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超感覚的知覚過敏性症候群  作者: ぽんこつ
日下部元の事例
5/8

♯4 復讐

セブンイレブンの焼き鳥うますぎワロタ

________どうして、逃げたの?


違う!逃げたんじゃない!!

どうしようも・・どうしようもなかったんだ!!



________どうして、見殺しにしたの?


違う!違う!!俺はっ・・そんなつもりは・・

まさか・・あんなことになるなんて・・



________おじさんなら、救うことができたのに


い、一体何を!?

俺じゃなくても結果は同じだった!!

仕方なかった・・・・仕方なかったんだよ!!



________私が壊されている間、おじさん、どんな目で私のこと見ていたか知ってる?


はぁ!?

な、何を!?

俺はただ必死で奴等を止めようと・・それだけっ・・それだけでっ・・!!



________私は知ってるよ


や、やめろ!!聞きたくない!!

俺はっ・・俺は!そんな人間じゃない!!







________おじさん、嬉しそうな目で私を見てたんだよ







「やめろぉおおおぉおおおおぉおおおおおおおぉお!!」


自身の絶叫で飛び起きた俺は、勢い余ってベッドから転げ落ちてしまう。


「ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・な、なに・・?」


壁にぶつかりひっくり返った体制のまま、しばらく俺は呆然としていた。

思い出したように周りをキョロキョロと見渡す。

そこは間違いなく俺の部屋だった。


「ハァッ・・ハァッ・・ゆ、夢っ・・!?」


動悸が止まらない。

俺はしばらく胸の痛みに苦しみもがく。


そして、なぜか涙が止まらなかった。



___________________________________



気がつくと部屋はオレンジ色一色に照らされていた。


夢を見た。


とある家族の夢。


何ということはない、ごくごくありふれた家族の風景。


それがいとも容易く、何の脈絡もなく、理不尽に、そして無惨に壊され、奪われる。


________卑怯者


赤く腫れた俺の目には、その光景がまだ鮮明に焼きついていた。


「・・卑怯者、か・・」


夢の内容をここまではっきりと覚えているのは、生まれて初めてだろう。

まるで、一本のショートフィルムを観たような

それでいて、客席よりもっと間近で、まるで物語の登場人物の一人になったかのような場所で観ていた気がする。


未だにフローリングで横になったまま動くことができないでいた俺は、少しだけ落ち着きを取り戻していた。


「・・やっぱ俺、疲れてるんだろうな・・」


夕暮れの中、ひぐらしの鳴き声が聞こえる。

さっきの夢の事もあり、急に心細くなった俺は賑やかしにとテレビをつけた。


(・・この時間、面白い番組やってないんだよな)


チャンネルをザッピングしていると、ゴールデンタイム前の報道系の番組が放送されていた。

この歳で恥ずかしながら、ニュースやこういった類の番組には全く興味がない。

いつも通り他のチャンネルに切り替えようとした。

その時、


『ここからは、近年何かと世間を騒がせている “カルト” の問題について、専門家のコイヌマル弁護士に解説していただきます。』


そう司会者に紹介され、フォーカスされた男。



______俺は凍りついてしまった。



そこに映る男を、俺は知っていた。

千鳥格子のスーツを見に纏い、丸メガネをかけたオールバックの優しい目をした男。

夢の中で見た時と寸分違わぬ姿で “あの家” の主がそこには映っていた。


「な・・なんでパパさんが・・あれはただの夢っ・・ただの夢・・のはず・・ありえない・・」


男の名前がテロップで表示される。


『小犬丸 弁護士』


(・・コイヌ・・マル・・)


「・・小犬丸!?」


夢の中、ユナちゃんの制服の胸元の名札。

そこには同じ姓が映っていた。


俺は震える手でリモコンを握ったまま、テレビの前で立ち尽くしていた。

番組内では司会者がパパさんに様々な質問をしている様に見えたが、頭には何も入ってこない。

その声、その所作、夢の中のパパさんが重なる。



________俺は、まだ夢を見ているのか?



夢の中の登場人物が今、そのままの姿で現実世界に現れた。

俺は何かの特殊能力でも開眼したのか?


