巨人の踏んだ尻尾-4
「二台、どこに行った!? お行儀の良い連中じゃないんだ、まだ追っているぞ」
マスクをした男のセダンが迫っていた。
花垣のトラックの隣まで、寄ってきた。
セダンはトラックが迫れば離れ、遠ざかれば寄った。それに花垣は音のない舌打ちで「良い腕をしてやがる」と漏らした。
天子がフロントウィンドウの先を見つめる。
瞳が光学レンズを絞る。
天使が、ハンドルをきった。
トラックが横転寸前に急カーブ。
──死角。
路地からゴミ回収車が出る。
花垣のトラック側面が削られた。
金属を削ぐ不快な音と火華が散った。
「躱せた!?」
エンジン音を貫くほどの悲鳴が響いた。
セダンが、ゴミ回収車と正面から激突。
鋼鉄と大重量にぶつかったのだ。
タイヤを履いた戦車との事故だ。
セダンはエンジンルームまで潰された。
運転席も助手席も消え、バラバラになった。
花垣はブレーキペダルを踏んで止める。
ゴミ回収車は激突したセダンには目もくれず、次の仕事場へと重々しいタイヤを回しながら、ゆっくりと腐臭を垂れ流しつつ走った。
追手の生き残りの一台は、ブレーキを踏んだ。ブレーキランプが軌跡を描きながらターンして、トラックとは真逆に走る。
仲間を見捨てて、逃げたのだ。
「ふぅ……」
消えたドアから、花垣は降りた。
汚物、埃、油の混じる道をブーツが踏む。
頭の上で円を描くように手を回す。
「オンラインだ。トゥーハンド」
コンテナが解放された。
積まれていたのは人型兵器。
シールドカバーを開き、複眼の目が動く。
「生存者を救出しろ」
トゥーハンドのパワーカッターが、ひしゃげたセダンから三人の獣人を救出した。血塗れで、全身を覆う体毛は、雨に打たれた野犬のようで、手足の骨は砕けて飛び出していた。
息は、あった。
「狼人か」
狼人が血塗れのまま、何か喋っていた。
花垣は耳を寄せた。
食い千切られる可能性があってもだ。
「悪魔め……」
「血を抑えるよう処置はする。添え木もだ。救急箱以上はできないから、死ぬ前に病院を探せ、ホモ・ルパ」
「悪魔……」
狼人は悪魔、と、繰り返した。
「俺を悪魔でもなんでも怨んでしっかりしろ!」と、花垣は毛深い、狼人の鋭い爪と黒い肉球の手に返事をさせた。
弱々しく、狼人は握り返す。
応急処置を終え、花垣はトラックへ戻った。
ニュートラルから、トラックが走り出す。
つっかえるようなシフトチェンジだった。
「無事か? さっきは助かった。お前がいなかったら、俺が今頃ぺしゃんこだ。ありがとう」
と、花垣は、天子の頭を撫でた。
「しかし、まったく、よくわかったな。あのタイミングでゴミ収集車が路地から出てくるなんて。未来が見えていたようだったぞ」
天子は「ふふん」と言わんばかりに、表情で感情を伝えているようだ。自慢気であり、自信に満ちた確かなものに満ちていて、雑草のようなしたたかさも。
「話さないじゃなくて、やっぱり『話せない』んだな、天子は。文字くらい書ければ、難儀しなくてよかったんだが、考えても仕方がない」
トラックは大きくUターン。
元の道に戻るルートを選択。
「忘れ物がある。もう一戦、覚悟してくれ、天子。火事場に飛びこむかもだ」
天子はサムズアップで答えた。
「スマートコクーンの監視役を助けてやらないとだよな。見捨ててやるには、悪いやつでもないんだ」
アクセルを踏む。
エキゾーストパイプを通りマフラーから抜けるガスが吹かれ、エンジンが唸りをあげるほど激しくピストンが爆発し続けた。
火の粉混じりの排気ガスが噴きあがる。
銃撃戦があったのだ。
しかし、道路の上では日常が続いていた。
襲撃されたポイントまで──帰ってきた。
まだ銃撃戦の最中だ。
「デウスだ」
アクセルを開いた。
エンジンが燃料を食い唸る。
ひっくり返った黒塗りを盾に、デウスが銃撃戦をしている。凶暴そうなリボルバーを撃ちまくって、不注意な獣人の頭がポップコーンのように弾けた。
花垣はトラックで、突っ込んだ。
獣人らが車ごと吹き飛ばされた。
コンテナが傾きタイヤが半分浮く。
ゴムの擦れる焦げた臭いがした。
トラックを横滑りさせてデウスの盾にする。
「生きてるかい? 監視役」




