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番外編.温かい手



エルヴィスにエスコートされるまま訪れたのは、王都の街並みを一望できる高台だ。


そこから見える景色はとても綺麗で、街の灯りがきらきらと輝いている。


「一一まぁ!王都にこんな場所があったのね…!」

「えぇ、気分転換で偶に訪れる場所なんですが、人も来なくて見晴らしもいいので、気に入っているんです」


エルヴィスの言う通り、この場にはキャロル達以外の人影がなかった。


(ど、どうしましょう。エルヴィス様ともっと話がしたいと言ったけれど、何を話題にすればいいのかしら…!)


今さらながら、キャロルはこの状況にどきどきしてしまう。


気を紛らわすように、ふとエルヴィスの方へ視線を向けると、ちょうど此方を見ていた彼と目が合ってしまった。


「……っ」


目を逸らそうとするのに、キャロルを見つめるエルヴィスの眼差しが優しくて、逸らすことができなかった。


(一一どうして、(わたくし)をそんな風に見つめるの…)


そんな眼差しを向けられたら、自分と同じような気持ちを少なからず持っていると、勘違いしそうではないか。


じわじわと頬が熱くなるキャロルに対して、エルヴィスはゆっくりと口を開いた。


「キャロル殿、今日は本当にありがとうございます」

「っい、いえ、私が一緒に行きたいと思って来たのですから、そんなに気になさらないでくださいませ…!」

「それでも、ですよ。私はキャロル殿と来れて、嬉しかったんですから」

「一一っ!」


エルヴィスの言葉に、キャロルの頬にさらに熱が集まる。


(期待、してしまうじゃない……)


心臓の鼓動が頭に響く中、はくはくと口を動かしながらキャロルは言葉を紡いだ。


「そ、それ、は、具体的には、どのような意味合いなのですか」


その言葉に、エルヴィスが目を瞠った。


(ど、どうしましょう、思わず言ってしまったわ…!)


エルヴィスからの返答が怖くて、キャロルは反射的に俯き、ぎゅうっと目を瞑る。


しかし、キャロルの不安とは裏腹に、思いもしなかった言葉がエルヴィスから紡がれた。


「キャロル殿。私は好ましいと思う相手と以外、文通を頻繁にしませんし、デートの誘いもしません」

「!!」


キャロルは驚き、勢いよく顔を上げる。


(デート…!!!もしかして、エルヴィス様は今日「デート」だと認識していたの!?)


