♯1 週末
処女作です(頬紅潮)
修正も結構入れると思います。
クソひり出す時間のながら読みで構いません。
暇な時にでも読んでもらえると嬉しいです。
カツンッ・・カツンッ・・
________
カツンッ・・カツンッ・・
________あれ、今日って何曜日だっけ
カツンッ・・カツンッ・・
________金曜日・・か
カツンッ・・カツンッ・・
________明日は、休み
カツンッ・・カツンッ・・
________誰にも会わなくて良いし、何も考えなくて良い
キィィ・・バタンッ
________でも、それを超えたら?
______また、あの日々が始まる
____冗談だろ
__もう、限界っす
俺は地方の零細企業に勤める、日下部 元34歳。
苦しみ抜いた学生時代。
社会人になれば、何だかんだ全てが変わる。
そう思っていた。
が、結局学校は社会の縮図であり、学校生活すらまともに送れない俺が、この社会で人並みの幸せを掴み取ることなど到底叶うはずもなかったのだ。
全てに疲れ果ててしまった。
これまで何度も挫けてきた。
死を意識したことだって少なくはない。
しかし、その度に立ち上がってきた。
今度こそは、と。
________でも、もう無理かもしれない。
絶望する根拠なら、探せば探すだけ見つかる。
業績が落ちる一方の会社。
もしもの時、再就職できる? この歳から可能なのか?
それとも起業? 無能の俺が?
親はどちらもガタがき始めている。
親父に限っては、少しボケてきている節もある。
介護ってどうすんだ?
俺一人っ子だし、もしもの時は仕事を辞めて実家に帰らないといけないよな?
彼女いない歴8年。
彼女どころか友達もいない。
はぁ? やばいな俺。
一生一人で生きることも視野に入れて人生設計しないといけないな。
いや、割と本気で。
考え出すとキリがない。
何だよこのクソゲー
リアリティー追求し過ぎて、肝心なエンターテイメント性が大きく損なわれていますよ、神。
今までは、悪戯に死を意識することはあった。
“どうにもならなかったら死ねばいい”
そう思うことで、一時的にでも目の前にある山積みの問題から目を背けることができたからだ。
しかし、実のところ、俺は本気で自死を選ぶ気概など持ち合わせていなかった。
でも、俺ももう30代半ば。
お得意の現実逃避は段々と通用しなくなってきているのに、
目の前の黒い靄は、昔に比べとてつもなく巨大に、そしてより鮮明に迫ってきていた。
________死ぬのも怖い、明日も怖い。 俺はどこへも行けない。
今日も日を跨いだサビ残を終え、オンボロアパートへ帰ってくる。
帰りを待つ人など、いない。
部屋の電気を点け、カバンを捨て置くとハンガーにかけた背広に消臭剤を吹きかける。
ネクタイを緩めると、冷蔵庫に貯めている発泡酒を開けた。
喉を鳴らし、一気に半分ほど流し込む。
「っくぅ・・」
別に酒が好きな訳ではない。
カップラーメンをすすり、ロング缶を一本空けてしまう。
腹ごしらえをすますと、シャワーも浴びず万年床ベッドに倒れ込んだ。
スマホ片手に、3ちゃんねるの掲示板を眺める。
きっと今の俺の目は、健全な人間のそれではないのだろう。
掲示板を物色していると、一つのスレッドタイトルに目が止まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【予知夢】未来が見えるけどなんか質問ある?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・新手のSSか何かか?」
だいぶん遅い時間だったが、どうせ週末の予定など何もない。
このまま3ちゃんねるをとことん満喫することを決めた俺は、そのスレッドを開いた。
内容はどうやらSSではなく、予知夢を見ることができると言うスレ主に対し、
競馬のレース結果を教えてくれだの、
近い将来地震等の大きな自然災害がいつどこで発生するのか教えてくれだの、
人気アイドルのプライベートエッチを動画に念写してアップロードしろだの、
勝手なことばかりが書き込まれていた。
それに対し、スレ主は律儀にレスポンスを返す。
競馬レースの結果については、
『この力を金儲けに使ってはいけない』と。
人気アイドルのプライベートエッチについては、
『人権に関わるし、そもそもその光景を見ることはできても、念写は専門外』
だと回答。
ただ、将来起こる自然災害については他の件とはうって変わり、日時や場所などの詳細をはっきりと書き込んでいた。
そして、
『これは嘘ではありません。対象の地域に家族、知人が住んでいる方は安全な地域へ転居してもらえる様に説得を試みてください』
スレ主はそう続けた。
「・・しょうもな」
未来のことなら何とでも言える。
と言うか、本当に未来が見えていたら、こんな仕様もないスレッドなんか立てていないだろう。
『未来が見えるってんなら、是非ともこの俺、日下部元が幸せになれる方法を教えてくれよ』
『そんな方法が本当にあるものならな』
俺はそう書き込むと、スマートフォンを枕に投げ捨てた。
時刻は午前3時。
テレビもつけていない部屋では、時計の秒針だけが音を刻んでいた。
________その時だった。
キィ・・ガチャン
玄関の方で音がなる。
