地球の年齢なんて愛の力においては全く関係なかった
「ねぇ、キスして。」
「…え?。」
少女は身なりの良い素敵な紳士にキスをせがんだ。
紳士は地毛の金髪に黒のシルクハットをきて、とても良く似合っていた。
「ねえ、キスを…あれ。」
紳士は最初こそ驚いたが、少女を見るやいなやすぐにステッキをカツカツと音をたて、早足で姿をけした。
その後紳士は馬車に惹かれて死んでいった。
「ねえ、キスをして。」
少女は自分くらいの背丈の男の子にキスをせがんだ。
男の子は子供らしい童顔だったが、目はキリリと細く、顔立ちの良い男の子だった。
全身すり傷だからけで、手にはボールを持っていた。遊んで帰るところだったようだ。
「ねえ、キスを…て、あれれ。」
男の子は少女を見るやいなや、ボールを蹴って走っていってしまった。
その後少年は、斬り裂き魔に殺されたという。
「ねえ、キスをして…。」
少女は椅子に座り日向ぼっこをしている老人にキスをせがんだ。
「…悪いな嬢ちゃん。なんて言ったんだ?」
ワシは耳が悪くてのう…という老人のために、エマは耳元で「キ・ス・を して!!」と叫んだ。
「はぁぁ??ウェッホ…!」
「おじいちゃん!」
老人が咳をする中、中から孫らしき子どもと、
「お父さん!」と叫ぶ女性が駆け寄ってきた。
老人は、それから激しい鳴り止まない咳をし、女性は叫ぶやいなや「はやく医者を…!」
と子どもたちに命じた。そして此方の姿を見つけると、女性はにらんだ顔で此方をみた、
「あっちに言って!!悪病神が!!。」
その後、老人は死んでいった。
瓦礫の山の中に、1人の宇宙調査隊員の青年が地球に降り立つと、そこには1人の少女が座っていた。
「お前はこの星の生き残りか?」
ポニーテールの青年は腰に構える刀剣に手を添えて座り込む少女に質問した。
「…うん。」
振り向いた金髪の少女は長い髪をしていて、随分とボロボロの洋服を身に纏っていた。
「私が最後の1人…。」
「俺は宇宙調査隊隊員のテガだ。どうしてこの星は滅亡した?」
「100年前に、勇者と魔王が戦ったけど、結局相討ちで、終わっちゃった。強い力だったから世界滅んじゃった。」
「そうか。」
「信じてくれるの?」
「周囲に飛散した魔力を察知した。大きな戦いが無ければこんなことはない。…答えてくれたところ悪いが、お前はここで死んでもらう。」
「わかった。」
「…随分納得の早い人種だ。」
「大丈夫。死ぬのは怖くないよ。」
少女は立ち上がると、微笑んで首を差し出した。
「ねえ、宇宙調査隊の隊員さん。いくつ星を殺したの?」
「よく知ってるな。自分の身を知ってる奴とは初めてだ。」
「気づくのに400年くらいかかったよ。」
「なるほど。俺はお前が初めてだ。」
「そうなんだ?」
「多いやつは20個近く殺している。俺はまだまだ到底及ばん。」
「そっか…。じゃ、私を殺せば晴れて1回殺したことになるんだね。」
「そうだな。全くおかしなやつだ。」
「あ!待って待って!」
「待たん。」
「ねえ待ってよ。殺していいから。」
「じゃあ、死んでからにしろ。」
「ソレじゃ駄目!ねえお願い。私の願いを一つ叶えて!」
「…。」
「直ぐよ!それが終われば殺していいから!」
「取引か。まぁそういう殺し方もあるだろう。
要件は?」
「キスして。」
「は?」
「は?」
「キスして。」
テガは頭を抱えた。
(キス?キスって、あれか、爺さん達がやってた、あの…)
「〜〜〜。」
「貴方よくみたら凄くイケメンなんだもの…。先祖が地球人なのね!ていうことは、滅亡前から調査隊にいたってこと?随分頭の良かったご先祖様ね。」
「…。」
わらわらと一人楽しく話をしている少女を横に、
テガは頭を抱えた。
だが、数分すると。スゥウウとテガは深呼吸をし、フッと目を開け決意する。
「…いいだろう。」
「やったぁ!」
テガは少女の前にかがむ。少女は胸に手を起き、目を閉じる。テガは肩に手を持ち、ゆっくり顔を近づける。少女の小さな唇に自分の唇を合わせ、口づけを交わした。
ゆっくりテガは少女の口から離れるとスラリと少女の頬に何かが落ちてきた。それは次第にポロポロと降ってきて、少女の顔を濡らす。
