことで、こちらもしっかり反撃したのだから、被害者面をする権利なんてないこともわかっている。ただ、どうにもやるせない気持ちになったのは事実。
「俺も人間なのに」と思う気持ちばかりはどうしようもない。だから、見えないとはいえ笑いかけてきた子どもを無事に帰してやりたくなった。それだけのこと。
見たところ、この三人は良い人間のようだ。ある程度の危険を冒してでも子どもを助けようとしている。彼らに保護されれば、きっと子どもは無事に元の場所に帰れるだろう。
ここまで見守れただけでも十分かと半ばあきらめて、足を崩して逃れようとしたときだった。
接近してくる複数の魔物の気配に、はっとする。
男性が振りまいたあの液体。
彼らは何と言っていたか。
『魔寄せ』――つまりは、魔物を誘因する何かだということ。
正直、俺にはなにも感じられないのだが、他の魔物がそうだとは限らない。
三人はまだ気づいていない。あれこれと子どもに向かって話しかけている。子どものほうも警戒心は薄れてきたようだがまだ頑なに首を振っていた。
本格的な戦闘になる前に対処してしまおう。幸い、配置的に俺が最初に戦う羽目になるはずだ。
地面に体をなじませて、さらに支配部分を増やす。これで準備は完了。
「――んっ!? 待て、なんか来る!」
「えっ、あ! 魔寄せ!」
慌てて三人が武器を構えて、子どもに早く来いと声を掛ける。
その瞬間、俺の背後から魔物が躍りかかった。狼に似たその姿にふさわしく動きは俊敏だ。素早さ勝負ならば鈍い俺に勝ち目はないけれど、あらかじめわかっていれば対処は容易い。
鈍い音と共に、腹から背にかけて土の柱が貫く。四肢を跳ねさせた魔物は、血を吐いて動かなくなった。
――まずは一匹。
串刺しになった身体がだらりと垂れるその横から、仲間の死など興味ないとばかりに次々と新手の魔物が現れる。
もちろんそちらも対処済みだ。地面についた足をからめとり、土中に引き込む。壁を這ってきた蛇もどきは厄介だが、礫の要領で固めた土で打ち落とし、こちらも地面に飲み込んだ。泥人形は埋めたところで窒息はしないが、それ以外の魔物ならば余裕で窒息死させられる。
埋めそびれた魔物は、土の柱とそこらに埋まっていた植物の根を利用して排除する。
そこかしこから断末魔が響く。子どもには恐怖だろう。かわいそうだとは思うが、獲物の口を封じるところまでは気が回らなかった。こちらには一匹たりとも近づけないのでそれで我慢してほしいところである。
ひとまず近場の気配が消えた頃には、その場には魔物の死骸が散乱していた。
ほぼ時間差なく倒したため、まだどれも消滅していない。これがダンジョンでなければ素材も取り放題だったろうに。
漏れた魔物はいなかったようで、子どもも三人も無事だ。当然俺も無傷である。
「……え」
「……待って、ちょっと待って、今何が起きたの……?」
武器を構えたままぽかんとしていた三人が、そろそろと俺たちに近づいてきた。
先ほどまでの攻防が嘘のようにあっさり距離を詰めてくる三人に、そうしている自覚はないらしい。状況を見るために半ば無意識で近寄ってきているようだ。
俺にはやや明るいと思える程度だが、人の目には恐らくそうではない。
先頭の男性がカンテラをそろそろと掲げ、俺とその背後の闇を照らす。
その間、俺は彫像よろしく大人しくじっとしていた。我に返って叫ばれるのも面倒くさかったので。
……俺だからいいけれど、この三人も大概危機感が薄いな。
ちなみに元から危機感が行方不明な疑いのある子どもは、三人の行動を止めるでもなく、同様にぽかんとした顔で背後の惨状に目を奪われている。
男性が持参したカンテラによってそこそこ明るくなったため、転がる魔物もよく見えているようだ。
「"飛蛇"に"土竜鼠"……"土狼"……こいつはCランクだぞ……」
「一撃……これ、あの泥人形が?」
