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その従魔おかしくないですか?~ダンジョンボス(元人間)ですが、主人の平穏な生活目指して頑張ります~  作者: 東風 晶子


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38.目に痛い青

 思ったよりも平和に日々が過ぎている。

 魔物(おれ)が姿を変え、あまつさえ喋るなんて事態だ。追い出されはしなくとも、激しく反発されるか、腫れ物に触るような反応がくる可能性を想像していた。それこそ、初めてここにきた頃のように。

 ところが現実は、のんきに厨房で芋を剥いているわけで。


「器用なものねぇ。初めて包丁を触ってこれって……もっと早く手伝ってもらえばよかったかしら」


 芋まるまる一個分、連なった皮をつまんで、パメラがそう褒めて寄こす。

 昔取った杵柄、もとい生前の訓練の賜物である。

 家にいることが多かったので、料理はそれなりにできる。凝ったものは作れない。あくまでも、基本的な「それなり」だ。ただその殆どが当時……2000年前の記憶に基づいているため、現代に応用がきくとは限らない。

 幸いにも、包丁はさほど変化しなかったらしい。見覚えのある形だったのでなんとか扱えている現状。


「ほんとに上手ですねぇ。羨ましい」


 ため息とともにキャロルが零す。その手の中にある芋は、だいぶ角ばってきている。


「キャロルもだいぶ上達してきたわよ。前はもっと小さかったし」


 このくらい、と示すのは今の芋の半分の大きさ。可食部が少ない。


「ちょっとは成長したと思ってたんですけど……ルーチェに置いてかれてしまいました」


 くすん、と泣き真似をして、キャロルが次の芋に取り掛かる。確かに角ばってはいるが可食部は大幅に増えているし、そこまで悲観するものでもない。それに、芋の類は厚めに剥いたほうがいい場合もあるので。


「ルーチェは器用だから、私もすぐに置いていかれるかもね」

「いっそこの機会にルーチェに色々覚えてもらった方がいいかもしれません。こう、かぼちゃとか肉とかの処理」

「かぼちゃはわかるけど肉はどうかしらね。最近は小さいものしか手に入らないし」


 かぼちゃは一抱えもあるような大きさが一般的で、皮が厚くて固い。肉は大体は加工済みだが、時々未加工の、いってみれば素材そのままが運ばれてくることもある。

 どうやら、力が必要な食材の加工要員として期待されているらしい。

 手伝うのは(やぶさ)かではないが、力加減が難しそうだ。かつての感覚で力を込めたら細切れになりそうなので、初回の失敗は見逃してほしいところ。

 ちなみに、ここの食事はパンとスープが基本だ。手に入る食材次第で豆だったり芋だったりとスープの具が変わるのだが、肉はあまり手に入らない。

 加工の手間がかかるためか、比較的値段が高いのだそう。同じく加工されているパンはどうなのかと言えば、この国においてパンは「生きるために最低限必要なもの」という位置づけらしく、下手したら芋などよりもずっと安価で購入できるのだとか。今より食糧事情が厳しかった頃もパンだけは人数分手に入ったらしい。

 パン屋の採算が気になるが、きっと相応の措置がとられているのだろう。たぶん。


「でも、パンもちょっと高くなりましたよね」

「少しだけね。今年は作物の出来も良くないって話だから、芋もこれから上がるかしら……」


 町で仕入れてきたらしい噂話と、愚痴めいた世間話に花を咲かせるふたり。

 俺はなんとなく彼女たちの話に耳を傾けながら、芋を剥く。

 彼女たちの態度は、俺の姿がこうなる前とほとんど変わらない。彼女たちもローレンも、最初こそ混乱していたようだったが、翌日にはケロリと元通りになった。

 しばらく接触を避けるべきかと考えていた俺の方が拍子抜けしたほどだ。アンジェリカがうまく説明してくれたのかもしれない。


「そういえば、食べることはできるのかしら?」


 ぼんやりとふたりの話を聞いていたら、パメラが話を振ってきた。


「……できる」


 剥き終わった芋を籠に放り込んで、頷く。

 これも、当初は知らなかった。食べる必要はないし確認もいらないだろうと思っていたのだが、ノアや子どもたちは好奇心から、ローレンからは「万一のために」と試してみることを薦められたのだ。