「…はぁ!?」
少女は泣いていた。怖くないと笑っていた顔は何処かへ消え、顔は悲しく、体を震わせていた。
「なんで泣いてるんだよ!?」
「ふっ…ッ゙う、う…。」
少女は嗚咽をこぼし、身体を縮こませた。
「大丈夫。大丈夫だから…。」
大丈夫、とテガに良い、震える体で首をさし出した。
「良いよ…ほら。殺して。」
テガは黙ってその様子をみた。
「地球人おかしいぞ。」
「…うん。」
「なんでこんな事させた。このくらいお前なら滅亡する前に簡単に出来る筈じゃないのか…。もっと人間がいただろう。」
その、言葉に、少女はフフ…と笑った。
「…。おかしいわ。」
「何がだ…。」
「おかしな質問だからよ。私は、今まで、色んな人にキスしてっていってたの。なのに、誰もキスしてくれなかった…。」
「…。」
「私は、悪い子だからかな…。46億年も…行き過ぎたのかな…あぁぁぁぁ…」
少女は泣いた。泣いてはいけないと、46億年間ずっと我慢していた涙を流した。
「…俺はお前を殺すんだ。」
「俺は…お前を…。」
その後、ようやく少女は泣き止んだ。
「…それでも…それでも…嬉しかったよ。これは本当。こうやって、キスしてくれた。初めて。本当に、本当に。ありがとう…。」
少女は最後に素敵な満面の笑顔で笑った。
それをみたテガは、頭をかきかきと掻きながら、
「あぁもう!!!」
とさけんだ。
「…?」
1000年の時が流れた。
地球は再び活気を取り戻し、世界中に沢山の人の活気で溢れかえっていた。
その中で、ある島国の、ある地域の宮中ではとても慌てている。
「大変だ…!大神様が今夜くると巫女様が…。」
「なんじゃと…!?」
その夜、テガは久方ぶりに地球へ舞い降りた。
「久し振り。テガ!」
「よぉ、死にぞこない。全く、俺は昇進どころか追放されちまったよ。やっぱ殺しとくんだったな…。」
「…でもあの時のテガカッコよかったよ?」
「うう五月蝿え!お前が泣き出すからだよ!」
あの頃とは違って、少女は綺羅びやかな服装に、美しい着物を羽織っていた。
テガはクスリと笑った。
「何だよ幸せそうにして。巫女様は呑気だな。」
「うん。幸せ。でも、テガのことも、皆この国の神様だっていってくれてるよ。」
「そうかよ。それは有り難い。」
そう言い合う二人の間にトコトコと小さい子供が1人出てきた。
「ねえねえ、お母様今日は聞かせてくれるんでしょ?お母様の秘密のお話…って、だれこのおっさん。」
「おっさんていうなクソガキ。随分生意気に育ちやがって…。」
「ねえテガ。おっさんじゃないのよ。」
「…おい今なんつった。俺の名前つけやがったのか。」
「うん!」
「てめえ…やっぱあんとき殺しとくんだった…。」
「ねえ、この失礼なおっさん本当だれ?」
少年テガは呑気にそう質問すると、母に抱かれた。
「え?か、母様…。」
「こっちにきて!」と大きいテガにも手招きする。
大きいテガもため息を付いて近くによった。
すると細い腕にゆっくりと抱かれた。
「こうやって、あったかい家族が作りたかったの。」
「なんでできなかったんだよ…。」
「いったでしょ。覚えてる?私の出会う人は、皆、そうじゃなかった。」
「そうだったな…。お前は別に不幸にする子じゃなかったのに。たまたま皆不幸に死んだり事故しただけなのにな…。」
「でもソレが何度もなら分るよ…私。」
「お人好しめ…。」
「私は星の子だもの…。お人好しだよ。」
「ねえ、母様苦しい…」
「あ、ごめんね。」
「ね、ねえお母様もしかして…このおっさん、うわっ!頭に触れるなおっさん!」
「おっさんゆうなよ…。」
「ええ、まさか…。」
「ふふ、ねぇテガ。今から話すのはお母様の秘密のお話だけど凄く面白いお話なのよ。
」
「なんか嫌な予感してきた…。」
「あぁ残念だ坊主。そういう事だ。でも凄く面白い話だ。」
「えぇ…。」
「大丈夫よ!愛は偉大って話よ!」
「そうだよ。愛は偉大って話だ。」
そういって、テガは母の額と、息子のテガに優しくキスをした。
テガが笑うのも、かつて少女だったものも、心から幸せだと感じるのは、これが生まれて初めてだった。