巨人の踏んだ尻尾-2
「天子。賢いトラックだろ?」
と、花垣は、天使に話題を振る。
「スマートコクーンから、レンタルさせられた自動運転できるトラックだ。前の怪しげな、スモークを張った黒塗りの高級車……あれも、スマートコクーンのだ。中にはデウスで監視が乗ってる。ついでに後ろのセダンも」
花垣は、指を後ろに差した。
天子が窓から上半身を出す。
花垣はそんな天使を引き戻した。
「首が吹っ飛ぶからな、やめとけ」
それを聞いた天子は「はーい」と、言わんばかりに口を大きく開けて、閉じた。変わらず、彼女の声帯が震えて、声になることはない。
「暇だから訊くが──」
花垣はハンドルから手を離して、天子の翅を助手席におさめた。開いたままのパワーウインドを閉じて、エアコンを入れた。
天子は送られてくる風に手をかざす。
「──お前様はどこから来たんだ?」
天子は変わらず声も文字も残さない。流れてくる風を掴むように、指を動かすばかりだ。そのたびに、首を捻ったり、喜んでいる──少なくとも花垣の感覚ではだが──ような表情を浮かべた。
「渋滞、まだ続きそうだな」
天子が両足をダッシュボードへ置いた。
薄汚れた白猫のような色のホットパンツは、天子のふとましい腿肉を曝け出し、素足のままの足の指先を妖艶に動かすさまを見せつけた。
「……しつけがいるかもな。こらやめなさい」
と、花垣は、天子の足をしまわせた。
しかし、天子の足はするりと、花垣の手をすり抜けて、逆に、花垣の顔を襲った! それは足という付属物ではなく、独立した生き物のように鋭く伸びて、花垣の顔で、イカの触腕のごとく絡みついた。
「あたたッ!?」
天子の五指が、花垣の頰や鼻を纏めて握る。
花垣がなんとか足首を掴んだとき、天子と目があった。彼女は足首を持ち上げられて、助手席のシートになかばひっくり返されてしまっている。
幼い、妖艶で、待っているような。
そんな表情で彼女は見つめていた。
「はぁ〜……」
花垣は天使の足首を解放した。
ハンドルに戻して前を見る。
渋滞は終わりそうにない。
ゆっくりと、進み始めた。
「おっ」
先導するデウスの黒塗り、スモックでウインドウが黒く曇ったベンツが、野獣のようなエンジンを唸らせているかたわら、窓から手が伸びて振られていた。
花垣はブレーキを踏む。
ブレーキランプが点灯。
──直後。
天子がハンドルを奪った。
アクセルペダルに細い天子の足。
有線を引くロケットの赤いランプ。
十字の羽根と蚊のような長い口吻のあるロケットは、減速したデウスの黒塗りベンツ、後ろのトランクルームか後輪に直撃した。
爆発。
灰色と黒色の煙が一瞬で捲いた。
炎が煙を押し退けながら光った。
衝撃でベンツはひっくり返る。
天板を道路で擦り火花を散らしながら、外に並べられていたカフェテラスの一角をボーリングのピンのように跳ね飛ばした。
花垣はブレーキから足を離した。
スピードメーターが法定速度を振り切る。
セダンタイプを数台、トラック質量の激突のままに跳ね飛ばして、道路から飛び出た。違法建築の屋台を破壊して、脇道へと滑り込む。
──襲撃だ。