 万一の状況がいまいち思い浮かばないが、周囲からせがまれると断りにくい。

 ただ、貴重な食糧を消費するのは躊躇われた。

 ならば畑の収穫物なら良いだろうと言う話になり、『奥の庭』でやたらめったら繁殖してしまった葉物――サラダやスープに入れるのが一般的らしい――を食べてみた。

 軽く水洗いしたそれを口に放り込まれ、もぐもぐと咀嚼して。

 野菜特有の青みのある香りと、シャキシャキとした食感。ほのかな苦みに、じゅわりと広がる水分。

 かつて確かにあったそれらの感覚がきっちりと蘇るのを自覚した。

 本物の『口』では終ぞ感じなかったそれらが、この飾り物の口では感じられるらしい。

 ひとり感動していたが、それはノアには伝わっていなかったらしい。

 首を傾げて「おいしい?」と訊かれたので無難に「わからない」と答えておいた。

 味覚の存在に感動はしたが、それはそれ。口に入ったのはただの生野菜である。しかもサラダ用というわりには、えぐみが強い。これ下処理がいるヤツじゃなかろうか。美味しいかどうかと問われたら微妙である。むしろあまり美味しくない部類。

 食べたものが消化されるのか、それとも身体のどこかに収納されているのか、そのあたりは我が身ながらさっぱりわからない。特に不調も異変もないので、良い感じに処理したのだろうと思っている。


「あら、じゃあ味見係もできるわね。今日の味見はお願いね」


 さらりと決定されてしまったが、味覚が一般的かどうかは疑問だ。


「味……ヒト、違うかも」

「でも味はわかるんでしょう?」


 味覚の好みが違うかもと伝えれば、味覚の有無を尋ねられたので頷いておく。味はわかる。


「なら問題ないわよ。ルーチェの好みの味もわかるし、ちょうどいいじゃない」


 パメラの言葉に、キャロルもその通りだと頷いている。

 俺の味の好みがわかっても意味はないのではなかろうか。

 いくら姿が変わろうと、俺自身の生態に変化はない。つまりは飲食不要の魔物だ。アンジェリカも知っていることなので、修道女たちにもその辺りは伝えられていると思っていたのだが。


「なんでって顔してるわねぇ。喋れるようになってもそういうところは変わらないのね」


 こちらを見たパメラがころころと笑う。そんなにわかりやすいだろうか。


「ルーチェが何も食べないのは知ってるけどね。お祝いとか、たまに機会はあるでしょ? そういう場ではちょっとくらい食べるのがマナーよ」

「まなー」


 そんなものか、と瞬くと、パメラは「うそうそ、冗談よ」と更に笑った。


「マナーはともかくちょっと寂しいじゃない。作る方としてはみんなに美味しいって食べて欲しいのよ。できれば、ルーチェにもね」


 だから味見よろしくね、と言われて、戸惑いながらも頷く。

 言いたいことは理解できる。

 かつて食事を作っていたのは、俺でもできる仕事を探した結果だった。男手が必要とされる場で、俺は全く役に立てなかった。それどころか虚弱ゆえに手間をかけてばかり。せめて少しでも役に立とうと、罪滅ぼしのような気持ちでしていたことだったけれど。

 それでも、家族が喜んで食べてくれるのは嬉しかったのだ。


「そろそろ終わりそうね? 次はこっちを刻んでちょうだい。私は鍋を用意してくるわ」


 新たな芋に取りかかっている途中、パメラが追加の籠を持ってきて俺とキャロルの前に置いた。

 中に入っていたのは芋ではなく、目に痛い鮮やかな青の球根だ。

 玉葱である。

 見慣れない色だが、形状も、刻むと目鼻に刺激がくるらしいところも記憶のままだ。不思議なことに、水にさらしたり火を通したりといった加工をすると、透明な見慣れた玉葱になる。

 きっと味も記憶のそれとそう変わらないに違いない。

 2000年の間に進化したか、環境に適応して生まれた品種なのかもしれない。

 まあ今の俺ならば、玉葱の刺激に泣かされることもない。妥当な役割分担である。

 キャロルの目の前にも積まれた玉葱の籠を、俺のほうに引き寄せる。

 かわりに、俺の足元にまだ残っていたいくつかの芋を彼女に渡した。


「あら……いいの?」


 頷く。キャロルが玉葱の処理がしたいならやめるけれど、と無言で見遣ると、キャロルは勢い良く首を横に振った。相変わらずなんとなくで意図が通じている謎。

 ならよし、と籠を更に引き寄せて、まな板を用意する。

 俺は食べないとはいえ、それなりの量だ。どうやら味見が済むまでは厨房から解放されそうにないし、手早く処理してしまおう。彼女たちも俺も、この後にやることが控えているのだ。のんびりしている暇はないのである。






