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関東バベル-7

 ドアスコープを覗いた。


「花垣。荷物パクっただろ、今すぐ返せ」


 高級車の、ヤクザの髭爺がいた。


 兵隊を何人も連れていた。


 刺青を見せつけて紳士な雰囲気ではない。


 花垣はドアチェーンを外した。


 ヤクザが部屋の中へ雪崩れこんだ。


「オヤジ! いました!」


 と、ヤクザが天使の手を掴みあげた。


 余った手ではどさくさで乳を揉んでいた。


「花垣」


 と、髭爺がため息を吐いた。


 眼鏡を外してレンズを拭いた。


「おれぁ、信じてたんだ。お前が、大事な客の商品をパクったなんて信じられねぇ。だから、連絡も寄越さねぇてめぇを見にくるだけのつもりだった」


「兵隊を連れて?」


「用心だよ。てめぇが天使を連れてるのを見たとタレこまれていたからな」


「最初から決まってんじゃん」


 花垣は、冷や汗した。


「先方に、謝ってこい」


「許されると思う?」


「首だけ送っても満足しねぇだろ」


「殺させたいわけだ」


「義理は守らねぇとな。稼げねぇよ」


「蜥蜴の尻尾か。あんたの命令だ」


「盗めとは言ってねぇ」


 ──ドスッ!


 花垣の腹を、杖がめりこんだ。


 鳩尾に深々と刺さり肺を押し上げた。


 花垣は痛みでくの字に丸まった。


 胃袋から、吐き出した。


「連れて行け」


 花垣の両肩をヤクザが掴んだ。


 肩が外れるくらい乱暴だ。


 車のなかに放り込まれた。


「女と虫は同じ場所だ」


「え!? オヤジ、ちょっとくらい……」


「黙ってりゃ、別の女を当ててやる。天使なんざ、関わるもんじゃねぇよ」


「うっす……」


 うめく花垣の隣に、天使が座った。


 状況をまるで理解しないような顔だ。


 心配そうというわけでなく花垣を見ていた。


「オヤジの言う通りっすね。きもちわりぃ」


 と、ヤクザはドアを閉めた。


 車はどこかを目指して走り続けた。


「いきなり腹をやりやがって……!」


 と、回復した花垣は唸った。


 犬歯を覗かせるほど怒った。


 閉じ込められた花垣を怖がる者はいない。


「短い夢だった」


 と、花垣は天使を見た。


 留められないシャツとパンツ姿だ。


「エロすぎるだろ」


「エロ?」


「こんなことだけ言葉にするなよ」


「……」


 天使の初めての言葉にげんなりした花垣だ。


「死ぬ前に、抱かせてくれるか?」


「……」


 天使は答えなかった。


 花垣は車内で、天使に覆い被さった。


 すると、助手席から、棒で叩かれた。


「いてぇ!?」


 天使が、花垣を抱いた。


 くるりと位置を入れ替えた。


「おい! 虫を引き剥がせ!」


 と、運転席が吠えた。


 花垣と天使の顔は近かった。


 触れ合うほどの距離だった。


「俺は、正直な男だぞ?」


「……」


 天使の機械的な瞳が、焦点を合わせた。


 花垣は天使の腰に手を回した。


 そのまま、天使に飛び込んだ。

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