巨人の踏んだ尻尾-6
「おい、狭いぞ!」
と、デウスが抗議した。
「ははっ! もう少しの辛抱だろ?」
「……寝具だろ。トラックドライバーが、仮眠するための。頭もあげられない!」
「浜辺のマーメイドみたいでセクシーだぞ」
「うっさい、バカ!」
「あたっ!?」
座席裏の仮眠室から、眠り姫の平手が飛ぶ。
ペチン、と、花垣の頭を叩いたことで、ぶわっと彼の髪の毛は海流に流されるワカメのようだ。
助手席の天子がケラケラと微笑んでいた。
「……」
花垣はトラックを運転しながら、膝に半分折り畳んだ地図を見下ろした。カーナビゲーションなんてハイテクが無い以上、古典的な地図読みが頼りだ。何より、関東バベルタワーではGPSと地図が合わないのでナビゲーションは人頼みしかないのだが。
「……」
「おい」
と、トラックのマーメイドが喋る。
寝そべったままのデウスだ。
ルームミラーには、愛想の悪いお姫様だ。
「…………何か喋れよ。お喋りだろ?」
「俺は寡黙な男なんだ、そういう男だ」
「嘘吐け」
と、デウスは、まるで花垣はお喋りだと見通している確信があるように断言した。浅黒い肌に緑の目の黒髪、彼女は寝そべって潰れる胸もない乳を仮眠室の床に押しつけて楽にしている。
「あー。じゃ、天使てなんなんだよ。スマートコクーンが作ったのか? 重武装の兵隊を使ってでも取り返したい物を、なんで、俺を殺してから蘇生させて、くっつけているんだ?」
花垣は、まるで面倒くさそうに、消えない蝋燭を吹き消すように質問を吹いた。
「知りたい?」
関東バベルタワーには信号が多い。
世界でもっとも安全な町を目指して、あらゆる手間を追加してでも安全性を高めようとした結果だ。
花垣はブレーキを踏んだ。
渋滞を引き起こす無能な交通システム。
無駄極めた信号機は電源を落とされていた。
花垣は注意深く肉眼で見た。
「わっ!?」
制動で、仮眠室からデウスが転がってきた。
デウスが運転席と助手席の間、シフトノブのある空間に頭から真っ逆さまだ。お尻を高くあげて、ズレたスーツの隙間からはピンク色のパンツ……の、端と、ブラジャーも必要はないだろう下乳を包むピンク色だ。
「何やってんだ」
と、花垣は、デウスを仮眠室に戻した。
真っ赤な顔のデウスが奥へと姿を隠す。
花垣はシフトノブを小気味よく動かした。アクセルとクラッチを組み合わせで繋ぎなおした。その仕草は少しぎこちないが、エンジンの回転は小突かれることもなくクラッチを繋ぎ続けた。
ブレーキでエアーが吹いた。
「……」
奇妙な沈黙。
破ったのは、デウスだ。
「詳しくは知らない」
と、デウスは顔を冷まし、どこか、他人事のような、面倒くさいことに巻き込まれているだけのように語る。
「だが、スマートコクーンで、天使を重視しているぽいのは感じてる。これは、命を助けられた借りの返しだからな」




