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story:12

「あー、なるほどね! で、冬田さんはどう思う?」


昼休憩中にて、純哉は席に座り連れたちと机を囲んで昼食を取る。購買で買ったフレンチトーストを食べている最中、急に糸井から話を振られた。しかし、糸井と尼川の前後の会話を聞いていなかったので、返答に詰まる。


「……ん? ごめん、何の話?」


正直にその旨を伝え、きょとんとした顔で聞き返す純哉。対する尼川は、薄く笑いながら心配の意も含めて指摘を入れる。


「大丈夫か、冬田? なんか昨日今日とそういうことが多いで?」


実際には一昨日からか、他者からの話はずっと上の空だ。真面目に聞こうと意識してみても、すぐに内容が余所へ行ってしまう。それほどまでに、純哉の中では延々と抱え続けている大きな疑問があった。


純哉の心に巣食う疑問とは、言わずもがな峰村瑠花からの逆告白だ。彼女に好意を告げられてからというもの、ずっとそのことで頭を悩ませていた。


何故今になって伝えてきたのかは先日の発言から察しはついたが、どうして互いに距離が出来てしまったのか。どれだけ考え尽くしても、結局未だに答えが出ずにいる。もちろん瑠花の件は誰にも相談していないし、するつもりも毛頭無い。


純粋に気を掛ける尼川へ、純哉は適当に言い返す。


「大丈夫よ、ちょっと考えごとしよっただけじゃけん」


「考えごと? どしたん? 好きな人でもできたん?」


遠からず近からずな返答がきた。意外と勘が鋭い尼川には、誤魔化すための文句は相応のものが要求される。心中を悟られまいと平静を装う純哉は、頭の中で瞬時に嘘を組み立ててそれを伝えた。


「違う違う、俺が一昨日から観とる恋愛ドラマの今後の展開が気になっとるだけよ」


そこまでいったところで、割って入るようにして糸井が深追いする。


「へぇ、それってなんていうタイトルのドラマなん?」


突っ込んだ勢いの糸井からの質問を受け、純哉は思考を停止させた。マズいことに、設定まで考えていなかった。これではボロが出るのも時間の問題だ。今からでも、嘘を成立させるために取り繕わなければならない。


「えっとね、……それが、覚えてないんだよなぁ」


とても無理のある返答だ、そもそもこんなぎこちない言い訳で逃れようとするのが間違いだった。背中に冷や汗を垂らす純哉に構わず、糸井は容赦なく問いただす。


「覚えてないだって? 俺等だけじゃなく他の奴の話を聞いたりしとってもそのことしか考えられんほどハマってそうなのに? 肝心のタイトルを覚えてないって逆に凄いと思うのは俺だけかい?」


もう完全に勘付かれている。やはり嘘で話を巻こうとしても、一手二手先のことを考えようとすれば今の純哉の頭では追いつかなかった。


不敵に口角を上げる糸井に対し、無言を貫く純哉。


「冬田さん、嘘はもうええよ。別に個人的な内容で言いたくないなら聞かんし、誰かに相談して解決できそうなもんなら聞くで? まぁ、そこらへんの最終的な判断は冬田さんに任せるけどさ」


言うも言わないも、自分しだいときた。糸井も尼川も一旦食べるのを止め、純哉に注目する。どうするかは本人に任すとして、一応話を聞いてみる気でいた。


しかしながら、ここまで詰められればもう逃げ場はない。純哉は半ば諦めの意味も踏まえ、この際なので第三者の意見も取り入れる意図で全貌を語る覚悟を決めた。


「そうだな、これはあくまで2人の意見を聞いてみたいってのもあって話すんだが……」


観念したように前置きから紡ぐ純哉は、自身の過去を遡って現在に至るまでの経緯を伝える。中学時代の自分たちのことや、最近になってかつての想い人に好意を告げられたことなど、赤裸々に打ち明けた。


まさか、高校に入ってから出会った連れへ自分の全てを話すことになろうとは。いつかこんな日が来るのではないかとなんとなく思っていたが、まさかそれが今日になるとは全くの想定外だった。もしも先日、瑠花と会わなければこうはなっていなかっただろう。


