♯5 日下部、死す
「復讐だ」
そう呟いた男の横顔を稲光が照らす。
夢の記憶だと “奴等” の襲撃まで、まだ少し時間がある。
急ごしらえだが、少しでも小犬丸家、そして俺自身の生存率を上げるための準備をする必要があった。
少なくとも、今の俺はくたびれたスエットと、スマートフォンしか装備していないほぼ丸腰状態。
しかし、夢の中で見た “奴等” は少なくとも刃物を持っていた。
この状態で、策もないまま正面からぶつかるのは、どう考えても無謀と言うもの。
(せめて何か武器になる物を探さないと・・)
しかし、小犬丸家は自然の多い閑静な住宅地に立っており、周辺にお店などは一切見当たらない。
俺は嵐の中途方に暮れていると、少し離れたところにまだ新しそうなマンションの灯りを見つける。
そして俺はほくそ笑む。
「・・渡に舟とはこのことよ」
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『お母さん・・停電かな・・?』
暗闇の中、娘が怯えた声で呟く。
つい先刻、激しい落雷に見舞われ、この地域一帯は停電していた。
『そうね・・でもその内復旧するでしょうから、大丈夫よ、由奈。』
私は少し困惑した声で応じた。
『姉ちゃん、ビビりすぎ』
そう言い捨てた息子は、素知らぬ顔で携帯ゲーム機を操作している。
『う、うるさいわね・・』
________コン コン コン
突然、ベランダの窓を小突く様な音が聞こえた。
『うん?・・何かしら・・?』
________コン コン コン
再度、同じリズムで窓が鳴る。
その音は、カーテンを閉め切ったベランダの窓から聞こえているようだった。
________コン コン コン
『お、お母さん・・』
娘は怯えた声でそう言うと、手探りで私を探し当て、腕を掴んでくる。
その手は震えていた。
『・・大丈夫よ、今日は台風もきてるし、風で何かが飛んできただけよ、きっと』
私は娘の手を握り返し、冗談っぽく笑う。
しかし、言葉とは裏腹に私もまた、得体の知れない恐怖を感じていた。
『・・由奈と信はここにいて。』
そう言い、娘の手を離した私は、ゆっくりと閉め切ったカーテンへ近づいていく。
そして、恐る恐るカーテンを開く。
するとそこには、
________何もいなかった。
安堵した私は胸を撫で下ろす。
「・・ふぅ・・やっぱり勘違いだったみたいね。」
窓の外の嵐を眺めながらそう呟く。
『お・・かぁ・・さん・・ぃや・・いやぁ・・』
すると、背後で娘の震える声が聞こえてきた。
『由奈!?』
私は娘の声がする方へと駆け寄る。
暗闇の中、由奈と信が身を屈め、震えているのがわかった。
『二人とも・・どうしたの?』
母親が尋ねると、信がある場所を指さす。
『ぁ・・あれ・・あそこ・・』
私は、その指先へとゆっくり視線を移す。
________リビングの角に何かがいた。
人のようなシルエット。
黒い体の上に浮かぶ、仄かに白い顔の様なもの。
私はとっさに子供達を自身の後ろに隠し、“それ” に対し、震えた声で叫ぶ。
『あ、あなたっ・・誰なの!? 不法侵入は立派な犯罪よ!!』
黒いシルエットからは何の応答もない。
『・・お金や物は好きに持っていってくれて構わないわ。 その代わり、私たちには一切危害を加えないでちょうだい!! そうすれば絶対に警察には言わない・・約束する』
黒いシルエットは微動だにしない。
『あ、あなた・・良い加減に・・』
そう言いかけた時、黒いシルエットはゆっくりと、その “面” を取った。
そして、私は “それ” と目が合ってしまう。
「しな____さ____っ____」
声が出せない。
それどころか体は硬直し、指先一つ動かすこともできなかった。
それはまるで、金縛りのように。
部屋の隅に佇む “それ“ は、腰から何かを抜きとり、ゆっくりと私達の方へ近づいてくる。
私は懸命に自身の制御を取り戻そうとするが、目玉を動かすのがやっとだった。
傍らでは、信と由奈が私にしがみつき泣いている。
(やめてっ・・信と由奈だけは・・それだけはっ・・あなた、助けて・・)
________その時だった。
「うらぁああああっ!!」
ひっくり返った情けない叫び声と共に、ベランダのカーテンから飛び出してきた上下スエットの男。
目の前の “それ” は想定外のことに動揺したのだろうか。
一瞬、その体を硬直させる。
対照的に、スエット男は一片の迷いもなく、一直線に “それ” へ向かって突っ込んでいく。
まるで、最初からこうなることが分かっていたかの様に。
スエット男は勢いそのままに、抱えている赤い筒から伸びたホースを構える。
次の瞬間、“それ” に向かって白い煙幕が放たれた。
その勢いは凄まじく、リビングの中を一瞬にして白い靄で満たしてしまう。
(何なの!? 何してるのこの人達!? )
『あ・・あれ? 動ける・・ゲホッ・・ゲホッ』
いつの間にか体の自由が戻っていることに気づくと、私は咄嗟に由奈と信に覆い被さり、周囲の様子を伺った。
しかし、辺りはまだ濃い白煙が漂い、静寂に包まれていた。
(信! 由奈! 大丈夫? 怪我はない?)