「ルーチェ、そっちいったよ!」


 ノアの声と同時に、茂みから小さな影が飛び出した。

 頭に2本の角を生やした兎めいた姿。雷兎だ。

 キッ、と短く鳴いたそれが、角に紫電を纏う。逃亡できないと悟って攻撃に転じるようだ。

 危険は感じない。一度食らったこともあるがダメージは皆無に等しかった。傲慢でも慢心でもなく、事実として雷兎は弱い魔物なのだけれど。


「……火の、矢、」


 呪文を紡ごうとして躊躇い、おざなりな言葉が漏れる。だが効果は劇的だった。

 矢を(かたど)った炎が、紫電を纏った角を割り砕き、頭部に突き刺さる。噴き上がった炎が見る間にその小さな身体を焼き尽くした。

 骨の一欠片、灰すら残さない勢いで。


「えと……燃えちゃった?」


 雷兎を追ってきたノアが、気まずそうに聞いてくる。

 それに頷いて、黒く煤けた茂みを示した。炎は雷兎を燃やし尽くしたらあっさりと消えた。延焼はほぼないが、それでも雷兎のいた場所は少し焦げてしまったようだ。


「……間違い、ごめん」


 燃やし尽くすつもりはなかった。

 決して値が高いわけではないものの、雷兎の角と毛皮は素材として売れる。特に今回は、冒険者ギルドの『討伐依頼』で訪れている。素材として売るのはともかく、討伐の証明として角の提出が求められていた。

 なので、可能な限り無傷で、最低限角だけは確保しなくてはならなかったのだが。


「うーん、やっぱり呪文は難しいかなあ?」


 ノアが首を傾げているが、実際はそういう問題でもない。

 冒険者として活動していく中で、戦い方もそれらしく装うことをジークたちから薦められていた。ダンジョン内ならばともかく、それ以外での活動となるとどこで誰に見られるかわからない。周辺の土を操作したり、怪物(モンスター)の力に任せて素手で戦うわけにもいかないだろう。

 そこで魔術を推してきたのはノアだった。これまでは声がでなかったので無理だったが、今は違う。呪文さえ詠唱できれば、剣や弓を扱うよりもよほど怪物(おれ)には向いているのではないかということで、魔術を使ってみることになったのだが。

 不慣れさを装っている現状、それは難しかった。呪文は長い上に難解な言い回しが多いのだ。それをペラペラと(そら)んじれば、普段の会話がおぼつかないことに不信感を抱かれかねない。

 ノアにはバレてもいいとは思っているが、なるべく先延ばしにしたい気持ちもある。ノアにこれ以上隠し事を背負わせるわけにもいかないし、隠蔽に協力させるのも気が引ける。

 結果として、当然ながら魔術は不発。

 それでも傍目にはそれっぽい攻撃ができているのは、俺が「魔法」を使っているからだ。

 面倒な詠唱のいらない魔法ならば、魔術が不発であっても近い効果は得られる。要は周囲に魔術と誤認させればいいのだから、最悪このままでもと思っていたのだが。

 予想外に、魔法の威力が強い。

 かつての、つまり生前の感覚で魔法を使うと、威力が跳ね上がってしまうのだ。

 原因は幾つか思いつくが、孤児院内では思い通りに使えたところから考えるに、俺の気持ちの問題のような気がする。肩に力が入っているというか、身構えすぎているというか。


「次は僕がやってみるね。見ててね!」


 だいじょうぶ、と笑ったノアが、元気に茂みへと突っ込んでいく。

 このあたりの平原は雷兎の棲息地であり、それこそ茂みをつつけば出てくるレベルで遭遇率は高い。今も、ノアの勢いに驚いたらしい小さな影がぴょこぴょこと逃げている。雷兎は肉食なのでそこまで臆病ではないのだが、もしかしたらさっきの火の勢いを見ていたのかもしれない。