「・・ふふっ・・アホくさ」


有り得ない。

大槻教授も大抵のオカルトは全てプラズマで説明できるって言ってた気がする。


小犬丸弁護士。

テレビに出演する様な人だ。

きっと俺が忘れているだけで、過去にテレビか何かで見たことがあるのだろう。


そして何の因果か、俺の夢に現れた。

ただ、それだけの話。


番組では社会派ニュースが一段落し、ゲストに迎えている小犬丸弁護士のプライベートな話題を取り扱っていた。


「はぁ〜・・」


大きくため息を吐く。


「・・飯でも買いに行くか」


頭を掻きながら俺は部屋を出ようとした。



______『ユナさん、すごくお綺麗ですね』



司会者の声に振り返った俺は19インチのテレビ画面を食い入るように見つめると、そこにはある家族の写真が映っていた。


パパさん、ママさん、そしてユナちゃんとシン君。

側には赤い首輪をした柴犬が一匹。


全て、俺の夢の中の登場人物だった。



___________________________________



気づくと俺はドアを蹴り開け駆け出していた。


俺はおかしくなってしまったのか?


まぁ、それでもいいか。

今更ちょっと狂ったところで、俺の人生はびくともしない。


説明できる根拠など一つもない。

しかし、俺にはどうしても偶然だとは思えなかった。


アパートの階段を2段飛ばし、3段飛ばしで駆け降りていく。

途中片方のサンダルが脱げバランスを崩した俺は、2階から1階への階段を転げ落ちてしまう。

切った額からは血が流れ出る。


「・・痛ってぇ・・」


すぐさま立ち上がった俺は、マイバイクに乗り込む。

錆だらけの自転車はギィギィと悲鳴をあげた。


空では大きな暗雲がまるで夕日を山の向こうへ押しやるように、この小さな街を包み込もうとしていた。

少し強くなってきた風が俺の背中を押す。


「・・やっぱり俺、イカれてるわ」



___________________________________



「はぁっ・・!!ハァッ・・!!はぁっ・・」


「・・・・ふぅ」


全身汗だくの俺は、警察署の前にいた。

腹を決めたつもりだったが、いざこの国家治安維持組織の巨大な巣窟を目の前にすると決心が揺らぎそうだった。


「ビビんな、俺は納税者だ・・!!」


深呼吸した俺は自転車を止め、正面玄関を通り抜ける。


受付では若い女性の職員が対応した。


(・・この人も警察官なのか?)


「・・あ、あの〜・・すみません・・」


『はい、どういったご用件でしょうか?』


汗だくで上下スエットの男を前に、女性警官は少し顔をくぐもらせる。


「・・ええと、そのですね・・」


『・・はい?もう一度よろしいですか?』


(しっかりしろ、日下部元くさかべはじめ、34歳! ガキの使いじゃねーぞ)