私が囁くと、悲鳴を堪える二人は無言で何度も首を縦に振る。
(良かった・・ でも、一体何がどうなってるのよ・・)
しばらくすると、段々と白い靄が晴れていく。
その中で浮かび上がる二つのシルエット。
一つは床で苦しそうに、のたうち回る能面の姿。
そして、もう一つは消火器を肩に抱えた全身ずぶ濡れのスエット男の姿。
(な、なんなの・・この人達!?)
「・・よう、ずっとあんたに会いたかったぜぇ・・夢に見るほどになぁ!!」
スエット男は今にも泣き出しそうな顔で、嬉しそうにそう言った。
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「・・よう、あんたに会いたかったぜ・・夢に見るほどになぁ!!」
俺はそう言い捨てると、苦しみ悶え、うずくまる能面の後頭部めがけて、思い切り消化器を振り抜いた。
鈍い金属音とともに、顔面から豪快に倒れる能面。
しばらくすると、その能面は不規則に体を痙攣させ始めた。
すると部屋の照明が復旧し、この殺伐とした景色が白日の下にさらされる。
「・・や、やりすぎた・・かな?」
倒れた能面の手元には、鋭く光るサバイバルナイフが落ちていた。
(・・でも、やらなきゃ確実にやられてた)
『いやぁぁああああ!!』
悲鳴に振り返ると、ユナちゃんが俺を見て震えていた。
「・・あ、いや、 大丈夫ですよ!? 俺は悪いヤツでは・・」
すると、パパさんがリビングへ駆け込んでくる。
「今の悲鳴は!? な、何があった!?」
そう言うと、パパさんは一目散に家族のもとへ走っていく。
パパさんは俺に背を向け、全身白い粉だらけで目を腫らす家族に対し、
『無事なのか?』『一体何があった!?』『犯人は!?』
などと、怒涛の質問攻め。
『あ、あなた・・』
ママさんが両の手のひらを前に出し、パパさんを静止しようとするが、パパさんの興奮はおさまらない。
信君が無言で俺の方を指さす。
パパさんがおもむろにその先へ振り返ると、俺と一度目が合う。
が、すぐに家族の方へと向き直った。
「えっ」『えっ』
パパさんは再度俺の方へ向き直ると、慌てた口調で尋ねる。
『き、君は誰だ!?』
「あ、安心してください・・俺は怪しいものではありません。」
パパさんは困惑した顔で辺りを見回す。
目の前には、消火器を担いだズブ濡れのスエット男。
そして、その傍らには、すでに意識を失い小刻みに痙攣する全身黒ずくめの不審者。
『由美子・・警察を呼びなさい。』
パパさんが毅然とした態度で言い放つ。
至極当然の反応だ。
『あ、あなた、待って! この人は襲われそうになったところを助けてくれたのよ!』
ママさんが俺を庇ってくれているようだ。
『君は何を・・』
パパさんを遮り、俺は真顔で言った。
「ええ、是非呼んでください!」
『なっ・・君は一体何が目的なんだ? ・・なんでも好きなものを持って行ってくれて構わない。 しかし、家族には手を出さないでくれ・・頼む・・』
少し抜けているところもある様だが、そこには夢の中そのまんまの優しいお父さんがいた。
小犬丸家の人間はみんな不安そうに俺を見つめている。
しかし、俺はこの家族を知っている。
何故かそれがとても可笑しく感じられて、俺がニヤニヤと家族を見つめているとパパさんが言う。
『由美子・・やっぱり警察を呼びなさい。』
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「はぁっ・・はぁっ・・」
俺がママさんから借りた布テープを使って、床に転がる能面の手足をぐるぐる巻きにしていると、
『・・まだ電話の回線が復旧していないみたい・・どうしましょう、あなた』
固定電話の受話器を耳に当てがったまま、ママさんがそう呟く。
