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五八三七G3の酒の肴  作者: V4G3
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きんぴらの宇宙進出

「じーさん、何か今日は寒いね。日本酒ください、冷やで」

「そうだね、寒いってわけじゃないだろうが、ここんとこ四月にしちゃ暖かかったからね。揺り戻しみたいに冷えると、じーさんの身にはキツいよ」

「えぇ、じーさん気を付けてよ。ここで飲めなくなると困るから」

「さび、奇特なお客さんだ」

「今、寂しいって言いかけたよね、この貴重な常連に」

「気のせいだろう。ほい、今日の酒は田酒の純米。つまみはきんぴらだ」

「あぁ、旨い。じーさんの嫌味も許せる酒の味だ」

「そりゃ、何より」

「きんぴらもいいよね。きんぴらは色々だよね」

「そうだな。だし汁足して煮物みたいにつくるとこも、ほとんど醤油炒めのとこもあるからな。ウチはごぼうはささがき、にんじんは細切り。こめ油にごま油を足すぐらいの感じで、あまりごま油を立てない。鷹の爪の輪切りを少々入れて、ごぼうとにんじんを炒めて、ちょいとオマケで牛肉の大和煮を足してやる。醤油、酒、みりん、砂糖の煮汁で炒め煮にして、白ごまを振る」

「あぁ、牛肉の大和煮かぁ、この肉は」

「切れっぱしでも、あると上がるだろ」

「うん。酒、進むなぁ。これも僕の中では和食ってことで」

「もちろん結構だが、きんぴらは宇宙食にもなってるぞ」

「えっ、本当? すごいなぁ、宇宙進出か、きんぴら。あ、そう言えば、どっかのコンビニのからあげも、宇宙食になったんだよね」

「あぁ、柿の種も宇宙進出してる。まぁ、ほぼ何でも持っていけるからな。キウィやパプリカみたいなフルーツや野菜も、「こうのとり」がバンバン運んでた」

「コウノトリ? あかちゃんを運ぶ?」

「あのなぁ、宇宙にあかちゃん運んでどうする。日本の宇宙補給船のなまえだよ『こうのとり』っていうのは」

「へぇ、補給船てことは国際宇宙ステーションにってことだよね」

「そう。宇宙ステーション補給機。ISSに物資を運ぶために開発されたんだんだ。全九回の補給ミッションを完了してる。ISSももう先が無いし、新しい宇宙開発の拠点が早く欲しいねぇ。」

「へぇ、じーさん、やけに詳しいね」

「そりゃ、子育てを経験してるからなぁ」

「はぁ? 子育て?」

「あぁ、何せ宇宙進出は全人類共通のミッションだからね。次世代にもちゃんと、宇宙への関心と理解を伝えとかなきゃいかん」

「人類共通のミッションって、またオーバーな」

「いやいや、人類という歪な種が生まれて繫栄してきたのは、宇宙に生命を運ぶため、としか考えられないだろうが」

「そうなの? でも人類が宇宙とか意識したのは」

「大昔からだよな。科学的な知識はともかくも、暦を作り、星座に神話をあてはめて、飛べもしないのに空ばかり見ている生き物だろう」

「そうかもしれないですけど、だからって人類が宇宙に行くために生まれたっていうのは極端でしょう」

「あのな、生命っていうのはDNAをコピーして引き継いでいく。DNAが生き延びて伝わっていけるために色々な生命の種類があるって言う説があるよな。生き物はDNAの乗り物だってやつだ。で、暑くなったり寒くなったり、水浸しだったり乾燥したり、地震があったり色々とある中で、何とかDNAが絶やさず繋がり続けるように、色んな生き物が生まれたわけだ。でっかいのも小さいのも色々と、世界中、海にも空にも地中にも」

「そうなんですかね」

「実際、氷河期が来ても酷暑が続いても、何かの生物は対応できるだろう。だけど、もし地球そのものが滅びたらどうなる? 全部おしゃかだ」

「そりゃそうですよ」

「DNAはあきらめない。地球外にでていく乗り物があればいい。それが人類だな。どんなに高く飛べるように進化させても宇宙を飛べるようにはならない。どんなに暑さ寒さに強くしても宇宙の温度には耐えられない。環境に対応する進化の仕方では、地球内での条件の幅にしか進化しない。だから自分の手で環境を作り出す生き物が必要だ」

「あぁ、そういう理屈ですか」

「人類は本体は弱い。体毛が薄くて外皮も薄いから、温度の変化に耐えにくい。そういう動物はそういう環境の中だけで生き延びていく。あるいは環境に対応した進化した別種類の生き物が出てくる。なのに人類はそのアフリカの一地域にしか適していなかった身体のまんま地球上のあらゆる場所に進出する。服だの家だの火を扱うだのして。そして武器で狩りをして農耕まで始めて、どこででも生きていける環境を作る能力を伸ばしていく。不自然こそが人類の自然。そんな生物がどうして必要か。対応不能な自然の中に生命を持ち込むためだろう。つまりは宇宙。人類はDNAの宇宙船だ」

「はぁ」

「人類共通のミッションなんだから、国とか陣営とかの小さな枠で争ってないで、協力して月でも火星でもばんばん行くんだよ。戦争なんてやってる暇はないんだ。地球が滅亡するとしたら、太陽系外にでてなきゃ意味ないんだからね。先は長いよ」

「なるほど」

「こっちの生い先は短いけどね、じーさんだから」


連続投稿で来ましたが、しばらくお休みの後、不定期投稿になります。

再開すれば読んでやろうという敬老精神を持ち合わせている方は、星を一つ、合図がわりに頂ければ、励みにします。五月中に別の「物語系」の作品投稿もスタートします。

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