「あの、今夜起こる犯罪について情報提供のために訪問しました。」

「このままよろしかったでしょうか?」


女性警官は少し驚いたような顔をした。


『犯罪・・ですか?わかりました。こちらで伺います。どういった内容でしょうか』


さっきまでの表情からは考えられないほど、真剣な眼差しで、俺が発する次の言葉を待つ女性警官。


「実は、殺人が起こるかもしれないんです。」


『さっ!?・・・失礼しました。』


女性警官は咳払いを一つ、少し周りを伺うように視線を配ると、再度俺の目を見て話す。


『詳細を教えていただけますか?』


「はい・・実行されるのはおそらく今日の夜、9時頃。」

「“コイヌマル” と言う性の一家が被害者で、父、母、娘と息子の4人家族です。」


「父親は弁護士で、 娘はユナと言う名前で○○女子高等学校の学生です。 息子は中学生くらいでシンと言う名前でした。」

「・・あ、あと、ラッキーという柴犬も飼っています。」


『・・・・』

『その家族が狙われている、と言うことですか?』


「そうなんです!夜中に能面を被った全身真っ黒な奴等が襲撃して来るんです!!」

「その家族が住む家の大まかな場所もわかります!」

「それにっ・・」


『わかりました。』


女性警官が遮る。


「・・え?」


『このまま、少々お待ちいただけますか?』


「は、はい」


女性警官が奥へ入っていく。

その先で、上司と見られるガタイの良い男性警官と何かを話していた。

しばらくすると、そのゴリマッソゥ警官は怪訝な顔をして、女性警官と一緒に俺を値踏みするような目で見ていた。


完全に嫌な予感しかしない。


ゴリが肩で風を切るように、ゆっくりと俺に近づいてくる。


『あ〜・・・部下から報告をもらいました、田所です。』

『これから殺人事件が起きるとのことですが・・』


「え、えぇ・・はい」


『あなたはどうやって、その情報を入手したんですか?』


「それはっ・・夢の・・」


『・・ユメノ?』


「い、いえなんでも・・」


『・・一番最初に確認するべきでしたが、何か身分を証明できるものをご提示いただけますか?』


いよいよ追い詰められる

俺は完全に疑われていた。


「は、はい・・わかりました」


俺はポケットをまさぐるフリをする。


「ちょ、ちょっと財布を自転車のカゴに置いてきたみたいです。取りに行ってきますね!」


『そうですか・・では、私も同行しましょう』


(おいおいおいおいっ!!来るんじゃねーよ、タドゴリィ!!)



___________________________________



自転車のカゴを漁るフリをする。


「あぁ〜・・すみません、今日、身分証明書持ってきてないみたいです〜」


『・・そうですか』


「今回の相談はなかったことにして頂いて大丈夫なので、自分はこれで失礼しますね・・」


そう言って笑顔でその場を去ろうとしたその時、日本人離れした体躯を持つ田所が俺の前に立ちはだかる。


「あのぉ〜・・どいて頂けますか?」


『それは致しかねます。』

『お兄さん、あなたから頂いた情報にはおかしな点が多いんですよ。』

『全身スエットの男が、急に事件の報告をしにきたと言う。』

『その男曰く、その事件は未来に起こり、日時や場所、被害に遭う家族の構成から飼い犬のことまで把握していると・・』

『挙げ句の果てに、その男は身分証を持たず、どこの誰だか分からない!』

『・・どうです?不思議じゃありませんか?』


「仰る通りで・・」


『では、今から事情聴取を・・』


田所が俺の腰に優しく手を当て、もう一方の手で警察署内へを俺を導こうとする。

すると、最初に対応した女性警官の声が聞こえてきた。


『タドゴr・・・・田所さ〜ん、さっきの件ですが〜・・』


女性警官は手を大きく振り田所を呼んでいる。

俺はその隙を見逃さなかった。


『おいぃ!!待てゴラァアアアアァアアアアアァア!!』


背中に田所の怒号をヒリヒリと感じる。


「今日僕予定あるんでぇぇぇええええええ!!」


俺は全力疾走で駆け抜けた。

交通量の多い大通りを、何度も轢かれそうになりながら必死に横断する。


「はぁっ・・はぁっ・・はぁっ・・」


中央分離帯までたどり着き、俺は振り返る。

田所は歩道から俺を睨みつけていたが、追ってくる様子はなかった。

どうやら諦めたようだ。


もちろん、俺にやましい事など一切ない。

こっちはこの先発生する事件の情報提供をしているだけ。

むしろ感謝されてもおかしくないはずだ。


しかし、この “未来” と言うのがとても厄介で。

誰も “未来” の事など分からない。

だから田所にとって、俺は頭のイカれた異常者か、犯行予告をしている様に見えるのだろう。


任意とはいえ、もし田所の事情聴取を受けていたら、とてつもなく面倒臭いことになるのは火を見るより明らか。

完全に俺の悪手だが、いずれにしても、もう警察を頼ることはできないだろう。



___________________________________



「はぁ・・はぁ・・くっそぉ・・自転車、警察に忘れたっ・・」


俺は徒歩で “あの家” を探していた。


「・・うん・・たぶん、この辺だ」


夢の中、“あの子” の部屋の窓から見た景色。

その中にまで俺はたどり着いていた。

しかし、太陽はすでに8割ほど沈んでいた。

タイムリミットが刻々と迫る。


(まずい・・もうすぐ夜だ)

