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五八三七G3の酒の肴  作者: V4G3
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バターコーンと本能

「じーさん、バーボン・ソーダ」

「うし、オールド・クロウでいいか」

「じーさん繋がりね。それで頼みます」

 カラスのじーさんってなんかここのじーさんのイメージにぴったりきていいね。なんか不機嫌でぶつぶつ言ってそうな感じだ。

「失礼なこと考えてるだろう、その顔は」

「別に」

「ほい、バーボン・ソーダにコーンだ」

「あ、なんかこれ好き。ビールにも合うけど、バーボンともね」

「コーンどうしだからなぁ。」

「ここのはベーコン入りだ」

「そう。バターコーンなんてどう作っても、まぁ旨いんだと思うけど、ウチはベーコンを刻んで熱して、油がしっかり出てきたらざっとコーンを絡めて炒める。バター落として、ペッパーミル。で、ベーコンは出来ればブロックか、そうでなくてもスティックとか厚みのあるやつを使うといい。それを細かく刻むんだ。量は少なめ。包丁で刻むとあらっぽくなるから、肉の感触が残るんだよ。それにスライスした奴は、どうも表面がピラピラして気になるしコーンと絡んじまうだろ。コーンに交じって時々、ベーコンの粒々が脂と塩味の自己主張するのを楽しむのが、俺のお勧めだな」

「あ、そう言われて食うと、ベーコンが『当たり』って感じがする」

「だろう。言われて、感じるってことは、俺のお喋りまでが味付けってことだ」

「えー、なんか複雑だなぁ。食べ物ぐらいは情報に踊らされずに、自分の味覚だけで判断したいような気も。だいたい三大欲求は生存本能に基づいてるんだから、身体が美味と感じるものを大切にするのがいいんじゃないのかな」

「あのね、今やほとんど人間の食欲は生存本能とは、何の関係もないからね。でなきゃ、あんなに沢山のややこしい味付けで塩分やら脂肪分やら取り過ぎながら、ついでにアルコールやらカフェインやら取りながら食事しないでしょう。全部、味覚や触覚を通じて脳に刺激を与えるため、それも生命や健康の維持じゃなくて快楽のために食ってるんです。複雑玄妙な味とか、脂っこいものをお酒やお茶でさらりと流すとか、全部、本当に味覚の美味しさとして身体が求めてるわけないでしょ、自然界でそんな体験できないのに。味覚をコンテンツに組み立てて、それを脳で味わってるんだよ。だったら、これはこうやって食べると旨い、とか、本場の香りはこうです、とか言われてその気になって、旨いなぁって感じるのも同じことだよ。いいんだ、旨いと感じられりゃ。それが目的。グルメさんたちは趣味としてアートとして、味覚の世界を追求したいから、敢えて情報に踊らないって制約も必要かもしれないけど、その道じゃない我々は気持ちよく踊らされながら食べりゃいいんだ」

「そうか。そう言われると、確かに食の旨さの評価そのものがコンテンツかもしれないなぁ」

「そうそう。郷土料理とかなら、その地方独特の素材や味付けにこだわりがあるけど、それが尊重されるのは郷土文化とか郷愁とかを味わってるからだろ。それから、出来合いの総菜や冷凍食品より、自分で工夫して調理したものの方がうまく感じたり、親や恋人が作ってくれたものの方が美味しく感じたりする。あれも脳が食ってるからだろ」

「そうだな」

「美味しいダイエットメニューを、体本来が求めているヘルシーメニューですって言ってみる。人類史で考えりゃ、低カロリーな食事をヘルシーと感じて食べる機能が身体に備わってるわけない。長いことひたすら飢えてたはずだ、今の基準で考えりゃね。そういう食でも旨いと感じるのは、やっぱりコンテンツこみで食ってるからだと思うね」

「そうかぁ、三大欲求は必ずしも本能じゃない、と」

「当たり前だ。性欲なんてもっと違うだろう。あれを生存本能とか子孫を残すための本能とかのせいにしてるのは、全くの言い訳。快楽を一番に、承認欲求、愛情表現、支配欲、色々絡んでるよね。生存本能に合致するから快楽なんだってのも大嘘。だって馬鹿みたいに長い前戯とかサドとかマゾとか体位とか、一切子作りに役立つ要素無いからね」

「そうかなぁ。でも、何というか、そんな積もりなくても女性の露出にドキドキしたり、ちょっと反応しちゃったりすることもあるでしょ」

「それ、受胎可能な異性相手だったら必ず反応するかい。しないでしょう。視覚とか触覚とかが性欲を刺激したら抑制できない反応があるのは自然の生理かもしれない。でもそれが止まらない理由を『生存本能』や『種の保存』に求めるのは行き過ぎ。自覚あるいは肯定はしてないけど、快楽が得られると脳の何処かが思ったから、反応してるのがほとんど」

「あぁ、そうかもしれないなぁ、何となく心当たり、って思うと情けない気も」

「違うよ、本能だから、生存に必要だから許されるって考え方がおかしいんで、快楽追求でもなんでも恥ずかしくない。最終行動を社会規範や自己基準で抑制できてりゃ問題ないし、できなきゃ本能であろうがなかろうがダメに決まってる」

「あ、そりゃそうだよね」

「人間の本能なんて味覚からホルモンの出方から何から、文化に捻じ曲げられて狂いまくってるし、その文化を生み、文化の中で生きるのが人間らしさなんだから、今更、本能を持ち出して免罪符になんかしても意味はない。ついでに、生物は確かに生き続けようとするし、子孫をはじめとして何等か種を残そうとする活動はするけど、それが生物の目的であるとも価値であるとも決まってない。何の為に生きるのか、生命の意味や価値は、生存と種の保存ですなんて、本当に歪んだ一部の価値観。哲学も宗教もこぞって反対のお墨付きくれるし、科学がそんな主張をしてるわけでもない」

「そうだねぇ」

「だから、どっかの政治家が言ってた、同性愛は本能に反してるってのは、自分の差別意識を似非科学で正当化した妄言ってこと。性行為の意味に種の存続を求めて、他を否定するなら、避妊具と性風俗の撲滅を先にやりなさいって」

「あ、そっちに飛び火したか」



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