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五八三七G3の酒の肴  作者: V4G3
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キュウリ

「じーさん、焼酎をロックで」

「ん、麦? 芋?」

「麦」

「ん、麦焼酎、『中々』」

「うーん、なかなか」

「それを店で何人が言ったと思う?」

「いいじゃないか、嫌ならこんなブランド選ぶな」

「嫌じゃないよ。客が同じことを言うのをからかえるからねぇ」

「ひどい店だね。もういいから、つまみ出してよ」

「じゃ、とりあえずはキュウリ」

「オイキムチか」

「似たようなもんだな。キュウリを麵棒で叩いて、ぶつ切りにする。で、食べるラー油にポン酢醤油に少し三杯酢足して、ビニール袋に全部放り込んで、キュウリが潰れないぐらいの強さで揉む。で、そのままビニールを縛ってしっかりつかるようにして一晩」

「あ、旨いわ、これ。そんなに簡単なら家でもやってみよ」

「どうぞどうぞ」

「きゅうりと言えばキュウリ夫人」

「マリ・キュリーね」

「そんな名前だっけ。いや、得意先のA社の技術部長が女性でさ、リケジョで賢くて出世も早くてね、であだ名がキュウリ夫人。あ、馬鹿にしてるんじゃなくて、本人がそう呼ばれてますって自己紹介してさ、ワンポイントでいつも緑のタイとかスカーフとかイヤリングとかしてるらしいんだよね」

「ふうん」

「ま、捌けてるし、実力もあるし、ああいう人だと女性が管理職になっても文句ないんだろうけどな」

「と言うと、文句がありそうだね」

「まぁね。ウチでも女性幹部をって話が進んでるらしくてさ。次の昇進は部長職と課長職に女性枠を作るって。や、別に女性の上司ができたって、全然かまわないし、女性の社会進出に偏見はないんだけどさ。でも昇進の基準は男女関係なく、実績実力で選んで欲しいなぁ」

「あぁ、それじゃ、いつまでたっても女性の幹部は増えないし、女性を登用する効果も望めないからだろうねぇ」

「はぁ?」

「だって今の実績順で上位の女性の多くは、今の男性中心の体制で実績上げた人だろう。男性並みにガンガン働いて飲みも付き合ってガッチリ仕事第一で実績上げた女性とか、逆に明るく上手く女性の魅力を生かして得意先から可愛がられて実績を上げた人とか。でも今、欲しいのはそういう人じゃないからなぁ」

「えっ、どっちもダメなの」

「ダメじゃないよ、その人たち自身は。でも、今、企業が女性を登用したいのは、一つは行き詰ってる日本型の営業や技術開発に新しい風が欲しいから。それから外資とか新しい企業を中心に女性幹部が多い会社が増えて、今までの商売慣行で対応できなくて、女性の幹部社員同士の交流で打開したいから。それから、成績が良くて真面目で優秀な新人の女性社員に入社して定着してもらいたいから。少子化だし人材不足だって言われてるんだから、それこそ男女関係なく優秀な若手確保は大事だからね。そうでしょう」

「うん」

「残業、飲み会ドンと来いの女性上司の下で優秀な若い女性が来たくなる、働きやすくなる環境が作れるようになるかな。女性らしさで可愛がられてきた人は、他社の女性幹部の人と渡り合うのに向いてるかな。彼女らだって、男社会に合わせてそう振舞って立ち回ってきたところは多いと思うよ。でも、だからこそ彼女らが少数派のまま幹部に加わっても、今まで通り男社会に合わせて振舞うだろうからね。新しい風、吹くかな」

「あぁ、そう、なるかも、しれないけど」

「だから、女性で上に行く人が、迎合しなくても孤立せずに、活路と味方を見つけられる程度の人数がまず必要。それから普通の実績とは別の視点で、男性とは違うポジショニングで仕事してそれなりの実績が挙げられてる人とか、組織をうまく変えてくれそうな提案のできる人を見つけ出して抜擢する。だから女性枠が必要なんだろうよ」

「はぁぁ、そうなるのかなぁ。でも、実績じゃなければどうやって」

「さぁねぇ。そこは人事のプロなら色々と考えてるだろう、っていうか考えてなければその会社の人事部長からまず女性に挿げ替えるのが一番なんだろうけど」

「厳しい」

「まぁ、例えば今までの成績とか評価で普通に順当に選ばれそうな課長候補の女性に、上司として迎えられそうな部長候補をリストアップしてもらうとかね。後、女性社員に自分たちの代表として活躍してくれそうな女性の課長候補を匿名アンケート採るとか。それをそのまま使うかどうかはともかく、誰を選ぶのか、何を評価してるのかを知って評価基準に加えることが大事なんだろうねぇ。お前さんたちが考える優秀とは違う軸で『優秀』な人を見つけられるようになれば、ちっとは変わるだろうからね」

「変わんなきゃいけないのかねぇ」

「じーさんの俺はこのまんま、もう大して変われんが、企業も国もじーさんじゃ困るだろ。とにかく日本は今、負け戦続きの崖っぷちなんだから、変えられるものは変えてみるしかないわな」

「それってじーさん達のせいじゃん」

「だから、俺も含めてじーさんたちの機嫌なんか何一つとることはない。それより、今度仕事で機会があったら、その技術部長さんに、流石A社のマリ・キュリーですねぐらい言っときな。キュリー夫人は自分で結婚した時にそう名乗ったから、女性蔑視と関係ないなんて言うけどね。あだ名で呼ばれてる方は、今の人間なんだ。女性属性で従属イメージの夫人をあだ名から外せば、ちょいと機嫌はよくなるかもしれんぞ」




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