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五八三七G3の酒の肴  作者: V4G3
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鶏の柚子胡椒味噌で熱燗を頂き

「うぅ、寒いなぁ。じーさん、お酒。燗にして、熱めで」

「ん。じゃ、神亀で熱燗にしようか」

「それで。温まりたい」

「今日はそんなに寒いかな」

「いや、もう今年も終わりだなぁ、一人で年末年始だなぁ、と思ったら、寒々しくって」

「あぁ、そういうことか。実家に帰らないの?」

「弟夫婦と甥っ子が帰ってますからね。邪魔になるだけだし、お前の嫁さんはってせっつかれるし、今更、地元で出会いも再会ドラマも期待できないし。ま、帰るだけ無駄ってやつなんで」

「こっちでなら出会いが?」

「そのアテがないから寒いんだってば。じーさん、正月も店、開けてよ。行くとこないんだよぉ」

「やだね。新年2日から夫婦水入らずで温泉旅行だよ」

「酷い、あんまりだ」

「馬鹿な事言ってないで、ほい熱燗。肴は鶏の柚子胡椒味噌焼き」

「あぁ、しみじみ。鶏もいい香りだ」

「胸肉を塩麴馴染ませて、レンジで簡単に蒸す。そこに味噌と柚子胡椒と砂糖を和えて、塗ったらオーブントースターでさっと焼く」

「美味しいし、簡単そうだけど、自分一人の為にかける手間じゃないよなぁ」

「だねぇ」

「あぁ、もう出会い系サイトにでもすがるしかないのか」

「そういうの使うの?」

「いや、何となく、信用できなくて、使ったことないけど」

「そうだね、必ずしも悪いもんじゃないとは思うけど、正直な相手に当たるかどうか、補償は無いものね。騙されやすそうなタイプだし」

「じーさん、酷い」

「ま、でも騙されるのも経験の内だし、出会いが無いよりは、あった方が人生豊かだよ。当たって砕けてみたらどう?」

「ますます酷い。だいたい新年早々、騙されること前提で出会い探しなんて、そんな無駄なことするはずないよ」

「いや、彼女を作るとか、結婚するとかって目的を設定するから、無駄だってことになる。アプリで人と出会ってみる、それ自体を面白がって楽しめばいい。実際に出会った人間を知ってみようとすること自体を楽しめばいい。そこまで考えてりゃ、簡単には騙されないだろうし…、いや、そうでもないか」

「とことん酷い。でも、まぁ、アプリを使うかどうかはともかく、人と付き合うのに、目的を決めて無駄とか無駄じゃないとか考えちゃダメ、ってのは分かる気がする」

「そうそう。その素直さが君の取り柄で、騙されやすさ、ってのは冗談だけど」

「でも、確かに男を騙してやろうって虎視眈々と狙ってるヤツもいるんだよねぇ、『頂き女子』とか言って」

「あぁ、何だかオーバーにニュースになってたね。なんで、あんなのがニュースになったんだろう」

「やり方の指南まで出したからかな?」

「大したノウハウでもないし、もともとその子に上げたい、尽くしたいと思って上げた金だろ。売買契約の詐欺とは違う。尽くしたけど思いが届かなかった、愛してもらえると思ったけど裏切られた、ってのは古今東西、珍しくもなんともないよね。出した方がうかうかと、自分の身の程を超えた金額まで貢いだから、ちょっと事件になっただけだろうに」

「そうそう、それに頂き女子もホストに貢いでたんで、そのホストも女の子に愛で応えるわけじゃないし、お店が絡めば合法ってのも変な話だよね」

「その通り。店ではお客にサービスはしてもいいけど、嘘の愛を囁いて金を巻き上げていいとは言えない。でも、そんなの何が嘘で、何が本当で、何が双方了解の演技でって決められないから、ホストの言葉だけで詐欺罪は成立しないんだろう。頂き女子だってやってることは似たようなもんだし、金を強請ったりもしないんだろ。美人局みたいな犯罪よりずっと良心的だし、金額の大小だけで、こんなのありふれた関係だと思うね」

「そう、なのかなぁ」

「ただ、昔はこんなことで騒がれなかったと思うんだな。やられた、騙された、ただ貢がされて捨てられた、なんてのは幾らでもあっただろうけど、そんなこと被害だって訴えるのは格好悪いし、見抜けなかった自分が馬鹿だったって諦めるのが普通。また貢ぐのも、痛いけど、自分の生活を脅かさないレベルで止まるし、止まらないほど相手に溺れてれば、今度は騙されたと分かっても、金じゃなくて彼女を取り戻そうとするから、被害者にはならない」

「なるほど。じゃ、どうして今回は?」

「だから騙された男が本気で怒っちゃったからだろう。男が、こんなことで騒ぐのは格好悪い、じゃなくて、怒って当然、訴えるのは正当な権利って意識になった。女に貢いだ金銭は、対価を求められるものだと感じていた。何より、付き合っているその時の気持ち、愛しさとか欲望とかで払ったんじゃなく、先の継続する関係性を買うような意識で先払いしていた。だから許せなかったし、それに、そうだそうだって言う反応をした世間の声も、男女の関係って言うか性的とは限らない人間関係を、先払いで契約できる関係だと暗黙に認めているんだと思う。そして、俺はそうは思わない」

「あぁ、だから出会い自体を楽しめって。先の関係性を目的にしちゃうと、対価とかコスパみたいな感覚も出るし、金銭的感覚に近づくほど、騙されやすくもなると」

「そういうこと。そうしていれば、貢ぐことは免れなくても、訴えたくなるほどの被害には会わないよ。多分ね」


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