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灯りのない夜①

国王ラウルは、王太子だった21歳の頃にテルミン公爵家の庭で水遊びをするフローネを垣間見たことがある。

当時、フローネは9歳かそこらだっただろうか。

金色の髪の少女は噂に違わぬ愛らしさであったが、水に濡れてはしゃぐ姿は子ども以外の何者でもなかった。


こんな子どもと、自分はいずれ婚約させられるらしい。


(まあ、あと5年も経てばそれなりに育つだろうが……)


それにしても子どもである。

ラウルと同い年である恋人・ユリアとは大違いだ。

頭脳明晰で物分かりが良く、従順で気が利いて成熟した大人の身体を持つユリア。

難点は少々地味で華がない事と、下級貴族出身なところくらいだろうか。


婚約をしたらユリアとの関係は清算しなければと思っていたが、こんな子どものためにアレを手放すのは勿体無い。

(やはりユリアと別れるのはやめよう。あんなに使える女は他にいない。いざとなったら妾にでもすればいいのだ)


そんなことを考えていたその7年後。

ラウルの大叔母が主催するお茶会で、16歳になったフローネに数年ぶりに会った。

当時すでに婚約が成立していたが、フローネが幼かったこともあり交流を深めるようなことはそれが初めてだった。


再会をして、まず目がいったのは胸の膨らみ。

そして丸みを帯びた腰。


美しい顔は大人びただけではなく艶にも似た憂いを帯び、髪は金の絹糸のように煌めいて、ハリがありきめ細かい肌は雪のように白く、薔薇色の唇は男を誘うようにふっくらと花咲いていた。


フローネはラウルに再会するなり、熱のこもった視線でこちらを見てきた。

それは間違いなく、恋焦がれる女の視線だった。


ラウルはフローネと形式的な挨拶をにこやかに交わしながら、頭の中で彼女を裸にする。

(いつの間に男を誘惑するような女になったんだ……)


そして1つの懸念が浮かび上がる。

(間違いなく処女なんだろうな?…だとしても、うかうかしていると誰かに盗られるかもしれん……)


そこでラウルはこっそりと大叔母に指示し、フローネのお茶に眠り薬を入れさせた。

ソファ席で眠り込んでしまったフローネをラウルは「しょうがないお姫様だ」と笑いながら抱き上げる。


そうして連れ込んだベットルームで、ラウルはフローネの望みを叶えてやったのだ。

本来は『結婚してから行うこと』を少し前倒しをしたところで問題はない。

万が一の間違いがないように予防策をとっただけのことだ。


何より、フローネ自身がラウルの手がついた事を喜んでいる。

枕に顔を押し付け、嬉しさのあまり咽び泣いているのだ。

なんと健気なんだろう。


それに当時30歳を前にしていたユリアとは違い、抗いようのない若さの魅力がフローネにはあった。

フローネと結婚することによりテルミン公爵家と外戚関係になることを憂いていたが、悪くないかもしれない。

公爵家に必要以上に力を持たせないよう、程良くフローネを抑えつけてしまえばいい。

そして自分は、美しい籠の中の鳥を乞われるままに愛でてやればいいのだ。


やがてラウルは国王となり、フローネはラウルの妻…王妃になった。

以来、ラウルはフローネを、妻を喜ばせ続けてきた。

妻を甘やかし、優しく包み込み、気の利いた会話で楽しませて……

側妃となったユリアとも上手くやっていけるように気を配った。


時折、働きたいなどとワガママを言われることもあったが、自分の気を引きたがる妻を優しく諌めてきた。

ま、そこは年若い妻を娶った男の宿命とでも言おうか。



とにかく。

そうした様々な苦労が今、報われようとしている。


ユリアとのくだらない諍いに辟易して、フローネの部屋で休もうとしたあの夜。

体調が悪いとの理由で入室すら拒まれ苛ついたのも束の間、翌朝やってきた使者の言葉にラウルは震えた。


『フローネ王妃に懐妊の兆しあり』


いよいよ自分も父親になるのか。

いや、まだ兆しがあるというだけだ。

フローネの体調不良が懐妊によるものではないか?とラウルの母…王后が見立てて、これから数名の宮廷医師によって診察が行われるという。


(………世継ぎだ。世継ぎの誕生だ!)


はやる気持ちを抑えながらラウルは執務室の窓から暮れていく空を見上げた。

そして、その姿を暗い目で見つめる側妃のユリアに声をかけた。

「どうしたユリア。子が生まれたら育てるのはお前だぞ?時期国王の養育係になれるのだぞ?嬉しくないのか?」

「…………………」


ユリアはしばしの沈黙の後、一転して明るい笑顔を浮かべる。

「……もちろん嬉しいですわ。必ずや立派な御子に育てて見せます。聡明で優れた人格を持つ…そう、まるで貴方のような……」

ラウルはその言葉に満足したようにユリアを抱きしめた。

「その通りだ。そして、くれぐれもテルミン公爵派に大きな顔をさせないように…お前はその優秀な頭脳で正しき王政の守人となるのだ」




ユリアはラウルの胸にすがりながら、健気な顔で頷いた。

懐妊が本当であれば、せっかく産んだ赤ん坊を取り上げられフローネは大いに悲しむだろう。


ザマアミロ。

ラウルも赤ん坊も私のものだ。

オマエはただ後継ぎを産むためだけの王妃。

国王の慰みモノになるだけのお飾り王妃。

私はこの時をずっと待っていたのよ。

時期国王の養育係として、権勢を誇るための第一歩となるこの時を……



勝ち誇った笑顔を浮かべようとしたユリアは、しかし自分の頬を涙が伝っていることに気づいた。

嬉しいはずなのに、次から次へと涙が溢れでてくる。

どうして涙が出てくるのだろう?


「そうかそうか。泣くほど嬉しいか!しっかり養育に励んでくれよ」

「ええ…ええ……もちろんよ、私の愛しい人………」


顔を伏せたユリアは込み上げてくる嗚咽を必死で飲みこんだ。


大丈夫よユリア。

きっと上手くいくわ。

ラウルの側にいるようになった19歳から32歳になった今まで。

犠牲にしてきたモノや捨て置いてきたモノの全てを、全てを、全てを……

私は絶対に取り戻すことが出来るの。

今までの選択は間違いなんかじゃない。

後悔することなんて何ひとつないの。


ユリアはそっと自身の下腹部に手を当てると、かつてそこに在ったはずの『モノ達』への思いに強引に蓋をした。

そしてラウルに聞こえないほど小さな声で呟く。


「最後に笑うのは私なのよ……フローネ」


今回はご当地ネタが出てこないです。

書いていて物足りなかったです…


春が来ますね。

お花見のお菓子はどこの何にしようかな〜とワクワクしています。

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