関東バベル-3
狭苦しい過密な道だ。
天井に蓋をされ、左右には違法の露店。
床に敷き詰めるだけでなく上にも長い。
積み木細工のように家の寄せ集めだ。
臭くて、不衛生で、ゴキブリが走った。
ヨーロッパ輸入の黒い高級車が寄せてきた。
当たり屋がぶつかった。
だが、高級車は容赦なく轢き殺した。
スモックのパワーウインドが降りた。
「仕事だ」
と、シルクハットにスーツ、髭の男。
後部座席で態度の大きい老人が言う。
「管理局から出るコンテナの護送しろ」
「中身はなんだろね」
「聞く必要はねぇ話だ」
花垣の歩く速度に合わせて車はついてきた。
「ヤクザをお役所が頼るなんて、税金払いたくねぇー。国民保険も税金も払っとるんじゃけど」
「てめぇの飯のタネもな。公務員みたいなもんだ。トゥーハンドで、ハゲタカやネズミをぶち殺せ」
「鉄砲玉のが用意できるでしょうに」
「テメェは仮にも職業ドライバーだろうが。金を払って飼ってやってんだ。バイク転がして遊んでるガキどもを殺すだけならともかく、管理局に潰されたくはねぇんだよ」
「はいはい。事務所でトゥーハンドを借りる。仕事の場所も事務所で?」
「あぁ」
出せ、と、ヤクザの髭爺は車を出させた。
高級車はエンジンをパンパンと鳴らし走る。
「……生肉食いてぇなぁ……」
花垣は腹を鳴らしながら歩いた。
ごみごみしい町で、子供にスラれた。
花垣の財布はボロキレだ。
スリの子供はその場で捨てていた。
「アホめ」
と、花垣は口角をあげて足が軽かった。
花垣は無人契約機に入った。
ただの、錆びたコンテナだ。
下品な落書きが迷彩になっていた。
案内電話のボックスを外した。
受話器を耳に当ててもいつだって不通だ。
電話としての機能はほとんど偽装なのだ。
事務所のコンテナの後ろのロックが外れた。
花垣は、用はないと無人契約機の外へ出た。
無人契約機の入り口とは反対が開いた。
鋼鉄の、大きな人型のロボット。
花垣はロボットのハッチを開けた。
カヌーに手足が着いたような機械だ。
数十年前の戦闘機のようなバブルキャノピ。
花垣はスライドさせてシートへ滑り込んだ。
「トゥーハンド、システムチェック」
と、花垣はクセで確認した。
両手の指、一〇本とも全て、ぬるぬるしたコントローラーに差し込む。
「相変わらず尻の穴みてぇ」
トゥーハンド。
3mの人型兵器がコンテナから立った。
花垣以外にも、さらに三機、出てきた。
「アルファ、ベータ、チャーリー、お姫様たち、目覚めは良いか?」
パターン化されたコマンドを打った。
反発の強いボタンを押した。
生々しい機械の奥で押した。
トゥーハンド、無人THのセンサーが動く。
動作確認で頭の複合センサーが動いていた。
せわしない、鷹が首を回すような無機質だ。
「整備不良だぞ。くそっ」
花垣は、どの機体からも異音を聞いた。
レールやモーターに異物が噛んでいた。
「胸部と背部のロケットモーター、臭いがおかしい。ちゃんと燃えていないな。リキッドマグの関節も、反応がおかしい。シリンダーも交換せず転売したか。まともなのは飯を食う妖怪だけだな」
花垣は諦めて、三機を率いた。
THがロケットモーターにチャージ。
「天使になるぞ。ついてこい、妹たち」
──点火。
轟音を噴いた。
3mもある巨人は、遥か高く、飛んだ。