気付いたら異世界転移してたみたいだけど、何もないってどういう事??
トラックにはねられて死んだと思ったら、知らない場所だった。なんて最近よく読む小説にありがちな経験をしてしまった元30才現17才のケイトです。
異世界らしくカタカタで名乗ってみたものの、人っ子一人いないし、いくら歩いても街もないし木々が広がるだけで正真正銘の独りなんですけど何これ??
食べる物は困らないけど話し相手がいない。ゲームもスマホもない異世界でどうやって暮らせと。読みふけった本のチートネタを披露する相手すらいないんだけど、このチート設定オール無駄ですかそうですか。
見渡す限りの森を前に、思わず叫んでしまう。
「異世界って言ったらファンタジー!! それぞれに神様がいたり竜がいたり魔法があったりしてもいいでしょ。そんでもって異世界特典のチートをここぞとばかりに使ったり、どっかの王様と協力して危機を乗り越えたりとか。最終的には魔族とだって仲良く大団円。オールハッピー」
神様だって色々いて、四大元素に闇に光。知識に創造、鍛治にお酒絵に様々な神様が日本みたいに存在して、様々な種族を作っていくけどまずは竜。
ファンタジーの定番だよね。次に精霊に妖精。魔族だって初期種族でありそうじゃないか。文明は細々と発展していくけど、人が誕生する事によってやっぱ人間だしね。色々あるよね。脆弱だけど発展性はピカ一の人間と他種族との共存。あ、エルフも忘れちゃダメだよね。エルフも古代とかつきそうだし、竜といい勝負!
あぁ、でも魔法が主な発展方法だとやっぱり日本とは違うよね。まさしくゲームの世界で見た事ありますけど的な世界。脳内読んで。もしくはゲームして。わかるから。
なんて世界を期待したいじゃないか、何もないってどういう事!?
結局そこに戻りつつ、まるで物語を作るかのように設定を口にしていく。
人も人外も存在していないこの世界でやれる事といえば、妄想を垂れ流しての気分転換だけ。
異世界転生? 転移かどっちかわからないけど、特典だけはあってチートは貰ったらしいけど、披露する場所がなければとりあえずの暮らしを充実させるだけで終わってしまう。
本当に何もない世界。全てを見通す瞳なんていかにも厨二心が踊る名前をつけたものの、独りなので恥ずかしくもない。我にかえっても披露していないんだもん。とりあえずそれで見て、ここにあるのは森だけだった事を確認した。
色々と採れる謎果物や植物で衣服を作ったり紙を作ったりペンを作ったりと趣味用品も充実させてみたけれど、そんな一人っきりの暮らしが続けば飽きてくる。
年もとらないし、風邪もひかない。どんなチートよ不老か不死かわからないけど特典すさまじいなおい。せめてもふもふ寄越せやと口が悪くなるけど、当然咎める人物も存在していない。無駄に凝って機織りで布なんて織っちゃってるんだけど、知識チートもある意味すごいなって自画自賛。
こういう伝統は廃れちゃダメだよね。手間で高くても。なんて言った所で聞いてくれる存在は勿論なし。
「あー、寂しい」
何百年経ったかわからないけど、漸く、自分の口からそんな言葉が漏れた。
どんなにチート能力があっても、自分以外の存在を作る事は出来ないのだ。高級住宅いくつ分かわからない広すぎる自宅に倉庫。この場合は蔵っていうのかな。そこに溜め込まれた魔法をかけて劣化を防いだ織物や文化遺産の数々。披露する相手がいなければ、いつか自己満足も消え失せ寂しいだけなのだと、走って走って走って……ふと立ち止まって気付いてしまう。
ちなみに、何百年は何千年の間違いで。
垂れ流した妄想は層を作りその通りの世界を作り上げ。
神よりも上の創造主という立ち位置に収まっている異世界転生の主人公。
下の世界をチート能力で見通さなかったばかりに気付かなかった。自分の理想とした世界が広がっているなどと。
全くといっていい程に気付いていなかった。
「なんとか創造主様の元に行く事は出来ないのか?」
ある日聞こえた寂しいという言葉。ずっと会いたくても会えなかった遥か天上の世界の創造主様。その尊いお方の漏らした寂しいという言葉。今こそ立ち上がるべきではないかと、下の層の神々は考える。
だが、層は世界を越えた所でたどり着けない次元の壁。創造の名を与えられた神は腕を組んで考える。自分の創造と、物造りの神と知識の神の力を合わせればどうにかならないものか。
「何とかお会いしたいのだが」
名が上がった知識の神も考えるが、次元が違う。上から下に降りる事は出来ても、下から上に上がる事は出来ないのだ。存在そのものが違うのだから。
「せめて声だけでも届けられれば……」
そうすれば、降りてきて下さるかもしれない。そんな一縷の望みを持ち、声を届かせる方法を考える。
そんなある日、声が響いた。
「落ちるーーー」
なんてちょっと間抜けな。しかし重要な創造主の声が。しかし落ちてきたのは神の層でもなく、最下層まで突き抜けていく。
人が主に暮らし、下界の世界へと。