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40.彼の笑みと信念



***



「では行こうか、アイリス。しっかり掴まっていろよ」

「あ、あの、ルイス様っ!!やはり別々の馬に乗ったほうが…!」

「別に俺はこのままで構わないし、(こいつ)も問題はない」

「で、ですがっ……!!」



そう言い淀んでいると、ルイスが片手で優しくも強引にアイリスの両頬を掴む。



「んぐっ…!!!」

「一一アイリス、問題ないと言っているだろう。だから振り落とされないよう、俺に身を預けていろ」

「っ!」



有無を言わさぬその声色に、こくこくと、アイリスは首を縦に振る。



それを見たルイスはアイリスの頬から手を離すと、今度はその手を腰へとまわし、ぐっと彼の方へ抱き寄せた。

それがアイリスを支えるための行動(こと)だと分かっているのに、変に意識してしまって、くすぐったく感じてしまう。



(ううっ…!今までこんな擽ったく思わなかったのに、一体どうしてかしら)



「さあ行くぞ。もう少しだけ、力を抜いておけ」

「!!」



ルイスがそう言ったと同時に、少しだけ視界が揺れた。



どうやらアイリスが思考を巡らせているうちに、馬が動き出したようだ。

アイリスはルイスに言われた通りに軽く脱力し、彼へと身を預ける。



そしてその体勢のまま、アイリスは口を開く。



「ルイス様。いま何処へ向かっているのかは、まだ秘密なのですか?」

「ああ。だがきっと、お前は気に入るはずだ」



ルイスはどこか楽しげな口調で、言葉を紡ぐ。



「以前もそうでしたが、ルイス様は私の気に入るものを見つけるのがお上手ですよね。嬉しいですけど、少し複雑です…」

「別に、そこまで上手いわけではない。単純にお前が喜びそうなものを考えてしまうだけだ」

「……それだけでも、充分すぎる理由ですわ」

「ははっ、ならよかった」



騎士団では決して見せない柔らかな笑みに、アイリスはつい魅入ってしまう。



表の顔をしているルイスも、もちろん微笑んでいるのだが、貼り付けたような綺麗な笑みを浮かべているだけだ。

そのため自然体でいる、どこか無防備なルイスの笑みを見られることがアイリスは嬉しかった。



そんな感情が顔に出てしまっていたのだろう。不思議そうな顔をしたルイスが、アイリスの名を呼んだ。



「アイリス」

「は、はい!なんでしょう、ルイス様…!」

「…なぜそんなにも嬉しそうにしている?」

「えっ、と、これは、ですね」



 アイリスは反射的に自分の口元を隠し、まごまごと口を開く。



「な、内緒ですっ!」

「……」



 本当のことを言うのが躊躇われたアイリスは、思わずそう口走る。

 ルイスは怪訝そうな顔をするものの、アイリスが絶対に口を開かないと分かったのか、「まあいい」と柔らかく紡ぐ。



 アイリスがほっと息を吐いていると、頭上から先程よりも幾分か低い声が降りてくる。



「話は変わるが、ついこの間、攫われていた少女四人が騎士団にて保護された」

「ほ、ほんとうですか!?」



告げられた内容に、アイリスは目を瞠った。



公爵家に滞在してからというもの、ルイスがいる時にしか騎士団の情報を知れないのだ。

そういうこともあり、ルイスの口から事件の進捗を聞けたのは、とても有難かった。



「それでルイス様!首謀者たちは…」

「落ち着けアイリス。まず今回少女たちが発見されたのは、ウォーラムの街から南へ二つ村を挟んだ森小屋だ」

「………」

「偶然にも森へ散策に出ていた村人が、普段使われていないはずの小屋に人が入っていくのを見たらしい」




不思議に思った村人は、息を潜めて小屋へと近づき中を覗き見た。



するとそこには目隠しをされ、両手を後ろに縛られて横たわっている少女たちと、それを下卑た笑みで見下ろす男達の姿があったのだという。



それを見た村人が、急いで騎士団の詰所へ駆け込んだことで男達は捕縛され、少女たちも無事保護されたらしい。




「一一以前、お前がウォーラムの街に観光客らしき不審な男がいたと、イアンから聞いたな?」

「はい」

「今回捕縛された男の中に、その男がいたそうだ」

「やはり、ウォーラムの街で少女を攫ったのは…」

「その男で間違いないらしい。男自身も、あの街で少女を攫ったと自供した」



男達は各々が己のしたことを認めており、現在も取り調べが行われているとのことだ。



少女たちも保護されてから医師による診察が行われたが、誰一人として酷い怪我はしていなかった。

そこから数日間、彼女たちは入院をしたが特に異常がなかったため、騎士たちがそれぞれの故郷へ送って行ったそうだ。



(彼女たちが無事に帰れたのなら、よかったわ…)



そう思うものの、アイリスは心の底から安堵できたわけではない。

攫った者を捕縛したとルイスは言ったが、それは実行犯のことであり、実際に指示を出している人間のことではないのだ。



アイリスは無意識に、ルイスの上着の胸元をぎゅっと握ってしまう。



「一一……アイリス。考えていることは分かるが、そんな難しい顔をするな」



ルイスはそう口にすると、アイリスの意識を逸らすように自身の顎をアイリスの頭へと乗せてくる。



まるで甘えてくるかのような仕草に、アイリスの胸がどきっと音をたてた。



「ルイス様。……この顎はいったい」

「お前が余計なことを考えないよう、乗っけているだけだが?」



(こっちの方がいろいろと考えてしまうのですがっ…!?)



なんとか離れようと試みるが、アイリスの腰は既にルイスの腕で固定され、頭にも顎が乗せられている。

それにここは馬の上だ。無理に離れようとすれば、バランスを崩し落ちかねない。



離れることを諦めたアイリスは、大人しくルイスへ再び身を預けた。

ルイスはアイリスが身を預けたのが分かると、淡々とどこか穏やかな声色で言う。



「安心しろ。首謀者がどこのどいつかは、おおかた目星がついている。だがら、お前は心置きなくやりたいように動け」

「それは、私が囮で動く時のことをおっしゃっているのですか」

「そうだ」

「……本当に私の好きなように動いていいのですか?きっと、ルイス様が想像するよりも無茶をするかも知れませんよ」



挑むようにルイスを見上げ、揶揄うように笑って見せる。



「アイリス。俺はお前をどんなことからも守ると、そう約束した。たとえお前が無茶をしようと、俺は必ずお前を全力で守ってやる」



しかし、ルイスはなんてことない顔をして、アイリスの挑発を受け止めるのだ。



(〜〜〜っ!!)



自分から仕掛けたこととはいえ、ルイスが当たり前のように『守る』と言うため、アイリスはなんだか気恥しくなってしまう。



そんな感情を誤魔化すため、アイリスは「こほんっ」と小さく咳払いをする。




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