『お父さん、こっちもダメみたい・・』
由奈ちゃんはスマートフォンのディスプレイを見つめていた。
今しがた、この部屋に溢れていた、恐怖と非日常は徐々に薄れつつあった。
「皆さん! そんなに悠長にしている暇はないんですよ!!」
「今もまだここは危険なんです! 一刻も早くこの家から逃げてください!!」
『君の言う危険とは一体何のことだ? それに、あそこに転がっている黒ずくめの男と君は誰で、一体何が目的なんだ!?』
顎髭をさすりながらリビング内を右往左往していたパパさんが、俺の顔を見て問いかける。
俺は、部屋の隅へパパさんとママさんを連れていき、そっと告げた。
「・・この能面達はあなた方、家族を殺そうとしています。」
『ころっ!?』
俺は声を荒げそうになる二人を慌てて静止する。
『殺すって・・なぜ私達が?』
すると、潜めた声でママさんがそう言った。
「俺にも “奴等” の正体や目的は分からないんです・・ごめんなさい。」
「・・でも、“奴等” は今もまだこの近くに隠れているはずです。」
「家族を守りたいのであれば、今だけは俺の言うことを信じてください!! ・・お願いします。」
『し、しかし・・』
パパさんがそう言いかけた時、子供達の悲鳴が上がる。
咄嗟に声の方へ視線を向けると、ベランダの窓から二人の能面がその姿を表していた。
一人はサバイバルナイフを携えている。
小犬丸家の人々は皆、パパさんのもとへ駆け寄り、そして怯えていた。
「・・パパさん。 これで信じてくれますか?」
パパさんは困惑した顔で、俺と能面達を交互に見る。
そして、すぐに家族に向かってこう告げた。
『・・早く、この家から逃げよう』
「よし、そうと決まれば善は急げ。 俺が食い止めますから早く逃げて!!」
『わ、わかった』
小犬丸家は玄関へと走り出した。
そして俺は、玄関へと続く廊下の前に立ちはだかり、能面達の行手を阻む。
去り際、パパさんが俺の背中に尋ねる。
『君は一体、何者なんだ・・?』
俺は言った。
「偶然通りかかった、要らぬ世話焼きですよ」
『・・そうか、すまない』
しばらく俺と能面が睨み合っていると、車のエンジン音、そしてけたたましく急発進するタイヤの摩擦音が聞こえた。
(・・よし、これで小犬丸家を逃がせた!)
俺は部屋を見渡す。
(リビングの角で、のびている能面が一人。
目の前にはサバイバルナイフを構えるデカめの能面が一人。
そして、その後ろで直立不動の華奢な能面が一人。
・・おそらくこれが向こうさんの全戦力)
(あのガリガリ能面は武器も持ってなさそうだし、タイマンでも余裕勝ちだろう。 警戒すべきはこのナイフ能面・・!!)
「・・夢で以来ですね、能面先輩がた。」
能面達からは応答がない。
このショッカーの亜種達には喋ってはいけない規則でもあるのだろうか。
「手玉に取られて、計画通りにいかないってどんな気持ちですか?」
自分でもビックリするほど、犯罪集団を前に堂々と啖呵を切る俺。
恐怖の臨界点を超え、ハイになっているのか、はたまたこの危機管理能力の無さが、俺が社会不適合たる所以なのか。
俺は今、根拠のない全能感に満ち溢れていた。
「 いきなりですが、今度は貴方達に “理不尽” ってやつを経験していただこうと思います」
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サバイバルナイフを持つ能面が動きだす。
俺はすかさず、最大出力で消火剤を能面の足元へ射出した。
拡散する白い煙幕はお互いの視界を奪う。
しかし、俺にはアドバンテージがあった。
それは、夢の中で一度この家に来ているという事。
充満する煙幕に紛れ這いつくばる俺は、夢の記憶を頼りにパパさんのゴルフバッグを探し当てる。
(パパさん、借ります・・!)
