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童話

魔王さえ壊せないもの

作者: 吉川緑

 魔王と呼ばれる存在が、世界を恐怖に陥れていた頃。


「か弱い人間など、恐れるに足らぬ。我が呪いで、奴らの絆を壊してやろう」


 魔王は愛し合う、一組の男女に目を付けます。


「おとこよ、お前は夜以外、白馬の姿にしてやる。せいぜい悲しめ」

「おんなよ、お前は朝以外、白鳥の姿にしてやる。せいぜい苦悩しろ」


 愛し合う男女は、魔王の呪いで白馬と白鳥に変えられます。


 人の姿で過ごすことの叶わない、すれ違う辛い日々。

 それでも二人は、励まし合い、慈しんで、互いを思います。


 朝はおんなが、白馬となったおとこの蹄を丁寧に削ります。

 昼は仲良く、白馬と白鳥の姿で、草原と大空を駆け巡ります。

 夜はおとこが、白鳥となったおんなの羽を優しく撫でるのでした。


 それから、どれくらい経ったのでしょう。

 仲良く草原と大空を往く白馬と白鳥を見て、魔王は驚きます。


「まだ絆が壊れないなんて。これならどうだ!」


 禍々しい魔王の杖が、白馬と白鳥を襲います。


 身体を貫かれた白馬は大地に倒れ、血の池を作ります。

 翼をもがれた白鳥も大空から落ちて、血の雨に濡れるのでした。


「お前たちは死によって、永遠の別れを迎えるのだ」


 魔王は人間の絆を恐れているのです。

 弱くても、いや、弱いからこそ紡がれる、人々の絆を。

 そして、人と人の絆こそが、最も強いのだと。


 死の間際、二人の呪いは解けていました。

 でも、震える手は血に塗れ、二人は冷たくなっていきます。

 目の前にいる大事な人の姿も、もう見えません。


 それでも、決して壊れることはない『絆』。

『愛』に結ばれた二人は、最後まで互いの手を握ります。

 ようやく叶った、人と人の姿での逢瀬を、愛おしく思いながら。


「ぼくは、あなたと過ごせて幸せでした」

「わたしは、あなたと過ごせて幸せでした」


 二人に明けることのない眠りが訪れます。

 悲劇、別れ、喪失……あなたは、それを何と呼ぶでしょうか?


 男と女の魂は天へ上ります。くるくると二人で舞うように。

 愛し合っていた二人は、互いの魂をひとかけら、地上に向かって落とします。


 ひとかけらだけの、愛し合った男女の魂。

 その魂の欠片は混ざり合い、一つの形を作ります。

 白い羽根、白い足、白い胴体、そして、優しい目。


 生まれたのは、一頭のペガサスでした。


 真っ白なペガサスは大地と大空を巡り、魔王の闇を振り払います。

 彼は、どこまでも進む、絆、いや、愛の結晶です。

 それは、山と大地と雲を越え、果てしなく続く、未来を紡いでいくのでした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 神話が生まれる瞬間を見ているような気分で鑑賞させていただきました。自らを脅かすものを排除しようとして逆に敵を作ってしまうなんて皮肉な結果ですね。
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