関東バベル-5
「目標を確保」
花垣は襟を引っ張った。
コンテナの安全を確認した。
破壊された、開けられた痕跡はなかった。
「仕事の目的は達成できたってわけか」
冷却装置が付いていた。
何個ものファンが唸っていた。
電源は断線していなさそうだ。
持ち運べるものではなかった。
トレーラーと一体化していた。
「核弾頭でも運んでいる厳重さだな」
花垣は呆れていた。
護衛の死体だらけだ。
守る対象を背中に死んでいた。
コンテナは弾痕だらけでボロボロだ。
「何度か爆破した跡もあるな」
どうでもいいが、と、花垣は背中を向けた。
「暑苦しいな。冷却装置の予算不足か?」
トレーラーから降りた。
その背中で、電子音を聞いた。
『異常発熱を検知、緊急プロトコル起動』
『強制冷却装置の破損を検知』
『対象の保護優先、拘束を解除』
『中和剤の投与を停止』
花垣は足を止めた。
背中には冷や汗だ。
「嫌な予感、お次はなんだ?」
コンテナが開放された。
熱気が、大気を歪ませながら押し寄せた。
花垣は思わず後ろへ下がった。
コンテナの中身を見た。
無数のケーブルが腸みたいに飛び出た。
それに繋がれているのは──
「──天使?」
──背中に翼のある、人間だった。
天使を繋いでいたチューブが、次々とガスを噴きながら外れていく。
一本、外れるたびに天使は落ちた。
花垣は咄嗟にかけた。
最後のが抜けて落ちる前に手を伸ばした。
THのマニュピレータが天使を受け止めた。
天使に意識はない。
男か女かは不明だ。
整った顔であった。
「……綺麗だ……」
そこで、花垣は、ハッとした。
天使は服を着ていない。
「…………女か」
花垣はマニュピレータで天使の体を隠しながら──翼は手から溢れている──トレーラーの外に出た。
「どうすんだよ、これ」
花垣が途方に暮れている時だ。
レーザー警報が飛び出した。
けたたましい警告音が響いた。
「なっ!?」
ミサイルが、迫っていた。
「カウンター!」
と、花垣は回避マニューバを入力した。
TH全機でスモークの擲弾を打ち上げた。
ミサイルの目を誤魔化そうとした。
「エムパット、エア!」
ミサイルは、張った煙幕を突き抜けた。
トレーラーの前でホップアップ。
真上から飛び込んできた。
炎が吹き荒れた。
続いて更に数発、命中した。
トレーラーの頭から尻まで満遍なく。
一才を全て焼き尽くした。
花垣は爆風と破片から背を向けた。
生身のままの天使を庇った。
天使の目が開いていた。