「それに、今日キャロル殿を誘ったのはデートしたかったのもありますが、どうしても直接言いたいことがあったからです」


エルヴィスはそう言うと、キャロルの方へ体を向けて跪いた。


あまりに突然のことに、キャロルは慌ててしまう。


「え、エルヴィス様!?何をなさって一一」

「キャロル殿」


キャロルの言葉を遮るように、エルヴィスが真剣な眼差しを向け、口を開いた。


「キャロル・ルークラフト嬢、貴女のことが好きです。どうか、私と婚約してください」


その言葉を聞いた瞬間、キャロルの瞳に涙が浮かんだ。


「キャロル殿…!?」


エルヴィスは慌てたように立ち上がり、涙を浮かべるキャロルにハンカチを当ててくれた。

そんな風に動揺するエルヴィスを見て、キャロルはくすくすと笑みを零す。


「ありがとうございます、エルヴィス様」

「い、いえ。急にすみません、こんな話をしてしまって…。もしかして、嫌、でしたか?」

「いいえ!あまりに嬉しかったものですから、つい泣いてしまいました」

「一一!それって…」


目を瞠るエルヴィスの手を取り、それを自分の頬へ当ててから、キャロルは満面の笑みを浮かべて言った。


「エルヴィス・マーシュ様、私も貴方が大好きです!!その申し出、喜んでお受けしますわ!」


そう言うやいなや、頬に当てていた手がするりと頭の後ろへ回されたかと思うと、エルヴィスに抱きしめられてしまう。


突然のことにキャロルは驚いたものの、おずおずとエルヴィスの背に手を回してみる。


そうしたことで、エルヴィスの抱きしめる腕に更に力が入った。


「一一キャロル殿、いや、キャシーと呼んでも?」

「はい」

「キャシー、ありがとう。愛しています」

「私も愛しているわ、エル」


そう言い、もう一度強く抱き締めあってから、少しだけ体を離した。


そうしたことで互いに視線が合い、照れくさくなってしまったのは仕方がないことだろう。


「…あー、そうしたら、近いうちにルークラフト家に手紙を出しますね」

「は、はい…!」


(そ、そうよね。婚約するために、両家の了承を得なければならないのだから……。一一待って、私一番大切なことを言ってないわ!!)


あることを思い出したキャロルは、さぁっと頭の中が真っ白になる。


「キャシー?どうかしましたか…?」


キャロルの異変に気が付いたエルヴィスが、心配したように顔を覗き込む。


そんなエルヴィスを見たキャロルは、ぎゅうっと掌を握ると、僅かに緊張しながら口を開いた。


「あの、実はエルに言わなければならないことがあって…」

「……ゆっくりでいいですよ」


そっと、エルヴィスがキャロルの背中を擦る。


それが暖かくて、不思議と緊張も解けていた。


「あのね、私、ルークラフトの姓を名乗っているけれど、本当は違うの」

「一一」

「私の本当の名前は、キャロル・アースキン。現国王陛下の弟で、騎士団団長でもあるヴィンセント・アースキン公爵の娘なのよ」



「一一……だから、なんだと言うのです」

「!」


エルヴィスの言葉に、キャロルは思わず目を瞠った。


(「身分を偽っていたのか」と、そういう風なことを言われると思っていたのに…)


予想よりもあっけらかんとしているエルヴィスに、キャロルは呆然としてしまう。


しかし、そんなキャロルに真摯な瞳を向けて、エルヴィスは言うのだ。


「私は、最初から家柄など気にしていません。貴女だから、好きになったんです」

「!!」

「それに、身分を偽っていたことを気にするのなら、それこそ杞憂ですよ。なんせ私は男装し、身分を偽ってまで騎士団にやって来た方を知っているのですから」

「一一ふふっ!確かに、そうですわね…!」

「それとも、キャシーは家柄で俺のことを好きになったんですか?」


にやっと意地の悪い顔をされて、キャロルは頬を膨らます。


「そんなことありません!初めて会ったあの夜会の日に、貴方に一目惚れしただけですわ!!」

「一目惚れ、してくれたんですね」

「~~~っ!!!」


キャロルは恥ずかしさのあまり、エルヴィスの胸元へと顔を埋める。


そんなキャロルの頭を、エルヴィスは笑いながら撫でた。


「ははっ!可愛いな、キャシーは」

「……エルは、少し意地悪だわ」


不貞腐れながらも、頭を撫でる手が心地よくて、ついエルヴィスへと身体を預けてしまう。


(今日は、なんて素敵な日なのかしら…)


好きな人と想いが通じ合えただけでなく、その人が家柄ではなくて「(わたくし)」自身が良いと言ってくれたのだ。


そのことが、どうしようもなく嬉しかった。


(帰ったら、このことをお父様とお母様に伝えなくてはね。一一ふふっ、お父様、どんな反応をするかしら…!)


(キャロル)のことを、とても大切に思っている人だ。きっと、「婚約したい人がいる」と言っただけで、泣き出してしまうだろう。


そう考えながら、キャロルはもう暫くの間、エルヴィスの腕の中に包まれていたのだった。




一一その後、キャロルからエルヴィスとの婚約について話を聞いたヴィンセントが、滝のような涙を流したことは、また別の話である。



ようやく二人が結ばれるまでのお話が書けました!!!


また、のんびり番外編を更新していく予定なので、見ていただけたらとても嬉しいです!

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