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『・・降参だっ・・警察にも誰にも言わない!!・・だから、見逃してくれ・・』
まだおさまらない煙幕の中、日下部の白旗宣言が響き渡る。
『お願いしますっ・・ほんの出来心だったんです・・俺は、俺はまだ死にたくない!!』
つい今しがた宣戦布告をしたその舌の根も乾かぬ内に、命乞いをする情けない声。
それはリビングを出た先、廊下の奥から聞こえてくる。
ナイフの能面は目的遂行の “障害” を排除するため、何のためらいもなくその悲痛な声の発生源へと歩を進めた。
『お願いしますっ・・ほんの出来心だったんです・・俺は、俺はまだ死にたくない!! ・・どうか!!』
その声はトイレの中から聞こえていた。
ナイフの能面はトイレの扉を開く。
するとそこにあったのは、
『・・降参だっ・・警察にも誰にも言わない!!・・だから、見逃してくれ・・』
________録音を延々とループ再生するスマートフォンだった。
その瞬間、サンドバッグを叩く様な低く鈍い音と共に倒れるナイフの能面。
その背後にはアイアンを構え、肩で息をする日下部の姿があった。
「・・まじかよ・・こんなの今どき小学生でも引っかからねーぞ・・」
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リビングに戻ると、最後の能面がまだそのままの姿で立っていた。
「一人になっちゃいましたね・・早速ですが、ここで二択問題です」
「仲間がやられ一人になってしまったコスプレ能面クソ野郎は、これから一体どんな行動に出るでしょ〜か!? 次の選択肢から選んでね!」
「選択肢その1、 最後まで諦めず、勇猛果敢に俺に戦いを挑んだ結果、彼らと同じ目にあう!! ヒュ〜カックイィ!!」
「・・そして豚箱行き」
「選択肢その2、 潔く観念して、大人しく俺に手足を縛られ警察を待つ!! ん〜それはそれで、クレバァ〜!!」
「・・でも、豚箱行き」
華奢な能面は、まるでそこに根が生えたかのように動かず、ただ俺を見ていた。
「どっちにしてもあんたらは終わりだ。観念しろ、サイコ野・・」
そう言いかけた瞬間、俺は急に全身を強張らせるほどの強い寒気を感じた。
「____ハッ____ハッ____ッ____ンッ____」
呼吸ができない。
得体の知れない恐怖が、この胸いっぱいに溢れだす。
なぜか身体中からは冷や汗が吹き出し、涙が止まらない。
一刻でもこの場を逃げ出したいのに、なぜか体を動かすことも、声を出すことも叶わない。
その内、俺の頭の中にはいくら拭い去っても消えない、それどころか目を背けようとする度、ある一つの思いが色鮮やかに芽生える。
________それは、死への願望
俺は虚ろな目で、追い詰めたはずの華奢な能面を見た。
すると、“それ” は丁寧に、そしてゆっくりとした所作で自身の面を外し、俺にその素顔を晒す。
(・・なんだよ “それ” )
________そこで俺の意識は途切れてしまう。
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いつか、見たことのある天井。
(・・俺・・まだ生きている・・のか?)