(“奴等” が訪問するまでに探し当てないと・・)


「どこだったかな〜・・くっそ、さっきまでは鮮明に覚えてたのにな」


焦りもあってか、夢の風景がところどころぼんやりとしてきた。

途中、交差点に立っている警察官が俺のことを下から上まで舐めるように見てくる。


「お、お勤めご苦労様です」

「ハハッ・・さ、最近運動不足でランニングでも始めようかなぁ・・なんてぇ」


警察官は、俺が取るに足らない存在だと気づいたのだろう。

咳払いをすると『あっちへ行け』と言わんばかりに俺から顔を背けた。


(ふぅ・・田所の件もあるし、下手したら職質で捕まるからな・・今そんな時間はない)


それから、俺は薄れいく夢の景色を必死に思い出しながら進む。

しかし、太陽はもうほとんど沈み、夜の闇が辺りをつつもうとしていた。


「ちくしょうっ!! あの家はどこなんだよ!?」


すると、堰を切ったように滝のような雨が降りはじめた。


額の血が垂れてくる。

ゴムの緩いスエットはズリ下がりそうになるし、裸足の左足がものすごく痛い。


「・・やっぱり、俺には無理なんだよ」


「大体、今までだって何かをやり遂げたことなんか一つもないし・・」


「そもそも、“夢の中の女の子がピンチだから助けに行かなきゃ〜“ って?」


俺は歩みを止めた。

通りには仕事帰りのリーマン、手を繋ぎ幸せそうなカップルや家族連れが家路を急ぐ姿が見える。


「俺、来月34だぜ・・バカじゃねーの」


踵を返し、家路につく。

俺は一体、何を期待していたんだろう。


戻ろう。

俺の人生に。

誰も見ていない、俺の人生に。



___________________________________



「・・・・・」


なす術もなく、横殴りの雨にその身を晒す。

その帰り道、気がつくと俺は踏切の前に立っていた。


カンッカンッカンッカンッ


列車の光が近づいてくる。


俺は目を細め、ボーッとその光を見つめていた。

すると、テレビをザッピングするかのように “あの夢” の景色が次々と浮かんでは消える。


「・・あれ・・ここ・・ここは・・」


列車がもうすぐそこまで迫っている。

その時、俺は誰かに背中を強く押された気がして、眼前に迫る列車の前に身を投げ出した。


列車から鳴る警笛の音で我に帰った俺は、紙一重で列車をかわす。


「ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・っぶねぇ!!」

「ここ・・ここって!? 夢の中の踏切り!?」

「そうだよ!間違いない!!でも何で俺っ・・何で今まで忘れてたんだ!?」


不安定でバラバラだった夢の欠片が一つずつ結びついていく。

そして、鮮明にその色を取り戻した。


(・・まだだ、まだ終わっちゃいない!!)


ここは夢の終着点。

“あの家族” を見捨てて、無様に逃げ回った景色の中を遡るように、俺は一心不乱に駆け抜けた。


________そして、ある一軒家の前でその足を止める。


ワンッ!!ワンッ!!


ラッキーが俺を見て吠えている。


「はぁっ・・はぁっ・・はぁっ・・ゴクッ・・マジかよ・・」


それは間違いなく、夢で見た “あの家” だった。


まだ、窓からは明かりが見える。


『シン〜!!あんた、またあたしのリンス使ったでしょ!!』


そして家の中からは、過去に一度聞いたはずの兄弟喧嘩が聞こえてくる。

俺はついにたどり着いたのだ。


彼らはまだ、生きている。


勝算どころか計画すらない。

しかし、ここで逃げたら俺は本当に帰る場所を失ってしまう。

そんな気がした。


俺は深く呼吸し、震える手で思い切り両頬を叩いた。

そして呟く。


復讐リベンジだ」


本田翼似の女子が書いています。


もし少しでも引っかかりを感じていただけたら、評価、ブクマ等々よろしくお願いします。


感想にはなるだけ、返信をしたいと思っています。


何もあげられませんが、少しでも、超エキサイティンッ!!


そんな物語を描ける様、精進して参ります。



本田翼似の女子が書いています。


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