俺はベッドから飛び起き、玄関へ続く扉を食い入るように見つめた。
「え・・?」
玄関の扉に備え付けられている郵便受けに、何かが投函される音がした。
新聞配達にしてはあまりに早すぎる。
そもそも俺は新聞など取っていない。
俺はしばらくの間、その場を動くことができなかった。
(・・き、気のせいだろ)
気を紛らわす為にテレビをつける。
しかし、全てのテレビ局は放送を終了し、カラフルなテスト映像を流していた。
それがまた俺の恐怖心を煽る。
布団に潜り込んだ俺は、スマホで過去のバラエティ番組を再生する。
俺はめっぽうビビり症なのだ。
しばらくすると気持ちも落ち着いてきた。
お酒も入っているせいか、段々と意識が薄れていく。
(・・でも、人気アイドルのプライベートエッチを本当に見れるんなら・・信じてもいいな、予知夢)
「・・って言うか、“プライベート” エッチって何だよ」
___________________________________
気づくと外は明るくなっていた。
いつの間にか寝てしまっていた様だ。
時計を見ると、もう昼の12時前。
「腹減ったな・・」
シャワーを浴び、上下ねずみ色のスエットに着替えると、食料確保のためコンビニに行くことにした。
玄関でサンダルを履き、ドアノブに手をかける。
「そういえば・・」
昨夜のことを思い出すと、俺は郵便受けを見つめる。
(・・酔っ払ってたのかな、俺)
俺は郵便受けの中を確認することなく、コンビニへと向かった。
___________________________________
コンビニでカレー弁当、レモンの炭酸ジュース、カリカリ君を買って戻ると郵便局員が俺の部屋の前に立っていた。
「あ、ちょうど良かったです。郵便物入れておきましたので」
そう言うと、郵便局員は去っていった。
(俺に郵便? 何か頼んだ記憶はないしな・・まぁ、いいや)
部屋に戻り、METUBEを見ながら買ってきたカレー弁当をあっという間にたいらげる。
その後、カリカリ君ソーダ味を舐めながら、溜まっていた郵便物を抱えベッドの上に勢いよく腰をおとす。
「どれどれ・・このハガキは・・ん?」
高校時代の同級生が結婚した様だ。
ハガキの裏には、同級生とそのお嫁さんが幸せそうに笑っている。
「マジか・・・って、えぇ!?」
二人の間には子どもが写っていた。
その幸せそうな家族の風景と、方や六畳のボロアパートでコンビニ弁当を貪り、満足する独り身スエットおじさん。
この落差に意識が飛びそうになるが、必死に自分に言い聞かせる。
「か、完全にデキ婚じゃん・・ハハッ・・友達でもなんでもねーのに、何でこんなもの送りつけてくるんだろな」
なんだか、なおのこと惨めな気持ちになってしまった俺は、黙り込んでしまった。
___________________________________
他はDMなどがほとんどで、次々にゴミ箱へ投げ捨てていく。
そして、最後に白い封筒が残った。
おかしな事に、宛先や差出人が書いていない。
「・・ん?なんだこれ」
そこで俺は、深夜に聞いた謎の物音を思い出した。
あれはやはり郵便受の音で、今俺が手にしているのは、その時投函されたものだとしたら・・
俺は、息を呑む。
あまりにも気味が悪すぎる。
これが投函されたのは深夜。
当然、郵送業者の営業時間ではないだろう。
と、言うことはだ。
夜中の3時に、何者かがこの真っ白な封筒を投函するだけの為に、俺の部屋の前にまで来た。
・・そう言うことになる。
目的が分からないし、一切心当たりもない。
とにかく、俺はその封筒の中身を確認しなければならなかった。
得体の知れない恐怖と、漠然とした期待の中、封を切る。
中には、三つ折りにされたA4サイズの紙が一枚だけ入っていた。
何が書いてあるのか、全く検討もつかない。
鼓動の音が聞こえるほどに、心臓が脈を打つのを感じる。
恐る恐る、開いてみるとそこには、
________何も書いていなかった。
「な、なんだよ・・これ」
きっと、何かのイタズラか、郵便局員さんが間違えて投函したのだろう。
手紙を丸めてゴミ箱に投げ捨てると、俺はベッドに倒れ込んだ。
天井を見つめる。
ところどころ斑点の様なシミ。
さっきの同級生家族の幸せそうな風景が浮かぶ。
「どうしろって言うんだよ・・」
土曜の昼下がり、エアコンを効かせすぎた部屋の中で、蝉の声だけが聞こえていた。
___________________________________
ボーッと、窓の外を眺める。
せっかくの週末なのに何も予定がない。
普通の30代なら、きっと休日は家族サービスしたり、恋人とレジャーに行ったり、友達と飲みに行ったり・・
人生の最盛期。
いろんな楽しい事を満喫しているはずだろう。
でも、俺は “普通” じゃない。
子供の頃は “普通” が嫌だった。
凡人とは何か違うものを持っていて、明らかに一線を画し、そしてどこか影がある。
そんな “特別” に憧れていた。
俺は、自身がそんな中2主人公属性を持っていると心のどこかで信じていたし、周りとは何かが違う自分に酔いしれてもいた。
でも、真実は、ただの社会不適合の痛い奴。
今はただただ、普通の人生を歩む皆が羨ましかった。
(・・来週の仕事の準備でもするか?)
