巨人の踏んだ尻尾-7
「天使て、何なんだ? 獣人と違うのか」
「知らないと言っただろう。……だけど、獣人と天使は、とても同じには見えないことは確かだろうね」
「天使の目はマシーンぽいしな」
「そう。獣人はナチュラルだよ」
「……サイボーグなのか……」
「翼があるのも大概の謎だ」
「謎だらけなんだな、お前」
と、花垣は、シフトレバーにいたずらをはかっていた天子の柔らかな、小さな手を、ピシャリと叩いた。彼女の手があっという間に引っ込んだ。
「……命を助けられたことには感謝してる。本当だ。だから、本当は秘密なことを、お前にも明かしたんだ。これはけっこう、命を張ってるんだ」
「無理矢理聞きたいわけじゃない。ただ、天使が何なのか知りたかっただけだ。天子がいったい何に巻き込まれたのかをな」
「面倒くさい男なんだな」
と、デウスは、呆れたような嘲笑だ。
花垣は先程のことを思い出していた。
耳を澄ませた──。
薬莢がアスファルトへ転がり打楽器のように奏でた。真鍮の中の火薬が雷管から引火して燃焼する音、弾頭が飛翔して死神の羽音が掠める。
「獣臭。火薬の匂いの中でも、風呂に入っていないからよくわかる。化学合成された靴裏の音ではない肉球の足音も。言葉も届いてる。寡黙ではないらしい」
「──天使を確保しろ、できんなら殺せ!」
「天使か」
「バベルの寄生虫どもか!」
デウスは懐のタウルス社製レイジングブル・モデル454。454カスール弾を五発装填のリボルバーが、重い弾丸を放った。
悲鳴。
断末。
狂乱。
烏合のなれはてがゆく。
襲撃者である獣人を滅した。
畏れるに足らない。
奉るに、値しない。
有耶無耶と、ことごとく。
撃滅していたのだ。
「こっちのトゥーハンドは何をしてる!?」
獣人が唸るように言葉を発した。
砲弾から逃げ惑う獣人らの背後。
未登録のトゥーハンドが『締め上げ』だ。
コクピットをパワークロウで掴みあげられ、ハニカム構造の金属が、中の肉塊もろとも押し潰されていく。短い悲鳴。果実を搾るように、血が溢れてこぼれた。ボタボタとアスファルトを濡らしていた。
デウスが、獣人やギャングに撃ちまくる。
「獣人が天使を狙っているのか。どうして?」
花垣は、トゥーハンドに指示した。
コクピットを捻り潰した獣人のトゥーハンドを、乗り捨てられた一般車両を盾に銃撃してくる、獣人たちに投げさせた。
数トンもある質量だ。
アスファルトを削りながら転がったそれは、自動車の燃料タンクを破裂させて、気化したガスに着火──爆発させた。
熱気。
殺気。
それらは針のように、皮膚を刺していた。
花垣は現実に帰ってきた。
「獣人は天使を生け捕りしたいんだろうか」