意識を取り戻した俺は、まだ霧のかかる意識の中、痺れる手足を四方八方へ懸命に動かす。
しかし、どうやら手足が縄の様なものできつく縛られており、俺はベッドの上で体を大の字に広げたまま、一切身動きを取ることができないでいた。
(何だこれ・・俺、今どうなって・・)
「・・モガッ・・フガッ・・」
さらに、俺の口には猿ぐつわがはめてあるようで、喋ることすら叶わない。
少しづつ暗闇に目が慣れてくると、近くに誰かがいることに気づく。
そして、不幸なことに俺はそれが誰なのか理解してしまう。
「ンンンンンンンンッ!! ヴンンンンンンンンッ!!」
今にもこの皮膚を突き破り、飛び出しそうなほど心臓が強く脈を打つ。
そう、そこには “奴等” がいた。
立ったままお辞儀をするような姿勢で、その “面“ を近づけ、俺の顔を覗き込んでいる。
「フゥーッ・・フゥーッ・・フゥーッ・・」
俺はこの朦朧とした意識の中でも、一つだけはっきりとわかる事があった。
夢の中、地獄の狂宴。
“奴等” がむさぼった “あの子” が、その身に受けた残虐非道。
今度は “俺の番” だということを。
「ンンンンンンンンッ!! ヴンンンンンンンンッ!! ヴンンッ!?」
________そして、命の灯火が消えようとしている今、俺はようやく気づいた。
俺があれだけ憎み、妬み、恥じた “あの俺の人生” は、本当はどうしようもなく愛おしくて、どこかの誰かに羨望され、胸を張って誇るべきものだったという事に。
今までの日々、俺という人間を構成する全てが煌めいて、そして手を振っていた。
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しかし、もう全ては遅すぎた。
俺はもうすぐ、ただの肉塊に変わってしまう。
仮にも、こうなる覚悟は済ませたはずだった。
しかし、いざ目の前に “死” という名の、純粋な恐怖そのものが横たわると、俺は痛々しいほど無様に、そして滑稽なほど必死に、生にしがみつこうとしていた。
(死にだぐないっ 死にだぐないっ 死にだぐないっ 俺はまだ、死にたくない____)
そして “奴等” はおもむろに夢の中で見た巨大なノコギリを取り出す。
俺はもう、限界だった
「ンンンンンンンンッ!! ヴンンンンンンンンッ!!」
木製のベッドがバウンドするほど、俺は渾身の力で叫び、暴れ狂う。
しかし、その声と音は窓の外の嵐にかき消され、決して誰かに届くことはない。
一人の能面が暴れる俺の体を押さえつける。
その力は、骨が軋むほど強く、否応なしに俺はただ静止している事しかできなかった。
そして残った二人の能面が、ゆっくりと俺の首もとにノコギリの歯を当てがう。
俺はもう、声も涙も枯れ果ててしまい、抗う力も残されていなかった。
それを能面も悟ったのだろう。
体を押さえていた能面が俺の猿ぐつわを外し、問いかける。
『・・おまえ誰だ? なぜここにいる?』
「・・ぁ・・う・・ぅあ・・」
俺の心と体はすでに限界を超えていた。
終わる。
死の間際には走馬灯が見えるなどと言うが、実際のところ、そんな綺麗なものなど存在しなかった。
その代わりに、俺が感じていたものはただ一つ。
『中身が空っぽの絶望』
それだけだった。
知らなかったのだ。
“人生” とは、こんなにも呆気なく、造作もなく、そして理不尽に終わってしまうものだという事を。
ふと、天井を眺める。
夢の中で俺が “あの子” を見殺しにした場所。
因果応報とはまさにこのことを言うのだろう。
別に今回の件に限ったことではない。
俺が “俺自身“ を徹底的に蔑ろにしてきた、これまでの全て。
そのツケがようやく回ってきたのだろう。
しかし、俺はやっとパパさんや “あの子” の最後の想いを理解することができたような気がする。
だから、俺は最後の最後に、少しだけ自分を許せる様な気がした。
(・・どうか、みんなが、無事でありますように)
まぶたをゆっくり閉じると、まだ少しだけ残っていた涙がこぼれ落ちた。
俺に質問をした能面はしばらく俺を見つめていたが、俺が役に立たないことを察すると、ノコギリを持つ能面に合図を送る。
“奴等” が、その手に持つノコギリに力を加え、喉元にこの身を貫くような鋭い痛みを感じたその瞬間、
バァンッ!!
部屋のドアが蹴破られ、複数人が一気になだれ込む様に押し入ってくる。
『動くな!! 全員手を上げてその場に伏せろ!!』
以前に聞いたことのあるドスの効いた声。
そして、日本人離れした体躯を持つ黒いシルエット。
俺は目を細める。
「・・・・タドゴリィ!?」
そこには警察署で、俺と大捕物を繰り広げた警察官、田所が銃を構える姿があった。
『誰がタドゴリだ、コラァ!!』
本田翼似の女子が書いています。
もし少しでも引っかかりを感じていただけたら、評価、ブクマ等々よろしくお願いします。
感想にはなるだけ、返信をしたいと思っています。
何もあげられませんが、少しでも、超エキサイティンッ!!
そんな物語を描ける様、精進して参ります。
本田翼似の女子が書いています。