 

 俺たちがこの『討伐依頼』を受けることになったのは、そろそろ稼ぎたいという話になったからだった。

 きっかけはダンジョンでの戦闘だ。俺が色々変わってしまったあの日である。

 結果的にバタバタしてしまってそれどころではなかったが、振り返ってみれば悪くない内容だった。

『炎の剣』という熟練の引率があったとはいえ、ノアも怪物(モンスター)相手に怖じ気づくことなく戦えていた。体力が不足しがちではあるが、すぐに引き返せる場所、休憩ができる状況であれば問題ない。あとは俺がちゃんとノアの様子をみておけばいいだけである。

 本人も随分と自信をつけたようで、アンジェリカに討伐解禁を直談判していた。

 アンジェリカは、俺にも意見を求めた上で、必ず俺と一緒に行動するようにと言い含めて許可を出した。

 俺としても、討伐依頼が受けられるようになったのは有り難い。

 何しろ俺の装備はアンジェリカの財布から出ている。勿論、また破くような真似はしないつもりだが、冒険者の装備はそれなりに金がかかることを痛感した。

 加えて、討伐依頼の解禁と共にノアのローブも新調している。こちらも防具仕様になっているため、当然ながらそこそこのお値段。出資はアンジェリカ。

 非常に心苦しい。

 ノアはいいとしても、俺の衣服は間違いなく不要な出費である。今後のことを思えば、破損の際に買い替える、或いは修理できるだけの資金は必要だ。

 そしてできれば、アンジェリカに幾ばくか返したいところ。


「とったよ!」


 茂みが揺れて、葉っぱをつけたノアが現れる。

 その手には一匹の雷兎。四肢をだらりと弛緩させている様子から、既に事切れているのがわかった。

 だが、焼けた跡も、それらしい傷も見当たらない。


「ノア、火、魔術?」


 ノアは火の魔術に適性がある。いずれは他の魔術もと意気込んではいたが、今のところは火魔術のみを重点的に学んでいた。魔術以外に攻撃手段を持たないノアだから、火魔術で倒したはずなのだが。

 不思議に思って首を傾げたら、ノアはにこりと笑って。


「殴ったよ!」


 ……なんとも男前な答えが返ってきた。

 雷兎の討伐依頼は初心者向けであり、冒険者の間では『ウサギ狩り』と称されるほど。

 素材を重視するなら確かに、殴ったり切ったりするほうがいいだろう。火を使うのは悪手だというのは、誰でもわかる。……まあ、その誰でもわかる方法でやってしまい、素材をダメにしたのは俺なのだが。


「このまま殴っちゃったほうが早いもの。角も毛皮もきれいだし」


 凶器となった石を両手に握り締め、にこにこと笑うノア。たくましい。


「ルーチェも魔術、無理しなくてもいいよ? 呪文大変でしょ」


 ノアは呪文のせいだと思っているようでそう気遣ってくれる。俺は自分の頭の固さ、もとい、機転の利かなさに軽く自己嫌悪に陥る。

 けれど、そうか。

 要は上手く偽装できればいいのだ。魔術に(こだわ)る必要はない。

 素手にしろ剣にしろ、人の範疇を超えなければそれでいい。


「わかった」


 頷いて、頭を切り替えた。

 ノアから雷兎を受け取り、持参した麻袋に入れる。既にいくつか素材は入っているが、今のところちゃんとした形を残しているのはノアが倒したこの一体だけだ。あとは焼け焦げたり角だけだったりと、キレイとはいいがたい。


「じゃあ次はあっちのほうに行ってみよう」


 ノアが草原の奥を指さすのに頷いて、麻袋を担ぐ。

 俺の恰好は相変わらずの不審者めいたローブだ。フードを深めにおろし、口元を顔布で覆うのがいつもの恰好だが、今日は顔布をつけていない。

 かわりにやや仰々しい仮面を嵌めている。

 顔の上半分だけを覆うそれは、紫毒鳥という魔物を(かたど)ったものらしい。なんでも体内に毒を溜めこむ性質があり、そのため大抵の毒は効かないのだとか。どこかで聞いたような特性だなと思っていたら、エリアーテのところにいる金眼鳥の亜種だそうだ。見た目は良く似ているそうで、目の周囲の羽が紫色をしているのが見分け方のポイントとのこと。

