プロローグ
ジリジリと暑い真夏日が続き、ここエアハート王国の民達は、一日でも早く涼しい季節が訪れてほしいと日々願っていた。
しかし、そんな真夏日の中、王宮のとある執務室では冬をも思わせる程の冷え切った空気が、そこを支配していたーー。
***
「すみません、副団長。もう一度、おっしゃって頂いてもよろしいですか?」
にこりとした笑顔のまま、茶髪の青年は目の前にいる人物に尋ねる。
「仕方がない、お前が認めるまで何度でも言おう」
そう言うと、目の前の人物は捕食者の目をしたまま青年に告げるのだ、
「ーーお前、女だろう」
ピリピリとした空気が、さらに張り詰めたものになる。その原因である彼は、こちらの一挙一動を楽しんでいる様子を隠さずに微笑んでいる。
こうなった場合の彼は確実に確証を得ており、こちらに逃げ道など最初から用意されていないことを青年は理解していた。
(はぁぁ、いつかはバレると思っていたけれど速すぎませんかっ!?けど、もしかしたら違う可能性もあるのでは??)
「ん?黙り込んでどうした。このまま黙り込んでいると、俺の意見に対し肯定とみなすぞ」
「こ、肯定しているわけではありません!!少し…、ほ、ほんの少し驚いてしまっただけですっ!!!」
「ほう?」
必死に否定しているのに、不思議とさらに墓穴を掘っている感覚になっていく。
何もかもが彼の思い通りだと、そう言われているようだ。
もう隠し通しても無駄かもしれないと、諦めの気持ちが青年を襲う。しかし、このままではいけないという気持ちもあり、最後の悪あがきをしようと考える。
「あ、あのっーー!」
いざ実行しようと口を開いた瞬間、彼がさらに笑みを深めた。
ーーその笑みに、ぞくりと背筋が凍る。
(や、やっぱり全てを確信しているわ!!!)
もう既に打つ手がなくなってしまった青年、もといアイリス・バーレイはこの先の展開に、絶望と恐怖しか感じていなかった。