出来るものなら瑠花との面識が全く無い糸井や尼川などを巻き込みたくなかった。必要以上に話を大きくしたくなかったからだ。


最後まで聞き終えた糸井は、こくこくと同情するように相槌を打つ。


「そうか、冬田さんも中々大変な時期を過ごしてきたもんだな。そうとも知らず、今まで悪気なくあんたを傷付けるようなことを言ってしまってたら悪かったね」


「ほんとよ、恋バナみたいなんしよった時は特にそうじゃろ」


相手の過去を知らなかったばかりに、失言を言ってしまってたのなら本当に申し訳なかった。口元をやや強く結ぶ糸井と尼川は、それぞれ純哉から視線を逸らしつつ自身等の後ろめたさを述べる。


「いいよ、なんでも……」


否定するのも肯定するのも違う。自分と想い人の不和は起こるべくして起こったのだと。そして、今に至るまで友人たちへ自らの過去を秘め続けていたことに然り。


一時的に寂寞とした空気感が流れるも、糸井がある仮設を立てて内々の沈黙を破った。


「でもさぁ、冬田さんの話を聞いとる限りじゃ、やっぱりあんたらのすれ違いもあると思うんよね」


「え? すれ違い?」


糸井の発言に、純哉が顔を上げて身を乗り出す。次いで糸井もまた、尼川に対して同意を求めた。


「じゃない? 尼川さん? 元は仲良くて急に疎遠になったのに更に後々になってから好きだったとか言われたら、少なくとも自分が知らんかっただけで両想いな時があったかも知れんよね?」


「うん、」


「え? 大丈夫? 俺の考えが極端過ぎたりしとらん?」


「まぁ、そこまでいかんくとも多少なりとも向こうは気がなかったことはないんじゃね? あとは前後の行動に原因があったりとか、何かしらの切っ掛けがあったとか」


様々な意見が飛び交う中、純哉は口をぽかんと開けたまま聞き入る。とても重要なことばかりが挙がっている気がするが、未だに情報の処理が追いつかない。ましてや、糸井と尼川の会話には入れそうにないように思えた。


尼川の発言に続くかたちで、糸井が純哉へ突っ込む。


「冬田さん、その好きだった人とあんま話さんようになる前に、どっちかが距離を取るようなこととかはしとらん?」


「は?」


改めて記憶を思い起し、よく考えてみる。何か引かれるようなことを言ったり、失言を溢したりした覚えはない。また、嫌われそうな行動を取ったりもしていないはずだ。とはいえ、主観的に見れば分からないことでも、客観的に見れば分かるものがあるのは事実だ。


ここで、尼川が結論として言い切る。


「もし出来るんであれば、すぐにでも腹を割って話してみてもいいよね。とりあえず俺と糸井は、冬田とその人の距離感が分からんけ言えることももうないけど、賭ける価値はあると思うで?」


「まずはダメ元で言うてみんさいや? それで向こうが聞いてくれんようなら、その人との縁はそこまでだったっていうだけで」


ならば直接会って要件を伝えるのが適切か。先日の様子では瑠花も割と好意的だったし、社交辞令などでなかったのならば諸々の可能性としては充分にある。


友人たちからの指摘のもと、純哉の意思は僅かに固まった。あとは本題に持っていくまでの段取りを考えて、純哉が決意するまでに至ればよい。


先刻からの話題に派生して、そのまま糸井と尼川は談笑を交わす。


「やっぱりね、相手が誰であろうと喧嘩とか不仲っていうもんはどっちかのコミュニケーション不足から始まると俺は思うんよ。尼川さんはどう思う?」


「あー分かるよ? あれ言ってなかったんじゃー、これ言ってなかったじゃーいうてモメるやつじゃろ?」


「そうそう! ほいじゃけん、俺も元カノとそういうのがしょっちゅうあったもんよ」


連れたちの会話を聞き流しつつ、純哉は1人で思いを巡らせる。状況だけでいえば、どのみち引くか引かないかだ。もっといえば、およそ2年越しのすれ違いに決着をつけるチャンスでもある。また、向こうが本音を言ってきたのなら、こちら側も言ってみても正当だろう。


彼女に臨むとするならば今日の放課後か。短期決戦の果てに、各々は揺るぎない想いを知る。

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