占いラーメン
朝からなんとなく、気分が悪い。
おはようテレビの占いコーナーで11位を取ったったからだ。というか、11位というのが本当に気に食わない。12位ならどうしたら良いのか教えてくれるのに。11位だとあまり構ってもらえない。
ただラッキーアイテムがラーメンなことだけは確認した。今日は絶対にラーメンを食べに行こう。今日のラッキーアイテムが銀杏とかでなかったことにはまぁ安堵している。
これは持論だが、人が占いに求めることは自分の話をしてくれることだと思う。今日の運勢とか、どの方角が良いとか、そういうことは案外どうでもよくて、アナタはこういう人です、こんな性格で、これが好きであれが嫌いです、だからこっちに進むべきなんですと、いつだって自分の話をしてくれる。そういうことを求めている気がする。
友人の悩みを聞くより、自分の仕事の愚痴をした方が人は楽しいし、今自分の顔の上にあるニキビとかの方が気になるのだ。朝の占いなんて今日の晩御飯の選択に多少役立てたりはするが、本気でラッキーラーメンにすがる気はさらさらない。慌てて身支度をして会社へ向かう。
「荒木さーん、ここ、違ってるよ!やり直しね」
課長だ。本当に朝から鬱陶しい。課長はとにかく口が臭い。コーヒーを飲むしタバコも吸う。多分歯石も取ってない。言い方も高圧的で腹が立つ。人は話し方が9割なんて本が流行ったが、残りの1割は口臭とかだろうか。その本、別に読んでないけど。はぁ、まぁ今日は占い11位だし。適当にやりすごして帰りにラーメン食べに行こ。
むしゃくしゃして直子に連絡した。(今日ラーメン食べに行かない?)すぐに返信が来た。(いいよ~)
直子とは東京オリンピックまでには結婚していようねと誓い合った仲だ。今では東京オリンピックどころかパリオリンピックすら危うい。
直子とよく行くラーメン屋の名前は鉄仮麵。ダサい。最高にダサくて良い。もう7年は通っている。大将は気のいいオヤジさんで、上京組の私たちは、東京のお父さんのように慕っている。しかもいつもオマケしてくれる。
「沙織はさ、なんかいつも三枚目っていうか、良い奴っていうか、なんか恋愛にいつも発展しないよね」
直子が言う。確かにそうだ。私はいつだって、いい子なんだけど付き合うのはなんか違う。友達って感じと査定され振られてしまう。直子曰く、ブスじゃないんだからどうせ男の子の前でしょうもないギャグばっか言ってんでしょ、とのことだ。確かに思いそれは当たる。
「2人とも、占いとか興味ない?最近隣のテナントに占い屋さんが入ってさ、たぶん呼んだら来てくれると思うよ」
大将が割って入った。えーなにそれ興味ありまくり。
大将はその占い師とそれなりに仲良くしているらしく、私と直子のために占い師にラーメンをサービスしてくれるらしい。なので占いのお代はタダになるらしかった。
大将が連絡してすぐ占い師がラーメン屋に現れた。見た目はとにかく胡散臭い、いかにもな占い師だ。謎のターバンみたいなものを巻いてるし、アイシャドウも今時珍しいどえらいムラサキのものをべったりと塗っていた。占い師というよりむしろ壺とかを売る商売のほうが似合う。エンタメとしては100点の出オチビジュアルで占い師は颯爽と風を切って私たちの隣に着席した。
「何ちゃん?」
と、なれなれしく急に話し始めた。距離の詰め方がペテン師のそれだ。私も直子も名乗って占いがスタートした。
「まずは沙織ちゃん、アンタはいつも合コンで率先しておもろいこと言おうなんてしてしまうタイプね。いい子なんだけれど、そのいい子キャラが邪魔して恋愛に発展しない。というか、たぶん恋愛に発展するまでの女子の手練手管を恥ずかしいと思っている感じがするわ。まずはその含羞を捨てなさい。可愛い淡い色のワンピースを着て。女の子扱いされることを恐れないで」
と、ズバリ言い当てた。これには正直驚いた。続けて
「あ、そこのお兄さん。アンタよ、そうアンタ。こっちへいらっしゃい」
と、別の席に座っていた若い男性を突然呼びつけた。男性は完全に戸惑っていたがこちらへ来てくれた。
「アンタはこの沙織ちゃんと相性ピッタリよ、ツインレイってやつだわ。前世から決められてるの。今すぐ連絡先、交換しちゃいなさい」
などと言っている。なんて突拍子もない…だけどなんかちょっとタイプかもとか思ってしまった。なんだかわからないまま連絡先を交換した。直子へは
「もう沙織ちゃんで出し尽くしたから適当にやるワネ」
と適当になりつつも
「うーん、まぁ直子ちゃんはアネゴ肌すぎてクズみたいな男によくひっかかるタイプね。残念ながらここにアンタにとっての良い男は…いないから、さっきのお兄さんの友達でも紹介してもらいなさい。というか、4人で遊びなさい。まぁ次機会があるならもっとワガママを言いなさい。舐められてくだらない恋愛してる時間は、もうアンタにはないわよ」
などと、かなり辛口であった。直子はあまりにも図星すぎて途中すこし怒っているようにも見えた。
鉄仮麺で連絡先を交換した男性からはすぐに連絡が来た。彼は大輔という名前だった。今度直子と大輔の友達を交えて4人で遊びに行かないかと誘われた。占い師の言いなりになるのは癪だったが、直子にとっても良縁の予感がしたし、直子もかなり乗り気だったのですぐに予定を立てた。
大輔は私より2つ年上で、落ち着きのあるタイプだった。サッカー観戦が趣味らしいく、小中高とサッカー部だったらしい。まさかラーメン屋でこんな出会いがあるなんて!と興奮気味だ。それは私たちもだよと言いながら、4人で遊んだ。帰りに、今度2人でご飯行きませんか?と誘われた。もちろん二つ返事でokした。大輔は3回目のデートで告白してくれた。私たちは付き合うこととなった。
大輔は私が女の子であることを忘れない。私が重たいものを持っていれば絶対に持ってくれる。今まで羨ましいと思いながら眺めていたものが自分のものになった。大輔も、こんなことで喜んでくれるなんて嬉しいと言っていた。大輔との交際は順調に進んでいき、あっという間に婚約までこぎつけた。
結婚式には直子も、大輔の友達も、鉄仮麺の大将も、占い師も呼んだ。大将と占い師は付き合っているらしかった。占い師は
「あの時ね~もうすんごいテキトーに占ってたのよ~。まさかアンタたちが結婚まで行っちゃうなんてね~」
なんて言っていた。占い師はあの時本当に壺とか数珠を売って生計をたてていたらしい。大将がそれを止めたのをきっかけに、この人は私のことを真剣に考えてくれていると錯覚し交際に至ったのだそう。
当の大将は、自分が被害にあいたくないし、隣のテナントで謎の意味不明な商売をされるのは良い気がしなかったので止めただけだったらしい。話しているうちに意外と可愛く見えてきたとか、だんだん意気投合したとか、そんなところだろう。それにしても、結構ちゃんとした詐欺師じゃないか。大将は知っていて占わせたのだろうか。
大輔は完全にウケていた。この人が楽しそうにしているならまぁ良いか。
大輔との結婚生活は穏やかで楽しい。今度家を買う予定だ。どのあたりに買うか、外壁は何色にするかしようか。
「屋根は絶対にピンクよ!それと方角は南南西に決まってるわ!」
見つけて読んでくださって、ありがとうございます。