「泥人形は確かDランクモンスターですね~……Dランクでしたよね~?」
「Cランクを一撃で……? Dランクモンスターが?」
「中層って、こんなんだったっけ……」
ようやく消滅しつつある魔物を検分していた三人が、それぞれ好き勝手につぶやいている。完全に会話になっていない。
「……いや、まて。それよりなんで俺ら生きてるんだ?」
はっとした様子で俺を見る三人。思ったよりも接近していたことに驚いたのか、跳ねるようにして数歩後ずさる。
なんでも何も、俺が攻撃しなかったからだが。攻撃してくるなら反撃はするけれど、できれば早々に子どもを預けてさよならしたい。
「 いい人なんだよ!」
子どもが俺の足にしがみついたまま、得意げに胸を張った。
なぜ誇らしげなのか。後ろの惨状を見てもなお俺を「人」と言い張るあたりも含め、よくわからない。
「ええぇ……いい人……人っていうかどうみても泥人形なんだよなあ」
「……わかりました~では、その方と一緒にあちらで休憩しましょう~?」
ぼやく男性の隣で、修道服の女性がぱちんと手を合わせた。どうでしょうか、とにこにこと微笑む彼女の肩を、赤い髪の女性が慌てた様子でつかむ。
「エレン! それはさすがに! あれモンスターだよ!?」
「こうでもしないと話が進みませんよ~。そのうちまた他のが寄ってきちゃうと思いますし……」
「それは……まあそうね。魔寄せ、まだ効いてるはずだものね?」
意識的に動かないようにしている俺を見遣り、困惑気味に零す。
「効果は一時間、でしたっけ~? ジーク、どうでしょう? せめて魔寄せの効果が切れるまでとか……」
「あー……そうだな、魔寄せ使っちまったしなあ……それがいいかもしれねぇ。
なあ、ぼうず。横の、その……そいつと一緒でいいからあっちに行こう。あそこは『安全地帯』ていって安全な場所なんだ。このままここにいるとまたあんなのが襲ってくるからさ」
ある程度離れた場所から手招きする男性。子どもに気安い態度をみせているが、警戒は解いていないようだ。
「でも、いじめない?」
子どもが、悩む素振りで首を傾げる。誰を、が抜けていたが聞くまでもないだろう。三人の目が俺をちらりと見て、軽く両手を挙げる。
「わかった、俺らからは何もしない。いじめないって約束する」
攻撃されたらその限りではない、と言外に滲ませて、男性が言う。
彼らの宣言を受けて、子どもは俺から少し身体を離した。俺を仰いだ子どもは少し不安そうな顔で言う。
「……一緒にいこ?」
特に反応しないでいると、俺の足をそろそろと放して、垂らしたままの手を握った。
面倒なことになった。
あの場所は、魔物の侵入を拒む。一度挑戦してみたからそれは間違いない。三人が、その特性を利用して俺と子どもの分断を図っているのは間違いなく、俺としてもそれは歓迎するところではあるのだが。
俺が弾かれるとわかれば、この子どもはどうするのだろう。
仕方ないと、魔物だと諦めてくれれば良いのだけど。
ここまでのよくわからない執着といい、そうなったら余計こじれそうな気がする。
嫌な予感に悩んでいると、歩き出した子どもにぐいと腕を引かれた。
か弱い、子どもの力。
振り払うのは簡単だし無視するのはもっと簡単だ。
けれど不安そうに揺れる瞳と、向けられた笑顔を思うと。
足元の土との同化を解いて、引かれるまま足を動かした。子どもがぱっと顔を明るくする。
まあいい。
どうせ今の俺にできることなど何もないのだ。
多少状況に流されたところでいざとなればどうにでもなる。この魔物の身体は疲労も痛みも感じないし、手足や頭を吹っ飛ばされても再生できる。
少し離れた場所でおののいている三人を眺めながら、諦めの境地でしばらく付き合うことにした。
数字が漢数字になったり数字表記になったりしていますが、読みやすさ?重視で敢えてそうしています。