27.呼び出し
オルコット公爵家を訪れてから二日が経った。
現在アイリスは、騎士団の訓練である一体一の手合わせを、ニコラスと行っていた。
「アルフ〜、あんまり踏み込みすぎても、だめだよ〜」
「っ!!」
ニコラスはそう言いながら、アイリスの振るう木剣を軽々と避け、こちらへと容赦なく攻撃をしてくる。
アイリスも何とか攻撃を仕掛けようとするものの、ニコラスへ近づきすぎると手に握られている物によって逆に打ち込まれてしまう。
「ふふふ。楽しいねぇ!」
「……それは、大変結構なのですが、今日に限ってどうして両手に、そんな物を持っているのですか…!!!」
一旦ニコラスから距離をとったアイリスは、息を整えながらその手にある物への抗議をする。
ニコラスは一瞬キョトンっとした顔をするが、自身の手に握られている物を見て、すぐにこにことした顔になる。
「大丈夫だよ、アルフ〜。これは訓練用に刃を潰してあるから、怪我はしないよ〜」
「それはもちろんですが!朝来たときには、その短剣持ってなかったじゃないですか!!」
「あ〜、そういうことねぇ。実は、どーしてもこれを使いたくて、さっき副団長にお願いして、使用許可をもらってきたんだ〜」
ニコラスのその言葉に、アイリスは少し離れたところで騎士たちに助言を呈しているルイスの方を見る。
そして、アイリスの視線に気がついたルイスがふと、こちらを見たかと思うと諦めろと言わんばかりの顔をされる。
(以前エルヴィス先輩から聞いてはいたけれど、もしかしてニコラス先輩の短剣へのこだわりは誰にも止められないのかしら……)
そう考えているとヒュッ、っと空気を切るような音がすぐ近くから聞こえてくる。
「っ!!」
その音が聞こえたのと同時に反射的にしゃがむと、アイリスの立っていたところ目掛けて短剣を振るうニコラスがいた。
(あ、危なかった…!咄嗟にしゃがんで正解だったわ)
「アルフ〜、戦いの最中に、考えごとは危ないよ」
「は、はい!気をつけます!」
「じゃあ〜、 さっそくーー」
「おい!ニコラス、ちょっと待て」
手合わせを再開させようとした時、ニコラスへと声を掛けながらこちらに歩いてくる人物がいた。
ニコラスはむうっと頬を膨らませると、その人物に向かって不貞腐れたように言う。
「もー、邪魔しないでよ、レスター」
「ははっ!すまんな、ニコラス。だが、邪魔をするために止めたわけではないぞ」
レスターは、ニコラスの肩を豪快に叩きながらにっと笑う。
「実は短剣を使ってるお前と一度手合わせしてみたくてな、お前たちに混ざってもいいか副団長に相談したら、興味深げな顔をして許可を出してくれてな」
「!」
「そこでだ、俺とアルフ、ニコラスとパトリックの組み合わせで二対二の手合わせをしようじゃないか!」
するとそれを間近で聞いていたパトリックが、レスターの提案に眉を顰めながら近づいてくる。
「おい、レスター!勝手に俺まで巻き込むな!」
「ん?たまには良いじゃないか。それに、お前が一番ニコラスを知っているだろう」
「そ、それはそうだが一一」
渋るパトリックとは裏腹に、ニコラスとアイリスは瞳を輝かせていた。
「パトリック〜、一緒にやろーよ。レスターの言う通り、パトリックが一番僕の戦い方、わかるでしょ〜」
「そうですよ、パトリック先輩!僕も先輩方の戦い方見たいです!」
「うっ……」
言葉に詰まったパトリックは、しばらくの間悩んでいたが、はぁっと息を吐くと仕方がないと言わんばかりに口にする。
「分かったよ。そこまで言うならやるよ」
その言葉にアイリスは、ぱぁっと頬を綻ばせ、ニコラスとレスターは、パトリックが逃げられないように両脇を抱える。
「お、おい!こんなことしなくても、俺は逃げないぞ!?」
「いいからいいから〜」
「大人しく抱えられていろ、パトリック」
「ちょっ、そのまま引きずるな!!」
そう叫びながら、パトリックはニコラスとレスターにズルズルと訓練場の隅へと連れて行かれてしまう。
アイリスもその後を軽く走りながら追いかけていると、ルイスの後ろを通りかかったタイミングで「アルフ」と彼に名を呼ばれる。
「はい!何でしょうか、副団長」
立ち止まり、ピシッと背筋を伸ばして後ろ手を組む。
するとアイリスの方へと体を向けたルイスが告げる。
「いいか、あいつらと手合わせをする時は、いつも以上に気を抜くな」
「はい」
「それと一一」
数歩近づいてきたルイスは、アイリスにしか聞こえない程の声でこう言うのだ。
「全ての訓練が終わったら、誰にも見つからないように西側の器具庫裏まで来い」
「……分かりました」
そのままルイスは淡々とした口調で「以上だ」と言い、元いた場所へと戻ってしまう。
そんな様子を見た後、アイリスはルイスへと一礼し、ニコラス達の元へ向かうべくその場を走り去る。
(こんな場所で伝えてくるということは、何か急ぎのことなのかしら……)
そう考えるものの、頭を振ってすぐその思考を打ち消す。
(今そんなことを考えていても仕方がないわ、手合わせに集中しないと!)
何があったかは後でルイスに聞こう、とそう心に決めたアイリスは、待ち受ける手合わせに心踊らせるのだった。




