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抜き差しならない俺たちの関係  作者: 奈月沙耶
1話 文化祭の憂鬱
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23.仲直り

「こうちゃんが頑張ってるのに、褒めてあげなかったからだよね。ごめんね、こうちゃん」

「……そうだよ」

「こうちゃんのクラスのカフェ、すっごく良かった。お店みたいに居心地よかったもん。それにコーヒーの温度ね。私が猫舌だからちゃんと適温で出してくれたでしょ?」


 あのときのあの満足そうな笑い方は、気づいてるだろうなとは思ってた。ケンカ中でも千鶴を気遣っちまう、そもそも俺の方が負けているのだと改めて感じた。


「頑張ったんだよね、こうちゃん。エライエライ」

 俺の方が背が低かった頃なら頭を撫でた場面だろうが、今では俺の頭に簡単には手が届かない千鶴は、俺の左の肩をぽんぽん叩いた。

「こうちゃんは私の自慢の弟だもの」


 はは、なんだそれ。むやみやたらと泣きたい気分になってくる。それを隠すために俺は自転車に手をかけ声を張った。

「腹減った。早く帰ろうぜ」

「うん」

 千鶴も傍らに停めてあった自分の自転車に身軽く飛び乗る。


 少し肌寒く感じる夜気を切って進みながら、俺は香澄の話を聞いているときによみがえった記憶を反芻していた。

 ──わたしって、寂しい女の子なんだなって、そのとき、悲しくなっちゃったんだよね。


 そんなふうに、母さんの言葉が突き刺さったことが俺たち姉弟にもあった。俺がまだ幼稚園かそこらで、千鶴もほんのガキで、くだらないケンカをして興奮した千鶴が叫んだのだ。

「こうちゃんなんて知らない! こうちゃんなんてもうちづるのおとうとじゃないんだから!」


 すると、俺たちのケンカの様子を黙って見ていた母さんがすうっと青ざめ、ものすごい勢いで千鶴をしかった。なんて酷いことを言うんだ、あんたはお姉ちゃんなのに、と。

 普段はおおらかで優しい母さんだからこそ、トラウマになりそうな激しさで、ショックで泣き始めた千鶴を幼い俺が「ねえねをいじめないで」と庇うくらいだった。


 母さんがそんなふうに取り乱したのは、俺が養子だからこそだと今ならわかる。なら、千鶴が俺に「弟」を強要するのはなぜなのだろう。


 ときおり浮かぶ疑問が頭の中をよぎったけれど、あれやこれやで疲れきっていた俺は気だるく思考を散らしてしまい、早くメシと風呂をすませて眠りたいなどと、ぼんやりとそんなことしか考えられなくなっていた。

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