思うだけ。
本当はやる気など全くない。
そう思うことで、俺は俺に対して “やる気はあります!”
そんなポーズを取りたいだけなのだろう。
俺はスマートフォンを眺めていると、ふとこう思った。
(3ちゃんねるの俺の書き込み、レスあったかな?)
こんな俺でも誰かと繋がっていたいのだろう。
自分が書いた便所の落書きにすら、人の関心や温もりを求めている。
実に救いようがない。
「ええと・・確かこのスレッドだったよな・・あったあった、俺の書き込み」
自分の書き込みを見つける。
少しずつ下にスクロールしていくと、最近の俺にとって他者との唯一の繋がりであろう、スレ主からのレスポンスを見つける。
「うぉ!きてるじゃん」
俺は思わず、声をうわずらせた。
こんなことで心躍る俺は、本当にもうダメかも知れない。
内容は次の通り。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
>> 387
以下、日下部さんの質問について
> 未来が見えるってんなら、是非ともこの俺、日下部元が幸せになる方法を教えてくれよ
> そんな方法が本当にあるものならな
私の力は常に見たいものが見える訳ではありません。
しかし、何故かはわかりませんが、私は恐らくあなたの夢を見ました。
その結果から申し上げると、あなたはまず幸せにはなれません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・はぁ?何だよ “まず幸せにはなれません” って」
スレ主が構ってくれたことに喜んでいた俺は、急に突き放されたような気持ちになる。
書き込みには続きがあり、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
>> 387
日下部さん、先程の続きです。
気分を害されていたら、ごめんなさい。
先程の回答には、あなたの夢を見た私なりの見解を書き込みましたが、厳密に言うと、あなたが幸せになれるかどうかは “分からない” と表現した方が正しいでしょう。
と言うのも、あなたはこれから私達と同じ困難に直面します。
その時にあなたがどんな選択をするか。
それにより、あなたの未来は動脈から伸びる毛細血管のように、幾重にも枝分かれしており、どのように展開されるのかは私にもわかりません。
もしかすると、当たり前のことを言っているように聞こえるかも知れません。
しかし、普通の人と違うのは “本当に分からない“ ということです。
普通の人にも、日下部さんと同様にあらゆる未来の可能性があります。
でも、それはあくまで可能性というだけであって、進む未来が変わることは、実際はまず有り得ないのです。
私も難しいことは分からないのですが、因果律を乱すほどの大きな事象を起こさない限り人の未来を変えることはできないようなのです。
所謂、運命ってやつですね。
しかし、どうやらあなたは、他者、そしてあなた自身の運命を揺るがすほどの力を得ることになります。
しかし、少しでもその力の使い方を誤ると、身を滅ぼすことになるでしょう。
そういった意味で、“まず幸せにはなれません” と申し上げた次第です。
茨の道だと思います。
どうか、ご健闘ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スレ主の書き込みを読み上げた後、俺はしばらく呆気にとられていた。
「ちょっと何言ってるのか分からないです」
「・・って言うか、これ以上まだ困難待ってるんすか・・俺の人生」
従順な心を弄ばれた俺は、深いため息をつく。
そして、午後の心地よい眠気に身を委ね、そのまま眠りに落ちてしまう。
________俺は気づけなかった。 いや、一体誰が気づけただろう。
このまま延々繰り返されると信じていた日々。
そこに生まれる僅かなほころびに。
ゴミ箱の中、丸めた紙屑。
そこに浮かび上がるは呪いか、それとも
本田翼似の女子が書いています。
もし少しでも引っかかりを感じていただけたら、評価、ブクマ等々よろしくお願いします。
感想にはなるだけ、返信をしたいと思っています。
何もあげられませんが、少しでも、超エキサイティンッ!!
そんな物語を描ける様、精進して参ります。
本田翼似の女子が書いています。