 渡された仮面は、確かに目の周りが紫に彩られていた。そして全体的に青。それも玉ねぎ同様に目の醒めるような……むしろ目に痛い青である。

 特注かと思いきや、どうやらよくある量産品らしい。実用品としてではなく、あくまでただの装飾品、どちらかといえば験担ぎやおまじないという意味合いの強いものだそうだ。

 紫毒鳥の「毒が効かない」という特性にあやかって、毒物を扱う職業や、そういった場所にに行く冒険者などにそこそこ売れるらしい。

 ……と、ギルマスのお遣いで仮面を持ってきたジークが説明してくれた。

 ただ、ジーク曰く「つけててもおかしくないけど、とりあえず目立つ」。

 だろうなとは思う。

 形は完全に鳥の頭。覆われているのが鼻から上なので、辛うじて人の部分が見えているのが救いと言えば救いか。それでも嘴を模した部分が前方に伸び、やや湾曲しているためにやはり顔は見えづらい。

 そして何より、全体に塗られた目に痛い青。

 さすがにノアからは不評だった。

 なので魔道具や魔術の仕掛けなどがないことを確認してから、埋めた。

 なかったことにしようとしたわけではない。したかったけど。

 土の成分を沁み込ませたら、多少色が落ち着くのではないかと思ったのだ。それでもダメだったら泥で塗り固めてみるしかない。

 結果、色味はずいぶんと改善した。

 一晩土の中に埋めていた仮面は、黒っぽくなった。よく見れば濃い青なのだが、一見すると黒にしか見えない。目の周りの紫も、やや落ち着いた色合いになっている。紫毒鳥の面影など形くらいしかないだろうが、ノアに好評なので満足している。

 まあ本音をいえば顔布の方が楽なのだけれど、波風は立てないに限るので。


「ルーチェかっこいいね」


 仮面のことを考えていたら、見上げてきたノアがしみじみと言った。


「ぼくもお揃いのお面、買おうかなあ。そんなに高くないんだって」


 青から黒へと変化を遂げた仮面は、ノアの琴線に触れたらしい。まあ黒っぽい服が格好良く見えるのはわからなくもない。だがふたり揃って黒い仮面なんてしたら不審者感が増してしまうのでは。いや、俺一人で十分不審者なのだけれど。


「杖、買う、先」

「うん、そうなんだけど……杖、たくさんお金いるんだもん」


 先に杖を買うんだろうと言えば、しょんぼりとノアが言う。

 杖の代金はまだまだ貯まらない。ローブに関しては渋りながらも最終的にアンジェリカの厚意に甘えていたのに対し、杖は「自分で買う」のを譲らなかった。ノアなりのこだわりがあるのだろう。


「あ、でも帰ったらはずしてね? ルーチェの目がみえないから嫌だ」

「わかった」

「布もだめだよ。あと、お部屋にいるときはローブも脱いでね!」


 ノアは、俺があれこれと隠している状態が不満らしい。

 まあ俺としても、視界を遮るものがないのは気分が良いので否やはない。もともと、否やがあるのは俺たちの周囲の人々のほうだし。

 ちなみに、この仮面が届くまでは冒険者活動は禁止されていた。

 曰く、「顔布じゃ被害拡大を防げない」。

 相変わらず俺の顔が劇物扱いである。

 非常に納得がいかないのだが、修道女たちやローレンには納得できる内容だったようで力強く頷かれたし、仮面の重要性を説かれた。ただ、実際にジークが持ってきた仮面を見て全員が無言になったので、彼らの中でも何らかの葛藤があったと思われる。

 とはいえ、ここ最近は顔布を外して過ごすことも多い。厨房に手伝いに入るようになって、ひらひら揺れる布が邪魔になり外したり付けたりしているうちに、周囲のほうが俺に慣れたようだ。

 今では、あれこれ言っていたローレンすら普通に素顔の俺に話しかけてくる。

 買い物くらいは素顔でもいいのでは、とそれとなくローレンに言ったら全力で止められたが。

 なんでも、「耐性が付くまでは大丈夫じゃない」そうだ。

 なるほど、さっぱりわからん。



なんだかんだ馴染んでるルーチェ。

ちなみに『炎の剣』にはまだおしゃべりできることは秘密にしています。

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