巨人の踏んだ尻尾-8
「しかし、上手いものだな」
「トラックが? 大型は無免だ」
「……トゥーハンドのオペレーターとしてだ……って、マジか、お前ちょっとトラック降りろ死んでしまう」
「平気だろ。今度からはドーザーを付けてくれ。リッパ付きのな。そうすればちょっとやそっとは、吹き飛ばしてでも進める」
「はぁ〜……怖いて感情を子宮に忘れたのか」
と、デウスは呆れたように言う。
「話を戻すが、トゥーハンドはどこで?」
「ちょっと滑舌になってきたじゃないか」
「誤魔化してもいいが、資料は読んだ。シスタームーンの鉄砲玉とヤクザの取り引きに巻き込まれて、トゥーハンド三機で蹂躙したとな」
天子の翅が、花垣の脇をくすぐった。
「おや」
と、花垣は横目で助手席を見た。
天使が船をこいでいた。
うつら、うつら、頭が上下に揺れていた。
「止めるぞ。天子を仮眠室に移そう」
「じゃ、私が助手席だな」
「ナビゲーションは頼むよ」
「必要ないだろ」
トラックを自動販売機前に止めた。
デウスが仮眠室から降りる。
花垣は、天子をハムスターか何か、か弱い小動物を扱うように、丁寧に、丁寧に、仮眠室の中へ寝かしつけた。
もう眠ってしまっている天子の、目と口にかかっている彼女の髪を、そっとのけておく。
「おやすみ、小さな天使さま」
と、おやすみの挨拶をして花垣は閉めた。
「小休止だ。一本くらいおごるぞ」
花垣のポケットから煙草とマッチが出た。
まだ未開封の新品だ。
煙草の一本をデウスに回した。
「いや、いらん」
薦められたデウスが断る。
「ヤニの臭いがスーツからするんで、呑むのだとばかり思ってた」
「同僚のせいだな。私は吸わん」
「実は、俺もなんだ」
と、花垣は煙草とマッチを戻した。
花垣は、財布から小銭を探した。
自販機で果肉入り柘榴ジュースを買う。
ガコンッ、と、落ちてきた缶を天子へ。
今は眠っているので、ポケット送りだ。
「缶コーヒーでも?」
「ビールが良いな!」
「缶コーヒー微糖にするぞー」
ガコンッ。
花垣は缶コーヒーをデウスに投げた。
彼自身は自販機で果汁炭酸ジュースを買う。
「嫌に、得体の知れないのに優しいんだな」
「皮肉か? 猫も犬も、拾ったからには最後まで面倒を見る主義だ」
「犬猫の畜生に、天使も加わるわけだ」
「おい、猫に失礼だ。彼女らは世界でもっとも美しい生物候補にあるというのに」
「あほらしい。どこ調べだよ。思い込みだ」
と、デウスは缶コーヒーのプルタブを開けた。炭酸飲料でもないのに、プシュッ、と、小気味の良い音だ。
「猫は良いぞ。昔、愛想の欠片もない茶トラの猫が、うちの前で四人も子猫を置いていった。これが可愛くてな。人生観が変わる」
「はいはい。御涙頂戴はお腹いっぱいなんだ」
デウスは、蝿か羽虫でも相手にしているように、うっとうしげに、しなやかな手で虚空を払った。




